君が望む永遠 SnapShot あまやどり






 激しい雨が、道路を一瞬で染め上げた。
 気がつけば雨粒の合唱。傘も持たない俺は、空に向かって無駄な文句を言いながら坂を駆け下りた。
「うわっ、きついな」
 走ってはみたもののさすがに厳しい。俺は仕方なく、坂を下りたところにある大きめの木の下で雨宿りをすることにした。
「くそ、グチャグチャだな」
 頭から靴下までビッショリだ。パンツすらも濡れている。
「今更雨宿りなんて、無駄だったかな」
「あたしも、そう思うよ」
 不意にかけられた声に、俺は驚いた。この木の下にはすでに先客がいたのだ。
「でも、学校から走ってくるとこの辺でめげるのよね。たぶん疲れるのもあるんだろうけど」
 言いながら彼女は姿を現した。背中まで伸びる長い髪。見たことある顔だ。ええと……。
 くそ、思い出せないな。
「雨、止むかな」
「……どうだろ?」
 彼女の問いかけに俺は思考を中断し、空を見上げる。今のところ止む気配は、どこにもないようだ。
「どうしよっかなー」
 彼女も空を見上げた。
 ふと、彼女を見る。
 背中まで届く彼女の髪は、やはり雨に濡れていた。
 しかしそれが、彼女の美しさを引き立てている。
 そしてその、真っ直ぐな瞳。
 俺は、その一瞬だけで彼女に魅せられた。
 俺は流れるような髪を追って、視線を下げる。
 制服の下から透けるブラのラインが、俺の視線に飛び込んだ。
「うっ」
 心臓が口から飛び出すほどの鼓動が、俺の胸を打つ。
「あ、なあ……」
「ん? なに?」
「その……俺のジャージ、使うか?」
「え?」
「あ、いや……その……」
 しどろもどろの俺の態度と視線に、彼女はようやく気づいたらしい。
「あ、これ? 大丈夫。あたしもジャージ、持ってるから」
 照れながらも彼女は足下のスポーツバッグからジャージを取り出した。
「ね?」
 と、胸の前に当てる。
「そ、そっか……」
 でも、ちょっと残念な気がしたのは何故だろうか。
「でも、ありがとう」
「え?」
「ん、気を使わせちゃったな、って思って」
「いや、そんなことはないよ」
 なんか照れてしまう。

 しばし二人は、無言で空を見ていた。
 流れる雲。
 降り続ける雨。
 けれど、
 俺には何よりも、隣の彼女が、気になっていた。

「ね」
「は、はい」
 心臓が跳ね上がった。
「もうすぐ、止みそうだね」
 彼女の言葉に改めて空を見る。
 確かに、さっきより明るくなっているかも。
 ……彼女に気を取られて、全く見てなかったんだな。

 やがて、雨は小雨に変わった。
「そろそろ、行けそうね」
「そうだな」
 いつの間にか、彼女は制服の上からジャージを着ていた。上腕のふくらみが少しかっこわるいけど、さすがに脱ぐわけには行かないのだろう。
「じゃ、行きましょうか」
「おう」
 俺たちは走り出す。
「……感謝しないといけないな」
「え? なんか言った?」
「いやこっちのこと」
 彼女と引き合わせてくれた、この雨に。

 最大限の感謝を。


 end








  俺が望む後書き


 本文中では触れていませんが、これは慎二と水月の物語です。
 元々『本日のお題「雨の街、出会い」』という感じで即興雑文だったのですが、ちと褒められたので抜き出して見ました。
 ま、指摘部分やら気になった部分は修正しましたけど。
 では、次のお話で。

 2002.05.27 ちゃある


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