グリグリSS@PS2 お互いの居場所






「枝理さーん、おかわりー」
「あ、こっちもこっちもー」
「はーい。少々お待ちくださいねー」
 晩飯の時間。
 いつもとかわらぬ喧噪。
 けれど、俺は機嫌が悪かった。
「祐介、どうしたっしょ。なんか浮かない顔してるっしょ」
「……なんでもないよ」
 不機嫌な口調で返す。どうして機嫌が悪いと、全てに悪意をもって返そうとするのだろう。
 そんな自分に腹が立ち、ますます不機嫌になる。
「アレだな。祐介、面白くないんだろ。枝理さんが賄いをやってるのが」
「……そんなことないよ」
 一番星の言葉はイイところをついていた。
 けれど、不機嫌な意味としては違う。枝理さんが賄いをやってることは、良いことだと思う。家事を得意とする枝理さんだ。まさに適材適所だと思う。
 俺が気にしているのは、新学期になってあっと言う間に、枝理さんが学園のアイドルと化してしまったことだ。
 俺が枝理さんとつき合っているってことは、ごく一部の人間しか知らない。だから、野郎共が言い寄ってくる。
 枝理さんは少し引っ込み思案な人だから、戸惑いつつも笑顔で応える。
 その笑顔に惹かれて、また野郎がやってくる。
 悪循環。
「……俺の居場所、ね」
 つぶやく。
『俺の居場所』であったはずの枝理さんは、今や『みんなの居場所』になっている。
 わかってるんだ。
 これがくだらない嫉妬だってことは。
 でも、苛立つ自分を、押さえられない。
 だって、俺にはまだ。
 義男さんという、大きな壁が待っているのだから。

「……祐介さん」
「や、お疲れさま」
 就寝時刻も近づく頃、俺は食堂に顔を出す。そこでは必ず、枝理さんが掃除をしている。
 俺達が二人で会える、僅かな時間の一つだ。
「祐介さん」
「ん?」
「……なにか……ありましたか?」
「え?」
 枝理さんの不安げな顔に、ドキッとする。
「いや、別になにも」
「そうですか……お夕飯の時間、ちょっと元気無さそうだったから」
 見てくれていた。
 あの喧噪の中、枝理さんは俺を見つけてくれてたんだ。
 そんなことを、俺は幸せに思う。
「ほんとに、何もないんだ。うん、ちょっと……ちょっとだけ、イヤなことがあって、さ」
「そうですか……困ったことがあったら、言ってくださいね」
「枝理さんこそ、困ったことがあったら言ってくれよな。例えば、変な男につきまとわれてるとかさ」
「大丈夫ですよ。皆さん、優しいですし」
 枝理さんはテーブルを拭きながら、ニッコリと笑う。
 その笑みが、今の俺には痛い。
 参ったな。
 こんなに自分が、心の狭いやつだったなんて。
 俺はふう、とため息をつく。
「本当に、大丈夫ですか?」
「おわっ」
 うつむいた俺を覗き込むように、目の前に枝理さんの顔が表れた。俺は驚いて顔を上げる。
「すみません……そんなに驚くなんて……」
「あ、いや……そんなんじゃ……はは、ホントにダメだな、俺」
 こんな自分が、悲しくなってきた。
「ダメじゃないですよ。祐介さんは、私を救ってくれました。私に、居場所を作ってくれました。祐介さんがいるから、今の私がいるんですよ。だから、ダメじゃないです」
 枝理さんはやっぱり、俺に微笑む。
 でも今の俺にはまぶしすぎて、枝理さんの顔を真っ直ぐ見ることが出来ない。
「……今日はこれくらいにして、少しお散歩しましょうか」
「え? でも……」
「いいからいいから、ね?」
 枝理さんは雑巾を置くと、俺の手をひいて食堂を後にした。


 今夜は月が出ているので、比較的外は明るい。こんな田舎だ。晴れてさえいれば、天然の明かりが、俺達を照らしてくれる。
「まだ寒いですね。やっぱり山奥だからかな」
 まだ四月。去年の夏に比べたら、気温は段違いだ。
「そうだな。ちょっと、寒いかな」
 そう答えると、枝理さんはスッと俺の隣に近づき、腕を絡めた。
「……これなら、大丈夫ですか?」
「あっ、えっ、……うん……」
 咄嗟のことに戸惑いつつも、俺は頷く。
 右腕に絡む、枝理さんの左腕。
 そして、上腕に感じる柔らかな感触。
 鼓動が、加速する。
「祐介さん……」
「はい?」
 声がうわずる。
「私は……祐介さんの居場所に、なれていますか?」
「え?」
「祐介さん。ずっと何かを抱えているみたい。でも、私では何もできないの?」
 俺は枝理さんの顔を見る。不安げな顔。
「……そんなこと、無いよ」
 俺は微笑む。
「俺の器が……小さいだけ、だと思う」
「……器?」
「正直言うとさ、嫉妬してるんだよ。学園のみんなに、さ」
「……嫉妬、ですか」
「そう。頭ではわかってるんだよ。でも感情は、枝理さんを独り占めしたいって、思っちゃうんだ」
「独占欲、ですね。わかります。私も……ありましたから」
「枝理さんも?」
「はい。義男さんは社交的な人でしたから、大学にも友人も多くて。そんな中、私だけが枠の外にいるわけじゃないですか。やっぱり、似たような感情は抱いていたと思います」
「……やっぱり、義男さんがいるんだよな」
「え?」
 枝理さんは、何気ない気持ちで義男さんの話を持ち出したのだろう。
 この学園では、俺と枝理さんがつき合っていること以上に、枝理さんが未亡人であることを知っている人は少ない。
 日頃押さえている思いだからこそ、俺の前で出してしまうのだろう。
 でも今回は、それが痛い。
「……俺はさ、まだ義男さんも、越えられないんだよな」
 俺の言葉に、枝理さんは笑顔から悲しげな顔へと、表情をかえた。
「……ごめん……なさい……私……そんなつもりじゃ……」
 枝理さんが謝る。絡めた腕も、自然に離れていた。
「いや……俺も……悪いんだ……」
 気まずい雰囲気。
 俺達はしばし沈黙したまま、山道を歩く。

 一メートルの距離。手を伸ばせば届く、そんな距離を保ったまま。

「祐介さん……私……どうすればいいんでしょう……」
 あれから何分経ったのか、枝理さんが口を開いた。
 俺はその問いに答えるための言葉を、懸命に探し出す。
 自分の心と、もう一度向き合う。
 俺は、枝理さんに何を求める?
 俺が枝理さんに一番求めているのは、なんだ?

「祐介……さん……」
 不安げな表情の枝理さん。その表情は、彼女をなんだか小さく見せていた。
 ……そう……だよな。
「……いいんじゃない、かな。そのままで……」
「……え?」
 俺は一つ、大きく息を吐く。
「俺は、枝理さんに笑っていて欲しい、今が笑顔なら、それで良いんじゃないかな」
「でも……」
「俺と枝理さんとはまだ、出会って一年。一緒に過ごした時間は、二ヶ月にも満たない。そんなレベルでさ、嫉妬なんておこがましいよな」
「そんな……」
「まだ、義男さんには及ばないけどさ。俺には時間っていう武器があるんだ。まだ、大人になれるんだからさ。器だって、大きくしてみせるさ……」
 ぎゅっ、と。
 不意に、抱きしめられた。
「いいんです。無理しなくても」
 優しい、声。
「義男さんのことは、一生忘れられないと思います。でも、私が今好きなのは、祐介さんですよ」
 包み込むような。それでいて、はっきりとした意志を、俺にぶつけてくる。
「大丈夫ですよ。私は、祐介さんの居場所です。ちゃんと、みんなにもそう言いますから」
 そう言って、枝理さんは優しく微笑む。
「枝理さんっ」
 俺は枝理さんの身体を、強く抱きしめる。
 その言葉が嬉しくて。
 思わず、泣き出していた。
「ちょ、ちょっと……苦しいです……」
「あっ、ご、ごめん」
 慌てて離れようとする俺の身体を、枝理さんの腕が引き留めた。
「もう少し優しく……ね?」
「あ……うん」
 今度は、優しく抱きしめる。
 さっきとは逆に、枝理さんを包むようなイメージで。
「私が祐介さんの居場所であるように、祐介さんも……私の居場所なんですよ」
 胸元で、枝理さんはささやくようにつぶやく。
「うん……」
 そうだよな。
 俺達は、互いが居場所なんだ。
「俺……枝理さんが安心していられるような居場所になるよ」
「うん……私も」
 枝理さんは微笑む。
 そして。
 月明かりの下、俺達はキスをした。



 おわり。




 俺が望む後書き

 はい。グリーングリーンのSSです。とは言っても、今回はいつものではなく、PS2版に沿って書きました。キャラクターも、PS2版「鐘ノ音ロマンティック」版のみの新キャラです。
 ま、書いた理由は「偉く気に入ったから」なんで気にしないでください。もちろん気に入っているので、続きも書くと思います。ええ書きますとも!

 と、いうわけで(システムとか地味に難があると自分では思っていますが)是非、PS2版もよろしく。

 2003.08.21 と、いいつつまだ枝理さん一人しかエンディング見てない(ぉ ちゃある

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