グリーングリーン Side Story 『もしも生まれ変わったなら』




  プロローグ 三年前、夏


「ねえ、先輩」
「ん?」
「生まれ変わりって、信じますか?」
 急な早苗ちゃんの質問に、僕は言葉を詰まらせた。
 生まれ変わり。
 輪廻転生ってやつか。
「私は、信じてるんですよ。……それでね。今度生まれ変わったら、思いっきり、走ってみたいんです」
「そっか。それなら僕も、信じるよ。……でも、早苗ちゃんは今、生きてるんだから、今を大切にしないとな」
「……そうですね。高崎先輩と一緒に居られますからね……でも、私がもし、生まれ変わったら、必ず、高崎先輩に会いに来ますよ」
「はいはい。わかったから。もう疲れただろ? 今日は、帰ろう?」
「……はい」



  #1

 目が覚めると、枕が塗れていた。
「また……あの夢か……」
 僕は寝間着の袖で涙を拭った。

 あれから三年。

 けれど、僕は何度も、早苗ちゃんの夢を見る。
 それも決まって、最後の瞬間。
 自分の背中で、何かを話す早苗ちゃん。
 そして、自分の背中で、ゆっくりと冷たくなっていく身体。
 涙する、自分。


 僕はあれから、一浪して東京の三流大学に滑り込んだ。バッチグーや一番星、天神なんかの連中とは、卒業以来会っていない。まだ手紙のやりとりで、たまには会おうみたいなやりとりはあるけど、なかなか四人のスケジュールが合わず、いつも空振りしている。

 今日は休日だ。たまには外をぶらぶらするか。


 ……あんな夢も、見たしな。


 机の上に置いてあるPHSを手に取る。もう旧式の、PHS。何しろ四年ものだ。部屋に電話がないので、一応契約し、こっちからかけられるようにもしてある(ってか、親に半強制的にさせられている)。
 でも、機種交換はしていない。どうせ電話もかかってこないし、複雑な機能はいらないというのが一つ。


 もう一つは。



 早苗ちゃんからのメッセージが、このPHSに残っているからだ。



  #2

 自分自身関東圏の人間だったこともあり、東京での一人暮らしはそれほど困るものでもなかった。長期休暇でなくてもふらりと実家に帰れる(そして食料を調達できる)のは、恵まれていると思う。
 僕は何となく、池袋の街を歩いた。特に目的は無い。本屋とCD屋、後はどっかで昼飯でも食えれば、と言う程度だ。


 スクランブル交差点で、信号待ち。車が走っていないからと言って歩き出す人間が何人か。
 ああいう、細かい決まりを無視するヤツに、少し腹を立てる。
 自分の中では「決まりを破って何かが起こった場合、どれだけ人に迷惑をかけるか」がラインだ。
 だから、信号無視は頭にくる。

「ほら、車来てないよ。さっさと行く」
 後ろで、女性の声がした。
 何となく、聞いたことのある声。
「でも、信号が赤ですから」
「そんなの関係ないでしょ」
 何言ってやがる。
 僕は後ろを振り向いた。


 そこにいたのは……。



「早苗ちゃん……?」



 そんなバカな。

 でも。



 そこにいるのは。



 明らかに、美南早苗だった。



 彼女と、目があった。
 彼女は、僕を見て驚いた表情を見せる。
 唇が、何かを呟く。
 でも、何を言ってるかが聞き取れない。


「アンタ……高崎?」
「え?」

 その言葉に、我に返った。
 早苗ちゃんの後ろに、見たことのある姿。
「朽木……双葉?」
「なんだ、久しぶりじゃない?」
「あ、高崎先輩。お久しぶりです」
 双葉の後ろから、妹の朽木若葉も顔を出した。
「三年振り……だな」
「そうねえ……アンタ、相変わらずボサッとしてんのねえ」
「うるさいな。それより……」
 僕は、彼女を見た。
 早苗ちゃんそっくりの、彼女。
「ああ、これは私の……下の妹。早苗って言うの」
 双葉の言葉に、心臓を鷲掴みにされるような感覚を覚えた。


 姿だけじゃなく、名前まで同じなんだ……。


「……はじめまして。朽木……早苗です」
 早苗ちゃんは、ペコリとお辞儀をした。
「えへへ。本当は、はじめましてじゃないんですよ」
「あ、な、何言ってんの?」
 若葉ちゃんの言葉に、自分よりも早く双葉がツッコミを入れる。


 『はじめまして』じゃない。

 それは、どういうことなんだろう?


「ね、今暇なの?」
「まあ……暇だからここに居るんだけどな」
「立ち話も何だから、どっかでお茶しない?」
「ああ……かまわないけど」
「はいじゃあキマリね。行くわよっ」
 双葉はそう言うと、さっさと歩き出す。妹二人も、慌ててついていく。
「ほら、さっさと来なさいよ」
「あ、ああ」
 僕も慌てて、後に続いた。



  #3

 僕たちは近くの喫茶店で、お茶する事にした。
「僕は、アイスコーヒー」
「私はアイスレモンティー。以上で」
「え?」
 四人なのに注文が二つのため、確認し直す店員に、双葉はもう一度「以上で」と強く言った。渋々と店員は引き下がる。
「……若葉ちゃんや……その……早苗……ちゃんは」
「いいの」
 きっぱり返す双葉。
「本当に、いらないんですよ」
 僕の視線に気づいたのか、若葉ちゃんが笑顔で答える。
 僕はなんとなく居心地の悪い感覚を覚えた。


 それでも、話し始めると普通に話せるものだ。
「あ、まだ一年なんだ」
「まあな。元々あまり頭良くなかったし」
「じゃあ後輩ね。よろしく、高崎後輩」
「……同じ大学じゃねーだろ」
「一年なら、私と一緒ですね」
 と、若葉ちゃん。そっか、一つ下だったっけ。
「早苗ちゃんは?」
 僕は早苗ちゃんの方を向く。すると、目が合った。
 彼女は慌てて、目を逸らす。
「私は……学校は行ってないんです」
 目を逸らしたまま、早苗ちゃんは答えた。
「……え?」
「ああ、だって早苗はつく……あまり、身体が強くないから」
 双葉が曖昧な表情で説明をする。
「でも……」
「……いいんです。私は」
 そう言って、早苗ちゃんはうつむく。
 なんか……若葉ちゃんに昔聞いたことと、同じような答え。

 なんか、可哀想だな。

 目の前にいる早苗ちゃんが、三年前の早苗ちゃんと重なった。


 ……別人のハズなのに……。



「学校……行かせてやれないのか?」
「え?」
 僕の言葉に、早苗ちゃんが、顔を上げた。
 双葉も、驚いた顔で僕を見る。
「きっと早苗ちゃんも、学校に行きたいんだと思うぞ。いくら朽木の家が、長女を特別にする家だって行っても、金持ちなんだろ? 学校くらい、行かせてやれないのかなって」
 早苗ちゃんが、驚いた目で僕を見る。
「……アンタも相変わらずね」
 双葉が苦笑する。
「なんだよ。何がおかしいんだよ」
 何だか馬鹿にされた気がして、僕はムッとした表情で双葉を見た。
「ああゴメン……馬鹿にしたわけじゃないのよ」
 双葉は、アイスティーをストローでかき回す仕草をしながら、微笑む。
「相変わらず、他人のことに本気になる人間なんだなって思って」
「……やっぱり馬鹿にされてる気がするぞ」
「違うってば。ただ……うちの若葉と早苗は、特別だから」
「特別?」
「多分……言っても理解できないわ」
「そんなこと無いよ」
「あるわ」
「無いって!」
 僕の強い言葉に、双葉はため息をつく。
「高崎……アンタ、知ったら後悔するよ」
 双葉の、低い声。
 けして脅しているわけでは無いのだろうが、僕はその言葉にゾッとするものを感じた。
 知ってはいけないことを知るような。
 知ったら後には戻れないような。

 そんな恐怖感。

「だ、大丈夫だよ」
 僕は踏みとどまった。
 僕にはもう、怖いことなんて無い。



 あのとき、早苗ちゃんを失ったときの、言いようもない感情に比べたら。


 僕の真剣な眼差しに、双葉は目を逸らした。
「……ま、言っちゃいけない訳じゃないし……」
「お姉さま……」
 心配そうな瞳で、若葉ちゃんが双葉を見る。
「場所、替えよっか」
 そう言って双葉が立ち上がる。そしてそのまま、ひょいっとレシートを掴む。
「僕が払うよ」
「いいわよ、このくらい」
 僕の手をかわし、双葉はレジにスタスタと歩いていく。
 なんか、女の子に払ってもらうのって、格好悪いよな。
「ふふっ、お姉さま、照れてるんですよ」
 僕の後ろで、若葉ちゃんが言った。
「私たち、大学も女子大ですから。多分男の人に慣れてないんだと思います」
「ああ……」
 納得。
 三年前、彼女たちが試験編入で入ってきたときの俺たちも、女の子たちに戸惑ったっけ。
 ……結局、早苗ちゃんの件があって、共学化もつぶれたんだっけな。

「さ、早苗ちゃん。いこっ」
「はい、若葉お姉さま」
 若葉ちゃんに促され、早苗ちゃんが歩き出す。
 僕も二人について、店を出た。



  #4

 双葉が向かったのは、近くの公園だった。
「若葉、ジュース買ってきて。二本」
「わっかりましたーっ」
 若葉ちゃんは双葉からお金を受け取ると、えらい早さでダッシュしていった。
 自販機の場所、知ってるのかな。
「早苗、次はアンタの番だからね」
「はい、お姉さま」
 双葉の言葉に、早苗ちゃんが頷く。
「相変わらずなんだな」
「ん? 何が」
「妹をこき使うのが、さ」
「まあ……そう言う風にしつけてあるからね」
「そう言う問題じゃ……」
「お姉さまーっ、買ってきましたー」
 僕の言葉を遮って、若葉ちゃんが駆けてきた。
「早っ」
「……まだまだでしょ」
「あうー、ごめんなさいですー」
 久しぶりに見たが、相変わらずよくわからない。
「はい」
 双葉は僕に向かって缶を投げてよこした。
「あたしのオゴリ」
「……どうも」
 プルタブを引く。
 缶を口に付けようとして、僕は、早苗ちゃんの視線に気づいた。
 僕が目を向けると、スッと目を逸らす。
「ん? 飲む?」
「いいえ、いりません」
「じゃあ、さ」
 僕はポケットから、小銭を取り出す。
「ほら、これで、買ってきなよ。若葉ちゃんの分と、二人分」
「え? いいですいいです。いりませんから!」
「わたしも……本当に、いらないですから」
「高崎、いいから」
「でも……居心地が悪いんだよ」
「居心地?」
 僕の言葉に、双葉が問いかける。
「うん、なんか、身分が違うって言うか、そういうの、嫌なんだよ。そりゃ、朽木はなんだか偉い家の長女で、特別扱いされて、若葉ちゃんと早苗ちゃんは、妹だからって理由で……その……扱いが違うのは、当然なのかもしれないけど……」
 三人の視線が、僕に集まっている。
 僕は、それらを意識しながらも、言葉を続ける。
「確かに鐘の音学園も、先輩の命令は絶対で、多少理不尽な命令も受けたりするけど、それでも、それは誰もが受けることで、僕たちも三年になって、命令する側になって、その……」
「高崎」
 双葉が、僕の言葉を遮った。
「……言ってる意味が、よくわからないんだけど」
「うん、自分でもよくわからなくなってきた」
「はあ?」
「いや、だから、妹だからって理由で、下僕みたいに扱うのって、違うんじゃないかな」
「ふうん……最初からそう言えばいいのに」
「……ごめん」
 素直に、謝る。
「さっき、説明するって言ったわよね」
 言いながら、双葉はベンチに腰掛ける。
「……例えばさ、若葉と早苗が、本当は人間じゃないって言ったら、信じる?」
「はあ? そんなことあるはずないだろ?」
「……ほら、そういう答えを返すでしょ?」
 双葉はため息をついた。
「え?」
「誰もね、言っても信じないのよ」
「まさか……本当に?」
 どこから見ても、人間にしか見えないのに?
 若葉ちゃんと早苗ちゃんが?



 人間じゃ、ない?



「どういう、ことだ?」
「ウチの家が、陰陽師の家系だってことは、知ってるわね?」
「ええと……植物を操れる、んだっけか?」
「そう、で、話は変わるけど、式神って、知ってる?」
 『シキガミ』?
「……いや」
「えっとね、簡単に言えば、精霊とか、そんな感じかも。あたしは、植物を媒介にして、式神を作ることが出来るの。例えば……」
 双葉は隅に生えている草にそっと手を添え、何か呪文のようなものを唱えた。
 双葉の手と、草が淡い光を放つ。
 双葉が手のひらを上に向けると、その手に三十センチほどの人形のような物体が、生まれていた。
 和服姿の人形。
「これが、式神……」
 これが、双葉の力。
 陰陽師の、力なのか……。
「で、この子はあたしの命令に従ってくれる。もっとも、元々生き物だから、それなりに自分の心も持ってるの」
「ふうん……」
 目の前で動く式神を見ても、何となく実感がわかない。
「でね、今の子は略式で唱えてるから、小さいし、簡単なことしか命令できないし、時間も短いの。でも、ちゃんと陣を敷いて、本式で術を使えば、人間とそっくりで、永遠に効果が続くような式神も、作れるのよ」
「え? じゃあ……まさか?」
「ええ、若葉と早苗は、あたしが作った式神なの」
 僕の言葉に、双葉は平然と答えた。



 ニンゲンジャ、ナイ。


 信じられなかった。

 でも。



 目の前で真実を見せつけられたら。

 僕は。




 ……信じるしか、なかった。



  #5

「私たち、人間じゃないんです。私たちは、人間に仕える存在。人間のお役に立つことが、私たちの存在価値なんです」
 若葉ちゃんが、笑顔で答える。
 僕は、理解した。
 双葉が、若葉ちゃんを下僕のように扱う理由。
 若葉ちゃんが、誰の言うことでも嫌と言わない理由。
 彼女たちの行動全てに、納得がいく。


 でも。


 僕の中に、違和感が広がっていた。


「なあ……朽木」
「ん? なあに」
「何故朽木は、人間そっくりの式神を作ったんだ?」
 僕の質問に、朽木は一瞬戸惑ったような表情を見せた。
「……そりゃあ、自分の身の回りのことをやってくれる子が、欲しかったから」
 多分本当の答えじゃないことは、双葉の(わかりやすい)態度でわかった。でも、僕にはそれ以上の追求は、出来なかった。
「……お姉さまは、妹が欲しかったって、言ってました」
「こ、こら若葉っ」
 横で聞いていた若葉ちゃんの言葉に、顔を赤くして怒る双葉。
「そっか、そういうことか」
「ち、違うってば」
「そうなの?」
 と、今度は双葉ちゃんに尋ねる。
「えと、お姉さまは遊び相手が欲しくて、妹として私を作りました。スタイルも、お姉さまの理想が入ってるんですよ」
「こらっ、よけいなことまで言うなっ」
「あうう……ごめんなさいです」
 サボテンの影に隠れる若葉ちゃん。
 いつも持っているサボテンだ。

 ん?

「じゃあ……このサボテンって、もしかして?」
「ああ、それが、若葉の本体よ」
 まだ顔を赤らめたまま、双葉が答える。
「じゃあ、双葉ちゃんはサボテンの精?」
「ええと……そういうふう言うことも、出来ますね」
「じゃあ、早苗ちゃんは?」
「わたしは……これ……」
 早苗ちゃんは、ポケットから拳大の小さなサボテンを取り出した。
「早苗ちゃんも、サボテンの精なんだね」
「はい……そうです」
 早苗ちゃんは、小さく微笑む。



 その笑顔が、三年前の笑顔と、重なった。



「先輩……どうしたんですか?」
 早苗ちゃんが、不思議そうな顔で、僕を見た。
「え?」
「涙、流してます」
「え?」
 言われて、気づいた。
 自分の視界が、歪んでいることに。
「あ、あはは……なんでもないよ」
 慌てて涙を手で拭う。
「……どうぞ」
 差し出された、白のハンカチ。
「……ありがとう」
 ハンカチを受け取り、涙を拭う。
「どうしたの、高崎?」
 双葉と若葉ちゃんも、心配そうな目で、僕を見ている。
「あ、いや、なんでもないよ」
 手を振りながら、笑う。



 ……はずだった。



「あは、あははは……」
 ごまかし笑いをしながら、涙を流す。
「ホント高崎、大丈夫?」
 心配そうな顔で、双葉が迫ってきた。
「……なあ、朽木」
「なに?」
「何で……早苗ちゃんなんだ?」
「え?」
「何で、お前が作った式神が……早苗ちゃんの姿をしてるんだよ」
「あ、ああ……それは……」
 双葉が、僕から視線を逸らした。
「早苗ちゃんは死んだんだ! 僕の背中で! もう居ないんだよ!! なのに……なんで……」
「高崎……」
「何で僕に早苗ちゃんの姿を見せるんだよっ!」
 僕は叫んだ。
 僕の声に驚いたのか、怯えた表情の双葉。
 そして、心配そうに僕たちを見る若葉。



「ねえ、先輩」



 早苗ちゃんが、僕を呼んだ。


 僕は黙って、彼女の方を向いた。



「生まれ変わりって、信じますか?」



 急な早苗ちゃんの質問に、僕は言葉を詰まらせた。



「私は……」



 早苗ちゃんが僕を見つめ、そして微笑んだ。



「……信じてるんですよ」



 その笑顔で、僕は悟った。

「早苗ちゃん、なの、か?」



「はい。高崎先輩」


 僕の言葉に、早苗ちゃんが頷いた。



  #6

「若葉に……頼まれたの」
「え?」
 僕の背後で、双葉が口を開いた。
「私が、お花屋さんで見つけたんです。早苗ちゃんを」
 若葉ちゃんが、説明してくれた。

 偶然見つけた花屋で見つけたサボテンが、早苗ちゃんの生まれ変わりだったこと。
 早苗ちゃんの願いを聞いて、若葉ちゃんが頼み込んだこと。
 そして。

「高崎に見つけてもらえるように、そのスタイルにしたのよ」
 双葉が言った。
「ま、あたしよりスタイルが良い式神は、若葉で懲りたしね」
 今の言葉は、照れ隠しだろうか、双葉はそのまま視線を逸らす。
「本当は、高崎先輩を見つけたとき、すぐに話しかけたかったんです。でも……いきなりそんなこと言っても、信じてくれないだろうし」
 そうか、そう言うことなのか。


 今日初めて会ったとき。

 早苗ちゃんが、驚いたような表情をしたのは。



「わたし……ちゃんと、来ましたよ」
 早苗ちゃんが、僕を見つめた。
「言いましたよね……生まれ変わったら、必ず高崎先輩に、会いに来るって」
「そうだね……」
「三年、経っちゃいましたけど、私、会いに来ました」
「うん」
「高崎先輩っ」

 そう言って。

 早苗ちゃんは、僕の胸に飛び込んできた。


「早苗ちゃんっ」

 ぎゅ、っと。抱きしめた。


「感動の再会ですねえ」
「……なんでこう、あたしより式神の方がもてるのかしらね」
 若葉ちゃんと双葉ちゃんの呟きが聞こえ、恥ずかしくなった僕は、早苗ちゃんをすっと離す。
「ごめんな、朽木。さっきは叫んだりして」
「いいのよ……あんたの気持ちも、わからないでもないから。ところで……」
 双葉はニヤリと笑う。
「やっぱ私には二人も式神いらないんだよねー。誰か、もらってくれないかなー」
「え?」
 僕と早苗ちゃんが、双葉を見る。
「特に小さい方? あまり使えなくてねー。ねえ、高崎……式神、いらない?」
「え? ええ?」
「今ならサービスで、タダにしちゃうわよ?」
「あ、あの……ホントですか?」
「つべこべ言わない! いるの? いらないの?」
「い、いります!」
 反射的に答えた。
「はい。じゃあ早苗。悪いけど、あなたの主人は、今からコイツだから」
「お、お姉さま……」
 早苗ちゃんは、びっくりした表情で双葉を見る。
「まあ、早苗があたしの妹であることには、変わりないから」
「あの……ありがとう、ございます」
「なに式神があたしにお礼を言ってるのよ。あんたは役に立たないから、高崎に押しつけるだけなんだからねっ」
「ふふっ、お姉さまったら照れてるんですね」
「わ、若葉っ」
「あうー、ごめんなさいですー」
「じゃ、じゃあ高崎。後はよろしく。あと、何かあったら連絡ちょうだい。ああ若葉、あたしの携帯番号、高崎に渡して」
「はいっ」
 若葉が紙に素早く番号を書くと、それを僕に渡してくれた。
「ああ、僕の番号だけど」
「あ、じゃあちょっとかけてくれる?」
「あ、ああ」
 PHSから双葉の携帯に電話をかける。
「ん、サンキュ」
 一回のコールで切り、お互いにメモり登録をする。
「あの、お姉さま……」
「なあに? 早苗」
「荷物……取りに戻りたいんですけど」
「そっか、一応荷物もあったわね。どうしようかな」
「なら……一緒に取りに行くよ」
 早苗ちゃんの荷物がどれだけあるかわからないけど。人手は多い方がいいだろう。
「そうね。それがいいかも。じゃ、行きましょ」
 双葉はスタスタと歩き出す。妹たちと僕は、慌てて双葉を追った。



  #7

 あの後僕と早苗ちゃんは、朽木家経由で僕の部屋に帰った。
「まあ、あがってよ」
「はい……」
 散らかった部屋を見て、早苗は唖然とした表情をする。
「えーと、とりあえず、早苗ちゃんの寝場所を作らないとな」
「そうですね。一緒に片づけましょう」
 早苗ちゃんが微笑む。
 僕に向かって。



「なあ……早苗ちゃん」
「なんですか? 高崎先輩」
「これで……良かったのかな」
「え?」
 僕の問いに首を傾げる早苗ちゃん。
「生まれ変わり、さ」
「私は……少なくとも、運命の神様には、感謝してるんですよ」
「え?」
「人間じゃないけれど、思いっきり走れる身体をもらいました。それに……」
 早苗ちゃんは、照れた表情を見せた。
「……もう一度、高崎先輩に会えました」
 うつむきかげんで言われると、こっちも照れる。
「ねえ、先輩」
「ん? なに?」
「あのとき届かなかった言葉……今なら言えます」


「高崎先輩……」


 早苗ちゃんは、僕を真っ直ぐに見つめた。


「私、高崎先輩のことが……」






「好き……です……」









 end











 俺が望む後書き

 と、言うことで「グリーングリーン」のSSです。
「どう頑張っても、早苗エンド後は書けねー」と思っていたのですが、ふと思いついたら結構あっさり書けました。もっとも、かなりサギ臭いのでどうかな、と思いますが。
 今後は若葉エンドみたいに「非人間との恋愛」に悩むんだなーとか思います。面倒やねえ(笑)
 この続きは、気が向いたら書きます。ってか、ほのぼのとした早苗が書けそうなので。早苗ちゃんって、可愛いですもんね。
 後一つ。僕の中では双葉が貧乏くじを引くことが決定しました(爆)主人公にほのかな恋愛感情を持ちつつも、それを言えない状態は、まさに『茜状態』(爆死)
 ま、グリグリの方はいろんなエンディングで書いてますので、気が向いたら双葉も書くかなーとか思います。
 あー、みどりの続編も書かないと。

 では、次の作品で。

 2002.01.16 ちゃある

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