君望SnapShot 雨の街を僕らは歩く 〜孝之Side〜 「じゃ、先あがります」 「はい、ごくろうさま」  とは言ったものの……。  外は風景がかすむほどの雨。午後は遙の見舞いに行こうと思ったが、濡れねずみ じゃ直接は行けないか。  一度家に帰るのも面倒なんだけどな。 「鳴海さん」  意を決して土砂降りの雨に身を投じようとしたとき、不意に脇から声がした。  知っている声。 「……茜ちゃん」  そこにいたのは、紛れも無く茜ちゃんだった。 「どうして……」 「たまたまこっちに寄ったんです。それで、そう言えば鳴海さん、午後から姉さん の見舞いに来るんだったな、と思って。別にどうでも良かったんですけど、急な雨 だったので」  ここに? と聞く前に、茜ちゃんは早口でしゃべり始めた。 「……濡れねずみで姉さんに会われるのも困るし、そのまま帰られても姉さんが悲 しむので、せっかくだから傘に入れてあげようかなと思ったんですけど」 「ホントに?」 「別に、濡れて帰ってもらっても私は困らないんですけど」  冷たい声。けれど、目を逸らす茜ちゃんはなんか照れているようにも見える。 「あ、あの、じゃあ悪いんだけど、一緒に入れてもらっても良いかな」 「ええ、最初からそのつもりでしたから」 「……サンキュ」  俺は茜ちゃんの持つ傘に入れてもらう。 「あ、持つよ」  と、傘を持とうとして、  茜ちゃんの手に、触れてしまった。  ビクッとして茜ちゃんが手を引いた。  傘が大きく揺れる。 「ご、ごめん……」  やっぱり嫌われてるんだな。 「あ……」  どことなく困ったような表情の茜ちゃん。  でも俺からは何も言えず、ただ二人は無言で駅に向かって歩いていく。  しかし。  茜ちゃんは良く俺の上がる時間知ってたな。 「な、茜ちゃん」 「……何ですか」  冷たい声。  その声に、気圧されそうになる。 「……いつから、あそこにいたんだ?」 「……そんなにいませんでしたよ」 「そっか……なら、良いんだけど」  会話が続かない。  参ったな。  と。  茜ちゃんの左肩が、随分濡れていることに気づいた。 「茜ちゃん。肩、濡れてるよ」 「いいんです。鳴海さんが濡れる方が困りますから」 「そんな、それじゃ俺だって困るよ」 「私は、一度家に帰って着替えますから」 「……それじゃあ、俺は直接病院に行けないな。一緒に茜ちゃんの家に行かないと」 「え?」 「だって、駅から病院まで、雨具無いもの」 「あ……」  困った表情の茜ちゃん。 「な? 悪いんだけど病院までつき合ってくれると嬉しいな」 「……」  茜ちゃんは、無言。  その間に俺は茜ちゃんの手に触れないように傘を持ち、茜ちゃんの方に傾けた。 「……仕方ないですね」  はあ、とため息。 「どうせ一人でも多少は濡れるんです。このまま姉さんのところへ行きましょう」 「……すまないね」 「じゃあもう少し身体を寄せてください」 「あ、ああ……」  茜ちゃんと密着するような形で、俺達は歩く。  多少不格好ではあるが、少なくとも前よりはお互いに濡れる面積が狭い。  ふと茜ちゃんを見ると、偶然目があった。 「あ……」  ぷいと顔を逸らす茜ちゃん。  やっぱりまだ、嫌われてるんだな……。  でも。  いつか許してもらいたい。  そんなことを思いながら、俺は茜ちゃんと駅を目指した。  end  俺が望む後書き  後書きは「雨の街を僕らは歩く 〜茜Side〜」のほうで。