君が望む永遠 Side Story 番外編 大乱闘スマッシュシスターズ(仮) Ver2.00

 背後では、まだ騒ぎが続いている。
「何で……こんなことになったんだ?」
「俺が聞きたいよ。ま、少なくても、この店は出入り禁止だな」
 慎二の言葉に、俺はそう答えた。
 ホントに。
 なんでこんなんなったんだ?



 #1

『なあ孝之、明日、ヒマか?』
 発端は、慎二の誘いだった。
 まあ、いつものように、飲まないか? という話。
「ああ……かまわないぜ」
『そうだ、たまには涼宮も誘えよ』
「遙も?」
『ああ、俺、最近会ってないし』
「遙……ねえ」
『何か、問題でもあるのか? ……まさか最近、うまくいってないとか?』
「いや、それはないんだが……」
 底なし沼みたいな飲み方するんだよな、遙って。
 まあ……いいか。
「……とりあえず、誘ってみるよ」
『頼む。男二人で飲むのって、結構寂しいからな』
 そっちが本音か。
 言っておくが、遙は俺のだ。やらないぞ。
「じゃ、明日昼にでも連絡する。場所は?」
『駅前のあそこでいいだろ?』
「了解。じゃ」
 ピッ。
「さーて、遙にかけるか」
 俺は間髪入れずに涼宮家に電話をする。
 自宅の電話から涼宮家にダイヤル。
 既に番号は指が覚えている。
 トゥルルルル……、トゥルルルル……。
 ガチャ。
『はい、涼宮です』
 電話の声は、茜ちゃんだった。
「あ、もしもし、茜ちゃん?」
『あ、鳴海さん。こんばんは。……姉さん、ですか?』
 そうだ、茜ちゃんも誘ってみようかな。
 3人だと、俺と慎二で盛り上がったときに、遙がついて来られなかったりするしな。
 うん、やっぱ偶数だ。
「いや、今日は茜ちゃんもなんだ。あのさ、明日、暇?」
『え? ……何時頃、ですか?』
「えーと、夜」
『夜なら、大丈夫ですよ』
「じゃあさ、飲み、行かないか? 俺と慎二と」
『え? ホントですか? 行きます行きます』
「遙は、大丈夫かな?」
『多分大丈夫だと思いますよ。あ、今代わりますね』
 おねえちゃーん、鳴海さんだよー、と電話の向こうで声がする。
『もしもし?』
「おう、遙か。明日の夜、時間ある?」
『うん……大丈夫だよ?』
「じゃあ、俺たちと飲まないか?」
『えっ?』
「いや、慎二が遙に会いたがってたからさ。それに飲み屋とかって、行ったこと無いだろ?」
『うん』
「ま、見聞を広めると思ってさ」
『うん……いいよ』
「そしたら、明日の6時半に柊町の駅……駅前の、本屋で」
『……うん』
「じゃ、また明日」
『はい。おやすみなさい』
「おやすみ」
 ガチャ。
 よし、明日は久々に飲むぞ〜。



 #2

 ……トゥルルル。
『はい』
「慎二か? 俺だけど」
『おう、どうだった?』
「とりあえずOK。あと、茜ちゃんも誘ったから」
『そうか、妹さんに会うのも、久しぶりだな』
「だろ? 一応6時半に駅前の本屋で待ち合わせにしたから、遅れるなよ」
『本屋? ……ああ、そうか。わかった』
「じゃ、また後で」
『おう、またな』
 ピッ。
「おい、糞虫。仕事サボって電話か?」
 ビクッ。
 振り向くと、そこには大空寺が立っていた。
「きゅ、休憩だ」
「あにが休憩だっ、こっちは死ぬほど忙しいってのに、勝手に休憩取るなや」
 おお、獣化しそうだ。
 まったく、なんで今日に限っててんてこ舞いの忙しさで、休憩も取れないんだ?
「……ま、今回はおごりで許してやるさ」
「……おごり?」
「飲みに行くんでしょ? そこでのおごりで許してやるさ」
「はあ? 何故お前なんぞにおごらにゃならんのだ?」
「そう言う態度をとるわけ? なら健さんに告げ口していいってことね? 一昨日のやっちまった帳のこととか」

 なぬ?

「なんで、それを知ってるんだ?」
「まゆまゆが教えてくれたから」
「ぐっ……」
 どうする? 俺?
 あれはさすがに、健さんにバレると痛いんだよな……。
「わかった、だが、今日はダメだ。また今度おごるから」
「あっそ、店長〜」
「わわわわわかったっ、おごるっおごるから」
「ふふん。最初からそう言えばいいさ」
 くそう……大空寺めぇ……。

 ……今、コイツを始末しちまえば、もしかして俺の人生、安泰?

 …………。

 ……殺るか?

 ……いやまて、完全犯罪が思いつかん。
 とっさの衝動で殺しても、捕まるだけだからな。
 今回は許してやろう。

 ……はぁ。



 #3

「……で、彼女たちは?」
 やはり尋ねてきたか、我が親友よ。
「……ちょっとな」
「孝之さんがおごってくれると、先輩が言っておりましたので、ご一緒させていただきました〜」
「玉野さんもか?」
「当然さ」
 大空寺は、さも当然だと言う感じで答える。
 俺はアイコンタクトで慎二に謝る。
 長年培ってきたアイコンタクトだ。もうそれは既に日本代表クラスと言っても過言ではないだろう。
「……ま、まあ……大勢の方が盛り上がるよ……な?」
 すまん慎二。これも俺が弱みなど握られたせいだ。
「後は遙たちだけど?」
「涼宮なら、妹さんと一緒に絵本コーナーにいるぞ」
「そっか。ちょっと呼んでくるから、外に出ててくれ」
「おう」
 慎二に大空寺と玉野さんを任せ、俺は絵本コーナーへと移動する。
「遙、お待たせ」
「あ、孝之君」
「鳴海さん、今晩は」
「おう、2人ともいたのか。じゃ、行こう」
 2人は頷いて、俺に続く。
「早くしろ糞虫、風邪ひくさ」
 外に出ると、真っ先に大空寺の声がした。
「別にお前が風邪をひいても誰も困らんから、どうでもいいよ」
「あんですと?」
「えーと、とりあえず自己紹介は、店でな。慎二、先歩いてくれ」
 俺は大空寺を無視して話を進める。
「おう」
 慎二が先導するような形で道を歩く。と言っても同じ通りで、すぐ近くなのだが。
 で、居酒屋『あそこ』に着く。
 ……な? あそこだろ?
「6人、入れる?」
 早速慎二が店員に空席確認をする。
「……OK、いいってさ」
 先に入る慎二。俺たちも後に続く。
 丁度6人掛けの席に座る。左から俺、遙、茜ちゃん。俺の対面に慎二、そして玉野さん、大空寺と座る。
「とりあえず、ビールからスタートで、いいか?」
 誰も否定しないので、まずビールを中ジョッキで6人分注文する。ついでにツマミも適当に。
「後は随時頼んでくれ、あ、それと大空寺」
「あにさ?」
「残した分は、自分で払えよ。俺は、食った分だけおごってやる」
「……ちっ」
 なんだその舌打ちは。
 きっとメニューの端から端まで頼むつもりだったのだろう。

 とか言っているうちに、ビールが運ばれてきた。

「じゃあ、乾杯ということで」
 慎二が乾杯の音頭を取る。
「では、乾杯!」
「かんぱーい」
 ジョッキが鳴る。
 ごくっごくっ。
「かーっ、美味い」
 やっぱ仕事の後のビールは上手いね。
「ふあーっ」
 隣では遙も幸せそうな顔をしている。
 ……さすがに一気に全部は飲まなかったようだな。
 続いてツマミもやってくる。
「そういえば、彼女たちは?」
「ああ、紹介してなかったな。2人はバイト先の仲間」
「はじめまして、大空寺あゆと申します。よろしくお願いいたします」
「おおっ、虫酸が走るっ」
「あんですとー? せっかく丁寧に自己紹介したのに、あにが不満さ?」
「全部」
「あ、あんですとーっ」
「まあまあ、とりあえず、自己紹介進めようぜ」
 割って入る慎二。
 大空寺め、命拾いしたな。
「あ、玉野まゆと申します〜」
 不満げな大空寺につつかれ、玉野さんも挨拶。
「俺は、平慎二。よろしく」
 慎二はいつものスマイルで2人に挨拶。
「あ、それと、こっちが、涼宮遙と、妹の茜ちゃん」
「あ、あの、す、涼宮……遙……です」
 いきなり俺に振られて慌てる遙。
「涼宮茜です。よろしくお願いします」
 はい、挨拶終了。
「ねえ、大空寺さん。孝之って、バイト先ではどんなやつなの?」
 慎二がいきなり大空寺にクリティカルな質問をする。
「あ、私も聞きたいな」
 と、遙。

 その言葉に、ニヤリとする大空寺。

 ヤバイッ。
「お、おい、大空寺。よけいなことは言わなくていいぞ」
「あんでさ?」
「なんでも、だ」
 ちっ、席が離れているのが悔やまれるぜ。
「なんだよ孝之、お前、なんかヤバイことでもやったのか?」
 慎二がニヤニヤしながら尋ねる。

 その弱みを握られてるからあの2人がここにいるんだよっ。

「えと、大空寺さん、だっけ? いいよ、話しても」
「そうですか〜、嬉しいです〜」
「コラコラコラッ」
「いいじゃんかよ孝之。酒の席っていうのは、こういうもんだ」
「慎二……俺らの友情って、この程度だったのな」
「ま、諦めろ」
「ぐぐう……」



 #4

「……まあ、こんな感じで、支払ってるバイト代の、半分くらいは働いているわね」
 完全にテーブルに突っ伏している俺。
 そんなことまでばらすかね?
 確かに事実だがな?
 『全裸疾走事件』までばらすことは無いんじゃない?
 玉野さんも知らなかったんだしさ。
「おい孝之、大丈夫か?」
 笑いを堪えつつ、慎二が俺に声をかける。
「うるせえデブジュー、お前なぞもう友達じゃねえ」
「ハハハ、そんなこと言うなよ、なあ?」
 パンパンと俺の肩を叩く。
 俺が力ずくで大空寺を止めようとしたときに、羽交い締めしてくれたのは、一生忘れないからな。
 挙げ句に学生時代のことまでばらしやがって。
 ああもう、周囲の視線が痛い……。
「孝之君、大丈夫?」
 さすがに心配になったのか、遙が声をかけてくる。
「真っ白だ……燃え尽きたぜ……」
「ええ? 大丈夫?」
「さ、そんな糞虫は放っといて飲むさ」
 ぐうう……大空寺めぇ……。


 気がつけば大空寺を中心に、楽しい雰囲気になっていた。
 俺だけが、輪から外されている。
 俺は……ダシか……。
 見ると、遙も少し外れたところで、黙々と飲んでいる。
 相変わらずの飲みっぷりだ。
「ねー、鳴海さんって酷いですよねー」
 茜ちゃんの声。随分酒が入っているらしく、声のトーンがいつもと違う。
 まだ俺のネタですか。

 ってか、まだ俺のネタは尽きませんか。

「この間も、熱が出たとか言って、バイトさぼるし〜」
 と、大空寺の声。こっちも何か違うな。
「あのときは大忙しだったです〜」
 玉野さんが続く。確かにあの日は忙しかったらしく、後日散々ブツブツ言われた覚えがある。
「しかも電話したら変な女が出るし」
「……それ、私、です」
 大空寺のセリフに、茜が答えた。
「だって、あのときの鳴海さんは、大変だったんですよ。ずっと何か唸っていて、意識も朦朧としてたみたいで」
「社会人としての自覚が足りないだけさ」
 茜ちゃんの弁護も冷たく切り捨てる大空寺。
 確かに、傘を用意しておかなかったり、薬を飲まなかったりしたのは自分が悪いけどな。
「そうは言っても仕方ないことってあるでしょう? 大空寺さんは、そのときの鳴海さんを見てないから、そんなこと言えるんですよ」
「ほう、アンタもあの糞虫の肩を持つんだ」
「当然です」
 はっきりと答える茜ちゃん。確かに、茜ちゃんはこの中で、看護の大変さを一番良く知っているはずだ。だから、こういう点では引けないのだろう。
 ま、大空寺は看護とは無縁そうだしな。
「あっそう。ふうん、アンタも所詮その程度ってことさ」
「どういう意味ですか」
「何でか知らないけど、あの糞虫は女にもてるんだよね。アンタの姉と、今付き合ってるんだっけ? その前はOLだったでしょ。アンタもあの糞虫に毒気抜かれたんじゃないの?」
 大空寺の言葉に、ビクッとする茜ちゃん。
 顔が真っ赤だ。
「わた、わたしは……」
「おい大空寺、それは言い過ぎだぞ」
 茜ちゃんの言葉を遮って大空寺に文句をつける。さすがに酒が入っているとは言え、言い過ぎだ。
「糞虫は口を挟むんじゃないさ」
 キッと睨む大空寺。
「……あなたも、本当は鳴海さんのこと、気になってるんじゃないですか?」
「あ、あんですと?」
 茜ちゃんの一言に真っ赤になる大空寺。
 ……マジですか?
「そっ、そんなこと、あるわけ、無いじゃないさ」
 いつものように軽くあしらおうとするが、どうもぎこちない。
「だって、さっきの話だって、随分鳴海さんのこと細かく見てるじゃないですか。それって、好きだからじゃないんですか?」
「そ、そ、そんなこと……」
 言い返そうとするが、言葉に詰まっているようだ。
 おお、こんな大空寺は初めて見るぞ。
 ……ホントに俺のことを?
「そんなことあるかっボケがぁーっ」
 何かが切れたのか、突然獣化する大空寺。
 一斉に店内の視線がこっちに集まる。
「お、おい大空寺。ここは『すかいてんぷる』じゃないんだから、静かにしようぜ、な」
「うるさいっ、元はと言えば、お前が悪いんじゃないのさっ」
「お、俺?」
 なんで俺が?
「お前が俺の話を始めたから、じゃないのか?」
「うるさーいっ」
 睨み合う茜ちゃんと大空寺。
 玉野さんは、大空寺の後ろでおろおろしているだけだ。
「あう〜、こんなとき、どうすればいいんでしょう?」
 玉野さんは懇願するような目で俺を見る。
 そうは言われてもな。
「と、とりあえず慎二、お前大空寺のほう、止めてくれ。俺は茜ちゃんを止める」
「お、おう」
 店員の視線が気になるので迅速に行動する俺たち。
「すみませ〜ん。ライムサワーおかわりくださ〜い」
 ……遙、お前、周りの状況わかってる?



 #5

「茜ちゃん、な。ムキになるなよ。こんなとこでさ」
「だって、大空寺さん、あんなこと言うんですよっ」
「アイツは元々口が悪いんだよ」
「鳴海さんも鳴海さんです。なんであれだけ言われて腹が立たないんですか?」
 詰め寄る茜ちゃん。酒が入ってるせいか、いつもより怖い。
「えと……慣れ、かな」
「そんなのダメです。ああいうのはちゃんと叱らないと」
「あんですとーっ」
 茜ちゃんの声に反応して、大空寺が吼える。
「まあまあ、俺だって許せないところはちゃんと叱ってるから」
「そんなに……大空寺さんが大切なんですか?」
「は?」
「姉さんはわかります。鳴海さんの、恋人だから。でも、大空寺さんは、ただのバイト仲間じゃないですか」
 茜ちゃんは、僕にすがりついてきた。
「鳴海さん!」
「はい?」
「鳴海さんは、私と大空寺さんと、どっちが大切なんですか?」

 ……は?

 アナタハナニヲキイテイルノデスカ?

「そんなの、あたしに決まってるじゃないのさっ」
 横から大空寺が迫ってきた。どうやら慎二は失敗したらしい。
 やっぱ、遠回りでも俺が大空寺に回るべきだったな。
「そっ、そうなんですか鳴海さん?」
 上目遣いで俺を見る茜ちゃん。
 やべ、全然違うこと考えてたよ。なんだっけ?
「ほら、答えないってことは真実ってことさ」
 ニヤリと笑みを浮かべる大空寺。なんだなんだ? 話はどう進んでるんだ?
「こっ、こんなのより私の方が大切ですよね?」
「こんなのとはなにさっ」
 茜ちゃんの言葉にカチンと来たのか、茜ちゃんにつかみかかる大空寺。
「やっ、やる気ねっ」
「お、おい、やめろよっ」
 慌てて止めに入るが、逆にはじき飛ばされる。
「ちょっとちょっと、お客さん」
「すっ、すみませんっ」
 店員に対して平謝りする俺。
 慎二の方はと言えば、何故か昏倒している玉野さんを、介抱しているところだった。
「玉野さん?」
「ああ、大空寺さんが飛びかかったときに、肘が当たったらしい。あとはパニックだな」
 慎二は冷静に答える。
「それより、止めに入らないと」
「わかってるんだが……」
 俺は乱闘中の2人を見る。

「あんですとーっ」
「なによなによなによっ」

 女性2人が店内でつかみ合いのケンカなんぞ、そうそう見られるもんではないと思ってるのか、客はテーブルをずらし、観戦モードに入っている。
 ……泥レスを見ているようなものか?
 のんきな。

「おねえさーん、グレープフルーツサワーくださーい」
 ……まだ飲んでたのか、遙。
「遙」
「ほえ? あ、孝之く〜ん」
 遙はほんのり赤くなった顔で、俺に微笑みかける。
 か、可愛い……。
 いや、そうでなくて。
「あの、遙さん。今の状況、わかってる?」
「ふあ?」
 ……だめだコリャ。
 さすがに飲み過ぎたらしい。
「慎二さ、遙と玉野さん連れて、外で待ってて」
「孝之、お前は?」
「あの2人を止める」
「よせ、無茶だ」
「無茶でも何でもやるしかないだろ」
 これ以上店のものを壊されてたまるか。
 ……きっと、俺が払うことになるんだしな。
「じゃ、行って来る。あ、荷物も頼むな」
「ああ、わかった。……頑張れよ」
「おう」
 まったく、何で小娘2人のケンカを止めるだけでこんな悲壮な覚悟をしなくちゃならんのだ。
 ……俺らも酒が回ってたのかな。

「ほらっ、終わりだ終わりっ、帰る……ぐあっ」
 止めようと割り込んだ瞬間、茜ちゃんの強烈なアッパーが、俺のアゴにヒットした。
 良いパンチだ……世界を狙えるぜ……。
 一瞬意識が飛びそうになるが、堪えた。
「こらっ、いい加減に……ぐはっ」
 次は大空寺の鋭い蹴りが俺の腹部にヒット。
 ぐおおおおっ。
 腹を抱えてうずくまる。
「や、やめ……」
 痛みをこらえつつも顔を上げようとした瞬間、強い衝撃が俺の後頭部を捕らえた。

 視界が暗転する。
 そして、俺の意識が遠くなった。
「……ヘヴン?」
 意識がとぎれる一瞬、俺は久々に天国を見た気がした。



 #6

 ……おい、孝之っ。
「……う……っ……」
「大丈夫か、孝之」
 気がつくと、俺は慎二に肩を揺さぶられていた。
「お、俺……気を失って?」
 と、脇を見ると、まだ乱闘は続いている。
「孝之が茜ちゃんの踵を食らってからすぐ来たから、時間は経って無いぞ」
 俺の疑問を理解したのか、慎二が説明する。
 そうか、随分長い気もしたが。
「1人じゃ無理だ、俺も手伝う」
「悪いな、慎二」
「だから、さっき羽交い締めしたことは忘れてくれ」
「それはダメだ。あれは許さん」
 キッパリ。

 ……一瞬の沈黙。

「と、とりあえず俺は茜ちゃんのほうに」
 と、慎二。
 さすがに大空寺は止められないと悟ったか。
「おし、じゃあ俺は大空寺行くから」
 俺たちは同時に動き出す。
「よし、今だっ」
 タイミングを見計らって飛びかかり、大空寺と茜ちゃんを引き剥がす。
「きゃっ」
「あ、あにすんのさっ」
 うるさい。

 ふにっ。

「はっ、はにふんのほー」
 両の頬を思いっきり伸ばす。
 びろびろ〜ん。
 おお、相変わらず良い伸びだ。
「いはいっていっへるへほー」
「んー、聞こえんなあ?」
 なおも伸ばしていく。
「はめへー」
 あ、涙がにじんできた。
 仕方ない、この辺で許してやるか。
「痛いって言ってるじゃないのさっ」
「スマン、聞き取れなかった」
「うがーっ」
「とにかく、外出るぞっ」
 俺は大空寺をヒョイッと抱え上げる。
 チビで軽いってのは、こういうとき便利だな。
「離せーっ」
 ジタバタと暴れる大空寺を抱えたまま、俺は外へと出る。
 隣を見ると、慎二も何とか茜ちゃんを説得したようだった。
 ふう、これで一安心だ。



 #7

 しばらくジタバタしていた茜ちゃんと大空寺だが、やがて疲れたのか寝てしまった。
 俺と慎二は店長に平謝りし、何とか許してもらった。もっとも、出入り禁止は食らってしまったが。
 俺は大空寺を玉野さんと慎二に任せ、涼宮姉妹を送ることにした。幸いにも遙は(かなり酔っていたが)歩けるので、俺は茜ちゃんを背負っていくことにした。
「たかゆきく〜ん、なんか、くるくるするよ〜」
「おい遙、あまりフラフラするなよ」
「う〜ん。だいじょうぶだよ〜」
 ゆらゆらと揺れながら、返事をする遙。
 確かに、後半は1人で飲んでたしな。
 明細見たら、『俺だったら2回ほど意識不明になるくらい』遙は飲んでたぞ。
 それでやっと、この程度なんだから、遙の酒に対する強さがわかるな。

 俺たちは、ゆっくりと家への道を歩く。
 瞬く星々に照らされて。

「鳴海さん……」
「ん?」
 返事がない。寝言か?
「大好きです……」

 ドキッとした。

「お兄ちゃんで……い……」
 そっか、妹として、か。

 そうだよな。

「どうしたの〜?」
 10歩ほど先を行く遙が、振り返る。
「いや、何でもない」
 茜ちゃんを背負ったまま、俺は足を速め、遙に追いついた。
「ほしがね〜、きれいなの〜」
「ああ、そうだな」
「うふふっ」
 遙が俺の前に回り込んでくる。
「孝之くん。あなたは今、幸せですか〜?」
 質問の意図がわからず、躊躇する。
「私は、幸せですよ〜」
 そう言って、腕を絡めてきた。
 遙の温もりを感じる。
「ああ、俺も幸せだ」
 こんなに可愛い姉妹に、包まれてるんだもんな。

 これが幸せでないはずがないだろ?

 なあ?



 end






















 俺が望む後書き

 と、言うわけで番外編の2、です。タイトルは一応、(仮)まで含めて、ということでお願いします(笑)
「とにかく飲むシーンを書こう」と思ったのですが……僕は飲まない人間なので、飲み屋のシーンって浮かばないんですよ。運良く知り合いと飲む機会が出来たので「取材取材〜」と思ったのですが……ダメ人間の集まりは参考になりませんね(苦笑)
 あとは、大空寺のセリフに困ったので、君望の大空寺シナリオを初めてやりました。何というか、ファンがいるのもわかる気がします。
 ……俺はあまり。
 しかし、どうしても茜ちゃんが可愛くなるのは何故でしょうね?

 次は本編、クリスマスネタです。クリスマスまでに間に合うかな?

 2001.12.10 間に合うといいね ちゃある

 後書き Ver2.00

 ・・・誤字脱字修正がほとんどです。

 2001.01.08 ちゃある

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