グリーングリーンSS@PS2 「星空のバースデイ」






「で、祐介は何をあげるっしょ」
「……誰に?」
 俺の返事に、バッチグーは一瞬硬直した。
「なあ祐介……今の本気じゃ……ないよな?」
 一番星が、恐る恐るといった表情で俺を見る。
「そうでごわす。まさか祐介どんが知らないはずないでごわすよ」
 と、天神が言った。
「いや……ホントにわかんないんだけど」
「「「どうして枝理さんの誕生日を知らない」」」
「っしょーっ」
「でごわすかーっ」
「んだよーっ」
 三人の怒声が、俺の耳を貫いた。
 キーンという耳鳴りを感じながら、俺はしばし呆然とする。
 そしてきっかり三秒後。
「な、なんだってーっ」
 俺は、叫んだ。


「なんでお前らは知ってるんだよっ」
「何言ってるっしょ。鐘ノ音学園にいる女のデータは、すべてこの頭に入ってるっしょ」
 バッチグーは、どうだと言わんばかりに胸を張る。
「なんで俺に教えてくれないんだよ」
「まさか祐介が知らないだなんて、夢にも思わなかったっしょ」
「そうそう。だって祐介は、枝理さんとつき合ってるんだもんな」
 バッチグーの言葉に、一番星が追い打ちをかける。

 確かに……そんな話はしなかったかも……。

「あーあ、枝理さん悲しむっしょ」
「そうそう、誕生日に彼氏からのプレゼントもないでごわすから」
「……もしかしてこれは、俺達にチャンスが?」
 さっきまで呆れ顔をしていた三人の表情が、変わる。
「まてまてまてっ、まだ俺は嫌われてないぞっ」
「でも、嫌われるのは確実っしょ」
「そ、そんな……ことは……」
「おなごはイベントを大事にするでごわすからねえ」
「そうそう。このドクター田中の本にも書いてあるぞ。『女を落とすには、イベントを逃してはならない』と!」
 や、ドクター田中は信用できないが。
「と、とにかく明日ちゃんとプレゼントを渡せばいいんだろっ」
 俺はすっくと立ち上がると、部屋を飛び出した。

 +

「とは言うものの……何をあげれば良いんだろう……」
 男子寮を飛び出したものの、アテがあるわけじゃない。俺はトボトボと歩きながら、考える。
 そもそも女の子にプレゼントなんて、何をあげれば良いんだろう。
 山の中にたたずむ、全寮制の鐘ノ音学園。
 ここで手に入るものは、ごくわずかだ。
 しかし、何かを渡さなければ。
 でも。
「うーむ……」
「何か悩み事ですか? 祐介さん」
「うん……ちょっと枝理さんの」
「私の?」
「ってあ、いや、枝理さん?」
 目の前に、枝理さんが立っていた。
「どうしてこんなところに?」
「どうしてって……えーと……お仕事ですから」
「え?」
 俺は慌ててあたりを見渡す。
 食堂だった。
「あー、そりゃそうだね」
 どうやら無意識に足を食堂に向けていたらしい。
 すごいな、俺。
「それで……私がどうかしましたか?」
「あ、いや、えーと……」
 何を言えばいいのか、一瞬悩む。
「明日、誕生日だね」
「え? 知ってたんですか?」
 驚いた顔をする枝理さん。
「あ、まあ……そのくらいはね」
 今日聞いたことは、黙っておく。
「で……明日、時間あるかな。渡したいものが、あるんだ」
「明日……ですか」
「うん、少しの時間で、いいんだけど」
「そうですね……では、夕食が終わったらで、いいですか」
「うん、そうだね。じゃあここに来るから」
「はい。待ってますね」
「じゃあ」
「はい。また」
 僕は枝理さんに手を振って、食堂を離れた。
「さて……」
 枝理さんが見えなくなったところで、僕はため息をついた。

 これで、後戻りできなくなったな。


 +


「あーっ、わかんねーっ」
 押入で、俺は叫んだ。
「うるさいでごわすよ、祐介どん」
「ああ、悪い、てんじ……」
「ぐごー」
「って寝言かよ」
 ビシ、とツッコミをいれる俺。
 そしてため息。
「ふう……」
 結局、就寝時間までとぼとぼと歩き回っていたが、何も思いつかなかった。
 期限は明日。といってももう夜だから余裕はない。
 そして、明日も授業がある。
 今から街に買いに行く暇なんか、もちろんない。
 八方ふさがりだ。
 どうすれば、いいんだろう。
 俺は枝理さんに、何を贈ればいいんだろう。

 俺は……。

 俺は枝理さんに……。


 +


『くおらあっ、お前ら朝じゃあっ』
 スピーカーから流れる、轟の奇声。
「朝?」
 考えているうちに、朝になってしまったらしい。
「うああ、どうしよう……」
 慌てても、時間は待ってくれなかった。


「おはようございます。祐介さん」
「あっ、おっ、おはよう」
 朝の食堂。
 三度の食事の時間で、一番慌ただしい時間。
 それでも、枝理さんは俺を見つけ、挨拶をしてくれる。
「今日、楽しみにしてますね」
「あっ、うん……」
 曖昧な返事。
「祐介、早くするっしょ」
「あっ、悪いっ」
 次々に押し寄せる生徒達に押し出され、俺は仕方なくテーブルで食事を始めた。


 +


 昼飯は、購買の焼きそばパンで済ませた。
 なんとなく、枝理さんに顔を合わせづらかったからだ。
「楽しみに、してるんだろうな……」
 何もないと言ったときの、枝理さんの落胆した顔を想像した。
 ぶんぶんと、首を振る。
 そんな表情は、させたくない。
 何か無いか、何か……。


 +


 そして、そのときが来た。
「ちょっと、待っていてくださいね」
 枝理さんは、大量の洗い物。
「あ、俺も手伝うよ」
「あっでは床のほう、お願いできますか?」
「了解」
 久しぶりに二人でする、片づけと掃除。枝理さんが鐘ノ音に『就職』してからは「私の仕事が無くなっちゃいます」とあまり手伝わなくなった。
 ……まあ最近は、期末試験が近いってのもあったけど。
 程なく、掃除が終わる。
「はい。こっちも終わりました」
「それじゃあ、行こうか」
「え?」
「枝理さんに、見せたいものがあるんだ」
 そう言って、俺は枝理さんの手を引いて歩き出した。


「ここ……ですか?」
 着いたのは、鐘ノ音学園の屋上。
「うん。ここが、俺のとっておきだから」
「とっておき?」
「そう。つらいことがあったりしたとき、俺はいつもここに来てたんです。もっとも、最近は来てなかったけど」
 俺はそう言って、枝理さんに振り向いた。
「俺、枝理さんに謝らなきゃいけないんです」
「え?」
「俺、枝理さんへの誕生日プレゼント、用意できませんでした。ごめんなさい」
 俺は枝理さんに向かって、頭を下げる。

 結局、何をあげれば良いのかわからなかった。
 何をあげれば枝理さんが喜ぶのか、全くわからなかった。
 だから、謝る。

「そう……だったんですか」
 やっぱり、枝理さんは落胆しているのだろう。
 その顔を見るのは、つらいけど。
「てっきり、これが誕生日プレゼントなのかと思っていました」
「え?」
 枝理さんの言葉に、俺は頭を上げる。

 枝理さんは、微笑んでいた。

「ここに来ると、星がこんなに近く見えるんですね」
 枝理さんは、空を見上げる。
 今日は雲一つ無い天気だ。都会の煙や灯りがないこのあたりは、星がすごくよく見える。
「こんなにステキな場所を教えてもらえるなんて、最高の誕生日プレゼントですよ」
「枝理さん……」
「ちょっと、座りましょうか」
 枝理さんは、俺の隣に腰掛ける。
「ね。祐介さんも」
「う、うん」
 つられるように、俺も枝理さんの隣に腰掛けた。
「本当は、誕生日があまり好きでは無かったんです」
「え? どうして?」
「だって、私のほうが祐介さんより年上じゃないですか」
 恥ずかしそうに、枝理さんは微笑む。
「……だから、誕生日の話が出なかったのか」
「ええ……でもまさか祐介さんが知ってるだなんて、思わなかった」
「あー……実は俺、昨日知ったんです。アイツらに教えてもらって」
「ああ、それで皆さん知ってたんですね」
 枝理さんは苦笑する。
「ごめんなさい。枝理さんがそんなこと気にしていたなんて、思わなかったから」
「いいえ。私の方こそ、こんなつまらないことを気にしていて」
 そう言って、お互いに顔を見合わせる。
「……ふふっ」
「……ははっ」
 同時に吹き出した。
「そっかー、でも良かった」
「え? 何がですか?」
「枝理さんが、ここを気に入ってくれて」
「……ええ、すごく気に入りました。だってほら、手を伸ばせば、星が掴めそう」
 枝理さんは、ゆっくりと右手を伸ばす。
 その手は、本当に星を掴んでしまいそうで。
 その仕草に、俺はドキッとした。
「……どうしました?」
「いや……綺麗だなって……」
「え?」
「あ、星が、星がキレイ!」
 俺はそう言って、空を見上げる。
 瞬いている、無数の星。
 でも、そんな星空よりも。
 枝理さんは、綺麗だった。
「……ありがとう」
 耳元で声が聞こえた後、頬に暖かい感触。
 びっくりして、俺は枝理さんを見る。
「……ふふっ、お礼ですよ」
 枝理さんはいたずらっぽく笑うと、そのまま俺を見つめた。
 そして、ゆっくり目を閉じる。
「あー……」
 その意図に気づいた俺は、ゆっくりと顔を近づけ───。
「……誕生日、おめでとう」
 星空の下で、俺達はキスをした。





  俺が望むあとがき

 えー、枝理さんの誕生日記念です。
 しまった! 結婚バージョンを書けば良かった!
 ……などとあとがきを書きながら思うわけですが(苦笑)
 と、いうわけで掲示板で指摘を受けるまで、今日が枝理さんの誕生日だってことをすっかり忘れていたわけで、このあとがきも焦って書いております。
 突貫工事でありますが、僕の思いは祐介が代弁してますのでまあいいでしょう(ぇー
 では、次の作品で。

 2004.06.22 山吹枝理さんの誕生日に ちゃある

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