君が望む永遠 アナザーストーリー 「君が望まなかった永遠」
終章 それぞれの明日
#5 遙
カーテンの隙間から、星が見えていた。
黒、というには蒼すぎる空に、白く光る星々。
「んっ……」
身体を、起こす。落ちたときの打撲が、痛い。
白のカーテンを、そっと開ける。
───っ。
鋭く、暖かい音が聞こえてくるような錯覚。それほどまでにたくさんの光が、ベッドの上に降り注ぐ。
空は雲一つ無く、空一面に星が瞬いている。
こんなに静かな気持ちで星を見たのは、いつ以来だろう。
「ん……」
隣の簡易ベッドで、茜が寝返りをうった。私は星灯りが茜の目を覚まさないよう、カーテンを直す。
茜の顔に光がかからないことを確認したのち、再び窓の外に目を移す。
「変わらない、ね」
ベランダで星を眺めることが、好きだった。
その頃から、星々の瞬きは変わらない。
───私の世界は、こんなにも変わってしまったというのに。
「でも、大丈夫、だよ」
私は、声に出してつぶやく。
そして、星空に向かって微笑む。
「私は、この世界でも、生きていける」
うん。
だって、
この世界は、私のいた世界とつながっているから。
姿は変わってしまったけれど、みんな、いてくれる。
茜も、水月も……そして、孝之くんも。
「……姉さん?」
背後からの声に、私は少し驚きつつも振り向く。
「あ、起こしちゃった? ごめんなさい」
「ううん……どこか、痛いの?」
不安そうな声。
「少しだけ、ね。でも、大丈夫だよ。ちょっと月が、見たかっただけ」
「……なら……いいけど……」
「ね、茜。お願いが、あるんだ……」
「なに?」
「本が、読みたい」
「……本?」
「うん。小説とか、絵本とか。とにかく本が読みたい」
「……うん。わかった。明日、持ってくるね」
「それとね、ノートとスケッチブック」
「……スケッチブック?」
「うん……私ね……描きたいんだ」
「……そっか。描きたいんだ、ね」
そう。
みんながいてくれるから、
私はもう一度、夢を紡げる。
絵本作家になりたいという、夢を。
「……うん」
私は頷く。
「じゃあそれも明日、持ってくるね」
「……ありがとう、茜」
「いいんだよ、姉さん。私は姉さんのそんな姿が、見たかったんだから」
「……茜」
微笑む茜の顔が、窓から差し込んだ星灯りに、照らされる。
それはまぎれもない、妹の笑顔。
私の知っている、妹の笑顔。
「……姉さん?」
「ん……ごめんね。大丈夫」
不安げな顔をする茜に、私は謝る。でも、
涙は、止まらない。
「……ね、姉さん」
「なあに?」
「お話できたら……読ませてね」
「うん。昔からずっと、茜が最初の読者だったものね」
「そうだよ。だから今度も最初に、ね」
「……うん」
私は、ぎゅ、と茜を抱きしめる。
茜もされるがまま、そっと身体を預けてくる。
端から見たら、奇妙な光景かもしれない。
でも、間違っていない。
姉が妹を抱きしめるのは、普通だから。
姿形は変わっても、私たちは姉妹なんだから。
今の思いを、この幸せな想いを。
みんなに伝えられるような、物語を描こう。
少しくらいつらくても、幸せな明日が待っている。
人とのつながりが、絶望から引き上げてくれる。
みんながいれば、笑える。
そんな、物語を。