君が望む永遠 アナザーストーリー 「君が望まなかった永遠」





  第3章 今ここにいる意味


  #5 茜


 目が、覚めた。
 少し疲れたからと言って横になったまま、本当に眠ってしまったらしい。
 時計を見る。二時間は経っていないようだ。
「起きたか」
 優しい声。私は身体を起こし、その声の主に向き直る。
「あなた……」
 孝之さんは、脇にあった椅子に腰掛けていた。
「具合はどうだ?」
「ええ……悪くないわ」
「そうか……今日はいろいろあったからな。疲れただろう」
「そんな。あなたこそ……」
「そうだな。俺も疲れた」
 孝之さんは、そう言って微笑む。
「みんなは?」
「ああ、慎君のところに集まってるんじゃないかな。慎二と葉月ちゃんが来てさ」
「そう……なら顔を出しておかないとね」
 そう言いながら、私はベッドから降りる。
 が、足を置いたはずの床が不意に歪む。
「あら……?」
 平衡感覚がない。このままでは倒れてしまうと理解していても、堪える術がない。
 どん。
「大丈夫か?」
 耳元で聞こえる、孝之さんの心配そうな声。
 どうやらふらついた私を、孝之さんが支えてくれたらしい。
「ええ……大丈夫。ただの立ちくらみだと思うから」
 これ以上、孝之さんに心配かけられない。
 でも、足に力が入らない。
「もう少し、休んだ方がいい。俺もいるから」
「でも……」
「いいから」
 結局押し切られる形で、私は再びベッド腰掛ける。
「しかし……慎君が遙のこと好きだったなんてな」
 不意に、孝之さんが切り出した。
 やはり、そうだったのかと思う。
 そうでなければ、姉さんを追って飛び出したりなんかできない。
「応援、してあげたいわね……」
「そっか。茜もそう思うか」
「え?」
「……いや、さっき遙海や水月と話しててさ。そんな話が出たんだ。二人を、応援したいって」
「そう……」
「慎君もそうだけど、遙も前向きになれるんじゃないかな。自分を一番に想ってくれる人がいるってことは、大切だと思う」
「そうね」
 本当に、そう思う。
 私もずっと、思っていたから。
 自分は、二番目なのだと。
 だから、嬉しかった。
 孝之さんが、私を選んでくれたことが。
 姉さんには悪いけれど、本当に、嬉しかったから。
「茜……泣いているのか?」
「え?」
 孝之さんに言われ、私は自分が泣いていることに気づいた。
「ごめんなさい……」
 そう言って私は顔を背け、右手で涙を拭う。
「いや、いいんだ。俺の前では、素直に感情を出していいんだよ」
 その言葉に、私は背けていた顔を戻す。
「俺達、夫婦だろ?」
 その微笑みを見た瞬間、自分でも信じられないくらい大粒の涙が、ぼろぼろとこぼれだした。
「お、おいおい」
 孝之さんは慌ててハンカチを取り出す。
「ごっ……ごめんな……」
 言葉が、出なかった。
 それは、泣いているからだけではなく、
 孝之さんが、そっと私を抱きしめたから。
「俺は、あのときの言葉に、嘘は無いよ」
「……うん」
 私も、抱きしめる。
「だからそろそろ……愛の証が、欲しいな」
「え?」
 言葉の意味が分からず、身体を離して孝之さんを見る。
「あー……遙海に弟か妹ができても、まだ大丈夫だよな?」
 ほんのり赤くなった顔で、照れたように目を逸らしつつ孝之さんが言う。
 えーと。

 …………。

 あー。

「……はい」
 ようやく意味を理解した私は、孝之さんの胸に飛び込んだ。

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