グリーングリーンSS 幸せに続く道






「お疲れさまでしたっ」
 僕はペコリと頭を下げると、バイト先のファーストフード店を出た。
 そしてその足で、向かいの喫茶店に走る。
 カラン、とドアが音を立てると、隅で本を読んでいた彼女が、頭を上げた。
「ごめん、なかなかキリが良くなくて」
 僕は彼女がいるテーブルに駆け寄ると、真っ先に謝る。
「いいんですよ。お仕事ですから」
 そう言って、早苗ちゃんはニッコリと笑った。


  +


 彼女と再会して、もう半年になる。
 再会の日から、僕は早苗ちゃんと暮らし始めた。いきなり一緒に暮らすことにはさすがに抵抗があったが、朽木双葉の強引さに負けたというのが正直なところだ。もっとも、振り返ってみればそれで良かったと思うので、僕は双葉に感謝すべきなのだろう。
 なによりも双葉がいなかったら、僕はこうして早苗ちゃんと再会することなど無かったはずなのだから。
「私も、何か出来ればいいんですけど」
 早苗ちゃんは、半分くらいに減ったクリームソーダを口にしながら言った。
「いいって。早苗ちゃんはとりあえず勉強、だろ?」
「ごめんなさい。なんか、高崎先輩にすごく迷惑をかけてますね」
「だーかーらー、言いっこなしだろ?」
「はい。そうでした」
 早苗ちゃんは今、大検を受けるために勉強している。さすがに塾に行く余裕はないので、僕の実家から古い教科書を引っぱり出してそれを使っている。
 僕はバイトと大学の合間に、早苗ちゃんの勉強を見る。
 早苗ちゃんは勉強の合間に、家事を引き受けてくれている。
 そして、

 ときにはこうして、二人でデート、というわけだ。

「さて、そろそろ時間かな?」
 僕は時計を見る。今日の予定は映画。ありきたりだが、夕方から行ける場所となると案外限られてしまうのだ。
 注文したコーヒーを一気に飲み干し、僕は立ち上がる。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
 早苗ちゃんはクスッと笑う。
「まあでも、僕のせいだし」
 本当はここで少しゆっくりするつもりだったが、バイトが長引いてしまったのだから仕方ない。
 時間に間に合うだけ、よかったというものだ。


  +


 僕達は、手を繋いで映画館までの道を歩く。
 早苗ちゃんの歩幅に合わせ、ゆっくりと。
「もう少し早くても、いいですよ」
「そう?」
 僕は早苗ちゃんの手を引き、少しだけ足を早める。
 それでも街を歩く人々からは遅く、次々に抜かれていく。
「ごめんなさい。私が歩くの遅いから」
「いいよ。それだけ早苗ちゃんと歩く時間が長くなるってことだから」
 僕の言葉に、早苗ちゃんは照れたようにうつむいた。


  +


 今日見た映画は、サイボーグと人間が恋に落ちる話。
 交通事故で一度死んだ青年は、政府の秘密組織により、人間そっくりの機械の身体を与えられる。
 政府の任を受け、青年はある家族と生活をするが、そこにいた少女と恋に落ちる。
 政府からの命令、そして自分の身体。青年は悩み、苦しむ。
「自分はもう、人間じゃない。だから、君を幸せにすることはできない」
 青年は家族との別れを選択する。自分は、少女一人を幸せには出来ない。けれど、機械の身体で平和を守ることはできる。それが、少女に対する愛なのだと。
 青年と少女は、笑顔で別れる。その裏に、大きな悲しみを隠して。


「なんだか泣いてしまいました」
「そうだね」
 見終わった後、僕達はレストランで食事をとりながら映画を振り返る。
 まだ早苗ちゃんの目は赤い。かくいう僕も、きっと赤いのだろうけど。
「やっぱり……だめですね……」
「なにが?」
「人間の身体じゃないと……幸せにできませんよね……」
 そう言って、早苗ちゃんは悲しげに微笑む。
「何言ってんだよ。僕は、今早苗ちゃんといてすごく幸せだぞ」
「でも、私は人間じゃないんですよ。私は双葉さまに創られた、式神なんですよ」
 早苗ちゃんは、テーブルの上に置いてあったサボテンを両手で抱きしめる。
 そのサボテンは、早苗ちゃんの本体。
 今とっている人間の姿は、式神としての仮の姿。
 元気に走れるようになっても、好きなだけ勉強が出来るようになっても。
 人間ではない、ということが、早苗ちゃんの上に大きくのしかかっていたんだ。

「なあ、早苗ちゃん。式神ってさ、何のためにいるんだと思う?」
 ふと思いつき、僕は早苗ちゃんに問いかける。
「はい。人の為に、そして主人の役に立つために式神は存在します」
「だろ? 早苗ちゃんは僕の式神なんだから、早苗ちゃんは僕を幸せにしてよ。僕の役に立ってよ。じゃないと、生まれ変わった意味がないだろう?」
「はい……でも……」
「早苗ちゃんが幸せになってくれるなら、僕も幸せなんだ。意味はちょっと違うけど、役に立ってるんだよ」
「はい……そうですね」
 早苗ちゃんは両目に大きな涙の粒を浮かべて、微笑む。
「さ、食べよう。せっかく注文したんだから、さ」
 僕が微笑むと、早苗ちゃんは小さくうなずいた。


  +


 僕達は、手をつないで夜の街を歩く。
 早苗ちゃんの歩幅に合わせ、ゆっくりと。
「もう少し早くても、いいですよ」
「そう?」
 さっきと同じ会話に苦笑しつつ、僕は少しだけ足を早める。
 早苗ちゃんの動きを見ながら、早苗ちゃんが早足にならないように。

 きゅっ。

 不意に早苗ちゃんが、繋いだ手を強く握った。
「ん? どうかした?」
「いいえ、なんでもありません。けど」
「けど?」
「高崎先輩の手が、温かかったから」
「そっか」
 僕も繋いだ手を、少し強く握る。
「例えばこういうのも、幸せだよね」
「え?」
「早苗ちゃんは、たったこれだけで僕を幸せにしてるんだよ」
「……そう……なんですか?」
「うん。幸せってのは結構簡単になれるもんだと、僕は思ってる。だからさ、気負わずに行こうよ」
 幸せは、人それぞれだから。
 人と式神は幸せになれないなんて、そんな言葉で縛る必要はないんだ。
「な?」
「はい……高崎先輩」
「あ、それと……前から言おうと思ってたんだけど」
「なんですか?」
「今度から僕のこと……名前で呼んでくれないかな」
「えっ……」
「いつまでも先輩じゃ……な、と思って、さ」
「はい……祐介さん」
 言葉と同時に、僕の手を握る早苗ちゃんの手に、力がこもる。
「お、おう」
「なんか、照れちゃいますね」
「そう……だな」
 二人で苦笑。

 でも、慣れるさ。
 先は長いんだから。

「二人で、幸せになろう」
「……はい。祐介さん」
 僕達は寄り添って、駅への道を歩く。
 繋いでいた手も、いつしか腕を絡めている。

 そう。
 少しずつ幸せになればいいさ。

 まだ、僕達の道は続くんだから。




 おわり




 僕が望むあとがき


 早苗ちゃんネタです。聖誕祭にちと暗いネタを書いたら明るい方がいいといわれたので、ちょっと書いてみました。
 けれど早苗ちゃんで明るいネタを書くのは難しいので、「もしも生まれ変わったなら」の続編としてみました。いかがだったでしょうか。
 グリグリも春にコンシューマ版が出るということで楽しみです。僕はPS2を持ってないので、同時購入かな、とか(笑)
 まだまだ続くグリグリワールド。自分も広げて行けたらと思います。
 では、また次の作品で。

 2003.02.13 ちゃある

 ……などと書いたのが約1ヶ月前。気がつけばTVアニメ化まで決定とは(苦笑)

 2003.03.06 少し修正 ちゃある

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