君が望む永遠 Snap Shot 帰り道
先のほうまで続く、テールランプ。
電光掲示板には『渋滞8km』の表示。
「……参ったな」
運転席で、兄さんが、大きなため息をついた。
「ごめんなさい。迎えになんか来てもらっちゃって」
「いや、いいんだよ」
「ううん、ホントはこれから姉さんと、予定があったんでしょ?」
「ん……まあ、ね。ちょっと映画を見に行く予定だったんだけど」
「この時間から?」
「うん、オールナイトでね。ちょっと昔の映画をやるんで」
「……また、カルトな映画ですか?」
「そうそう、『蒼い眼鏡』って、知らない?」
「……全く知りません」
「そっか、いや、遙も知らないっていうからさ、是非見せようと思ったんだけど」
「そうですか……姉さんも大変だなあ」
「ん? どういう意味」
「いえ、別に」
ごまかし笑い。
今は大会の帰り道。何でも電車が止まっているということで、ちょうどウチに来ていた兄さんが、迎えに来てくれた。
しかし同じことを皆考えたようで、こうして渋滞に巻き込まれていると言うわけ。
「裏道とか知っていれば、もう少し何とかなるんだが」
さっきから、何メートル進んだろう。
ちょっと前に兄さんに頼まれて買ったジュースの自販機が、まだサイドミラーに映っている。
チラリと、兄さんが時計を見た。
既に八時を回っている。
ここからは、道路が空いてさえいれば三十分足らずで着くはずなのに。
「あーっ、もう」
隣でイライラしている。これで煙草を吸う人だったなら、既に一箱空けてるんじゃないかという勢い。
「ごめんなさい……兄さん」
「え? ……ああ、ごめん。茜ちゃんが悪いわけじゃ、無いのにな」
「いいんです……私のせいでも」
「そんなこと無いだろう? そもそも電車が止まるのが悪いんだ。そうそう、悪いのは電車!」
兄さんはそう叫ぶ。やり場のない苛立ちをぶつけるかのように。
私はそんな兄さんの横顔を眺めながら、電車が止まったことに、感謝していた。
この渋滞がずっと続けばいいのに。
そんなことすら、考えてしまう。
だって。
今、この時間だけは。
私の隣に、兄さんがいてくれるから。
「お、動いた動いた」
三十分後、車が動き出した。どうやら前が事故を起こしていて、その処理が終わったらしい。
「はあ」
私はため息をつく。
「よかったな、茜ちゃん。これで帰れるよ」
「……そうですね」
笑みを返す。
兄さんは今のため息を、安堵のため息と勘違いしたようだ。
私にかけられた幸せの魔法は、こうして解けてしまった。
「な、茜ちゃん。腹減らない?」
「え? ええ……空きましたけど」
「じゃ、飯食っていこう。ちょうどすかいてんぷるが見えたから。俺、バイト特権で割引券持ってるからさ。おごるよ」
「……はい!」
私は元気良く返事をした。
……良かった。
もう少しだけ、魔法が続くみたい。
end
僕が望む後書き
えー、思いつき企画。一時間ネタです(笑)
川本真琴さんの「タイムマシーン」をモチーフにしました。決してザ・虎舞竜の「ロード」じゃありません(誰も思わないって)。
相変わらずの茜いじめですね。ああもう、だから茜って好きさ(笑)
シチュエーションだけのネタなので、SnapShot扱いです。ホントに
スナップショットっぽいでしょ?
……ホントはこんなネタ書いている暇があったら「遙誕生日ネタ」とか「ホワイトデーネタ」を書けというのに、ねえ?
では、次の作品で。
2002.02.21 ちゃある