グリーングリーンSS また会う日まで 1
「……まあそんなわけで、一応お別れ会をしようかなって思って」
朽木双葉は、僕の前でにこやかに笑った。
教育実習生としてこの鐘ノ音学園に来ていた千歳みどりも、明日をもって実習期間終了のため、ここを離れる事となった。そこで、仲間内だけでお別れ会をしようというのが、双葉の提案だった。
「だがな、朽木」
「ふ・た・ば、でしょ? 祐介」
「ああ……双葉」
この間から僕は双葉のことを名前で呼ぶように強制されている。『みどりが名前で呼ばれてるのにあたしだけ名字なんてイヤ』と言われたが、実際は若葉ちゃんも千種先生も名前で呼ばれているのに双葉だけ『朽木』と名字で呼ばれていることが、自分が遠ざけられている気がするかららしい。代わりに双葉は、僕のことも名前で呼んでいる。もっとも彼女も時々『高崎』と呼ぶこともあるが。
「……だがな、仲間内って僕と双葉、若葉ちゃんにみどり、だろ?」
「だって、天神とか一番星とかって、なんか怖いんだもん。それに」
「ああ……みどりが未来から来た、なんてことは、僕達しか知らないからな」
納得。
「ま、場所もないし、みどりの部屋でいいよね?」
「そう言うのは、本人に承諾を取るべきだ」
「そっか、そりゃそうだね。じゃ、ちょっと行って来る」
双葉はスッと立ち上がると、職員室へと駆けていった。
風にひるがえるスカートとそこから伸びるスラリとした脚が、まぶしい。
「相変わらずな性格だな」
僕は自分の視線をごまかすかのように、一人つぶやいた。
「最近祐介どん、あまりおいどんをかまってくれないでごわす」
放課後、部屋に戻り一息ついていると、おもむろに天神が言ってきた。
「そうか? 気のせいだろ?」
「そんなことないでごわす。休み時間も何かと朽木双葉としゃべってるでごわす」
「そりゃ……向こうから話しかけてくるしなあ」
「バッチグーには亜里紗がいるでごわすし、一番星もなんか惚れた女がいるとかでおいどんはひとりぼっちでごわすよ」
うーん、確かにそうかも。
「天神も好きな女の子とか探したらどうだ?」
「おいどんは真性のロリでごわすから、なかなかおいどんの目にかなうおなごはいないでごわすよ」
「……そりゃ天神が悪いだろ」
「ああ、早苗ちゃんとか小みどりみたいなピュアそうなおなごが、おいどんの前に現れてくれないでごわすかね……」
顔を赤らめて焦点の合わない目でぼんやりと天井を見上げる天神。
「ま、犯罪だけは起こすなよ。じゃあちょっと、千歳先生の手伝い行って来る」
「いってらっしゃいでごわす〜」
……まだ妄想の中か。
「双葉ちゃんから聞いたけど、お別れ会、してくれるんだって?」
「ああ、そうらしいな」
みどりが煎れたお茶を口にしながら、僕は答えた。
ここは教職員寮のみどりの部屋だ。一応僕は千歳先生の手伝いと言う名目でここに来ている。もっとも僕がする作業など滅多になく、ただの口実に過ぎないのだが。
後三日で実習期間が終了だと言うことで、既にほとんどの荷物は整理されている。机の上には、あのときの二枚の写真と、この間双葉も交えて撮った三人の写真が、置いてある。
「……みどり、さ」
「なあに? 祐介君」
「日本茶には砂糖を入れるな」
「ええっ、そうなの? 祐介君いつもお砂糖二つだって言ってたから入れちゃった」
「それ、紅茶とコーヒーの時だけな」
「そうなんだ。ごめんね」
そしてみどりはてへ、と舌を出す。
この仕草に、いつも僕は騙される。
「先生方は明日お別れ会を開いてくれるんですって。だから、祐介君とお別れ会するのは最終日、かな」
「一応、双葉と若葉ちゃんもいるんだからな」
「あははは、わかってますわかってます。でも、私にとっては祐介君とのお別れ会なんだよ。またしばらく、祐介君と会えなくなっちゃうんだよ……」
「大丈夫だよ。今度は永遠だなんて思わない。夏休みには僕も実家に戻るし、そうすれば会えるだろ? みどりも東京なんだし」
「そ、そうだよね。またすぐに会えるんだよね。よかった……」
ほっと胸をなで下ろすみどり。
「心配するな、大丈夫だって」
「うん……」
と、みどりはテーブルを回り込んで僕の隣に座る。そして、僕の方に寄りかかる。
「祐介君……」
「ん?」
「……大好きだよ」
「……おう」
みどりが真摯な目で僕を見るので、僕は恥ずかしくなって目を逸らす。
「もう、煮え切らないんだから」
そう言って、みどりは僕の頬にキスをした。
僕は驚いてみどりを見た。
そこに、もう一度キス。
今度は唇に、ふくよかな感触。
「お、おいみどりっ」
慌てる僕に、みどりは嬉しそうな、それでいて照れたような目で微笑んだ。
つづく
僕の望むなかがき
……みどり誕生日記念です。が、書き上がってません(ぉ
もしかしたら誕生日中にもう少し進めるかもしれませんけどねー。
ま、途中ですが一応出しますよ、ってことで(ぉ
2002.08.14 ちゃある