朽木若葉 誕生記念SS ずっと……(暫定版)  遠くまで響く、鐘の音。  開く扉。  私は、今日───  ───高崎若葉に、なる。  + 「就職したかと思ったら、もう結婚かよ」  そう言ったのは、一番星先輩。 「ああ、無事就職できたら結婚しようって、決めてたんだ」  と、高崎先輩……じゃなかった。祐介さんが答える。  ++  出会ってから、五年。  祐介さんは一浪して大学に行き、私は鐘ノ音学園を卒業した後お花屋さんのアル バイトを始めた。そして、祐介さんは大学を卒業して無事就職。私もアルバイトか ら正社員に昇格した。  言われたのは、その年の五月。 「若葉ちゃん。結婚しよう」 「……でも」  障害はたくさんある。私はお姉さま───朽木双葉に創られた式神で、人間です らない。けれど祐介さんは、それがなんでもないことのように笑った。 「何とかなるよ。今までだって、何とかなったじゃないか。な、結婚しよう」 「……はい」  そして私たちは、明日、式を挙げる。  +++ 「……しかし誰だ? 鐘ノ音学園で結婚式を挙げようなんて考えた奴は」  祐介さんの言葉に、集まったみんなが顔を見合わせる。けれどその問いに答えら れる人はいなかった。  みんなで話していたときに鐘ノ音学園の話になり、気がつけばそこで結婚式を挙 げる話になったと、そういうわけなんです。 「ま、いいんだけどさ。あそこは、俺と若葉が出会った場所だからな」  祐介さんはそう言って私を見る。 「そうですね」  私は照れながらも、笑顔を返す。 「おいどんも早く彼女が欲しいでごわす〜」  私たちの様子を見ていた天神先輩が、うらやましそうな目で私たちを交互に見る。 「そういうのは、運命だからな」 「ま、気長に待つっしょ」 「樹どんもバッチグーも、もう彼女がいるからそんなことが言えるんでこわすよ」  天神先輩が涙目で言う。確かに小林先輩も伊集院先輩も、すでに恋人がいる。伊 集院先輩は春乃先輩とまだお付き合いしているし、小林先輩は───。 「ねえ樹。私たち結婚したら、高崎は私たちの弟になるんだよね」 「ああ、そういえばそうだね」  なんと、双葉お姉さまとつき合っているのだ。 「げげ、そう言えば……って、朽木はどっちにしても義理の姉になるんだよな」 「あははは、今日から高崎のこと、弟くんって呼ぼうかな」 「うわあ、やめてくれぇ」  祐介さんの大げさなアクションに、みんなが笑った。  ++++ 「……みんな、呼んだんだ」 「はい! お世話になった方々ですから」  私は元気良く返事をする。 「だからって……総長や轟まで呼ぶかね?」 「私たちがお世話になった人ですから」 「……そっか、そうだよな」  若葉はそういうヤツだったよ、と祐介さんは笑った。 「その、ドレス……やっぱ似合うな」  純白の、胸元の大きく開いたウェディングドレス。お姉さまと一緒に選んだドレス。  似合うって言ってくれたことが、嬉しい。 「さあ、行こう」 「はい」  祐介さんの言葉に頷き、私は祐介さんの手を取った───。  +++++ 「若葉、ねえ若葉」  その声に、私は飛び起きた。 「お、お姉さま? あれ? ウェディングドレスは」 「はあ? 何寝ぼけてんの? アンタやっぱ高崎に会ってから、おかしくなってん じゃない?」  お姉さまは呆れた顔で、私を見る。  言われて周りを見ると、そこは見慣れた教室だった。 「……夢でしたか……」 「何? 夢なんか見てたの?」 「はい……」 「やっぱアンタ、おかしくなってるわね」 「……そうかもしれないですね」 「んー、ま、いっか。とにかく帰るわよ。まったく、なんであたしがアンタを迎え に来なくちゃならないのよ」 「すみませんお姉さま」 「罰として、帰ったら歌ってもらうからね!」 「はい!」  私はお姉さまの後をついて行く。  あの夢は……。  あれ、思い出せない。  でもたしか、高崎先輩の夢だったと思う。  どうして高崎先輩の夢を?  わからない。  わからない、けど。  心の中を、高崎先輩が占めている。  そして私の心を、きゅんと鳴らしている。  end  僕が望むあとがき  殺人スケジュールの中、若葉ちゃんのために書きました。生誕記念です。  ……殺人スケジュールだったので、暫定版がせいぜいでしたが。  一応完全版を書く予定です。オチも夢オチから変えるかも知れませんし、結婚式 を細かく書きたいかな、とか思ってます。  ……オンリーイベントに出そうかな?  では、また次の作品で。  2002.05.24 ちゃある