千種生誕記念SS「結婚」






 遠くまで響く、鐘の音。
 開く扉。
 私は、今日───

 ───高崎千種に、なる。


 +


「学生結婚とは、いい身分っしょ」
「まあな……でも、待てなかったんだ」
 伊集院君の言葉に、祐介君が答える。
 祐介君は、今年一浪して大学に入ったばかり。そして私は、私立高校の教師とラジオの深夜番組のパーソナリティという、二足のわらじを履いている。
「大学卒業まで、待てなかったのでごわすか?」
「そうっしょ。俺とハニーだって、互いに大学卒業まで待つって決めたっしょ」
「……ま、いろいろあってさ」
 天神君と伊集院君に迫られながらも、祐介君は困った表情のまま、苦笑。

 さすがに仲のいい友達でも、言いづらいわね。


 ───私のお腹の中で、新たな命が育まれているなんて。


「やっぱ先生。綺麗ですね」
「ふふっ、ありがとう」
 私たちの結婚式は、予算の関係もあって手作り。このウェディングドレスも、手製。
「やっぱ、いいなあ……」
「……なにが?」
「先生、胸が大きいからそういう胸が開いたドレス、似合うんですよね」
 そう言って彼女───朽木双葉───は、自分の胸を見る。
「ふふっ、でも、良いことばかりじゃないわよ。肩も凝るし、男の子からの視線も胸に集まるし」
「でも」
「はいはい。お互いの悩みはやっぱり共有出来ないわね」
 私はかつての───とは言ってもわずか一ヶ月だけど───の教え子に、優しく微笑む。
「そろそろ時間ですよー」
「はーい」
 入り口に顔を出した若葉さんに、私は答える。
「じゃ、行きましょうか」
「ああそうだ、先生」
 双葉さんが、私を呼び止める。
「うん? なあに」
「……結婚、おめでとうございます」
「ありがとう、双葉さん」
 私はそう返事をして、扉に向かった。


 +


 結婚式は多少のハプニングもあった(伊集院君や天神君が暴れるのは計算済み)けど、おおよそ問題なく進み、やがて祐介君の挨拶の時間となる。
 私の隣で、祐介君はすうっと深呼吸をして、マイクを持った。
「えー、本日は僕たちの結婚式に集まってくれてありがとうございます。えー、僕はまだ学生という身分ですがこのたび結婚することといたしました。それは……その……」
 祐介君の声が小さくなる。そして、チラリと私を見た。
『がんばれ』
 小声で囁く。祐介君は、意を決したように頷く。
「……えー、生まれてくる子供のために、やはり父親は必要だと思うからです」
 途端に会場がざわつく。「マージーかーよー」とか特徴的な声で叫んでるのは、堀田君かしら。
「……その……まだ社会的にも未熟な僕ですが、千種や生まれてくる子供共々、今後ともよろしくご指導お願いいたしますっ」
 ペコリと頭を下げる祐介君。私もそれに習って慌てて頭を下げる。
 カンペも用意してないから、支離滅裂なスピーチだったけど。
「祐介君らしいわね」
「……茶化さないでくださいよ」
 頭を下げながら、私たちはそんなことを話した。


 +


「頑張れよ、お父さん」
「ああ」
 一番星君の言葉に、祐介君は頷く。
「千種先生に頼ってるようじゃまずいからな。何とかするさ」
「……大学、やめるのか?」
 一番星君の顔が曇る。
「考えたけど、先生に止められたよ」
「当たり前でしょう。浪人までして入った大学なのよ。それをすぐやめるだなんて、ご両親に顔向け出来ないでしょう?」
 祐介君が肩をすくめたところに、私の言葉。
 当面暮らしていくお金は、ある。だから、大学を中退してまで働くことはない。
「……ということでさ」
「うらやましい身分だな」
「何言ってんだ。日々のプレッシャー、きついんだぞ」
「はいはい。まあ俺に言わせりゃ、千種先生をオトシた時点で何よりもうらやましい身分だと思ってるからな。そんな泣き言は聞く耳持たないぜ」
 一番星君が笑う。祐介君はというと、私を横目で見て照れた表情。
「じゃ、二次会の会場で待ってるからな」
「おう」
 そう言って、一番星君が去っていく。
「ね、祐介君」
「ん?」
「……後悔、してない?」
 私に赤ちゃんが出来たとき、当然堕ろすという選択肢もあった。けれどそうしなかったのは、祐介君が強く反対したから。
「何言ってんですか、僕は何も後悔してないですよ。僕はもう、二度と放さないって決めたんですから。それがちょっと早くなっただけじゃないですか」
 祐介君は、真っ直ぐに私を見る。
 本当に、真っ直ぐなところは変わってないわね。
 そのことが嬉しくて、思わず涙腺が緩みそうになる。
「……じゃあ、一つだけお願い」
「なんです?」
「その『先生』っていうの、早く直しなさい」
「あっ、ああ、そうですね。はは」
 頭を掻く祐介君。
「じゃあ……千種」
「なあに? 祐介」
「…………」
「……ぷっ」
「なんでちゃんと言ったのに笑うんですか」
「そういうあなただって、顔が笑ってるわよ」
 そして、二人で笑う。

 ね、祐介。
 こんな、順序がバラバラな私たちだけど。
 きっと、うまくいくよね。


 ……ね。


 おわり




 俺が望む後書き

 ごめんなさいごめんなさいっ。
 私、歌いますからっ。
 ……というわけで、久々の『グリーングリーン』です。
 今回は千種先生。しかも初めてというパターンです。
 一応全員の誕生記念SSは結婚がテーマと決まってるので、そんな感じにしました。
「出来ちゃった結婚」なのは祐介ならアリかな、と。
 だってアンタ。PC版でのエロシーンは全部アレですからね(苦笑)

 で、とりあえず書いてみましたが、内容はやっぱり『ごめんなさい』ですね。
 まとまらないままで申し訳ないです。
 ……来年辺りには、直したいなあ(ぉ

 では、そゆことで。

 2002.12.03 ちゃある。

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