君望SnapShot 雨の街を僕らは歩く 〜茜Side〜






 気がつけば、私は鳴海さんのバイト先に来ていた。
 ちょうどこっちに用があって、雨の中用を済ませた。

 そう言えば鳴海さん、午後から来るようなこと言ってたっけ。
 雨、大丈夫なのかな。

 そんなことを考えてたら、自然と足が向かっていた。
「どうして、こんなことしてるんだろう……」
 裏口で、傘を差して立っている私。
 もう帰ったかもしれないのに。
 自分も姉さんのお見舞いに行かなくちゃならないのに。

「なにやってるんだろ、私……」
 傘を叩く雨音は、次第に強くなっている。
 と、裏口の開く音がした
 鳴海さんだ。
 鳴海さんはこちらに気づかず、ただ外を見てため息をついている。
 私は意を決して声をかけた。
「鳴海さん」
「……茜ちゃん」
 鳴海さんは驚いた顔で私を見る。
 それはそうかもしれない。
 だって。
 自分でもわからないんだから。
「どうして……」
「たまたまこっちに寄ったんです。それで、そう言えば鳴海さん、午後から姉さんの見舞いに来るんだったな、と思って。別にどうでも良かったんですけど、急な雨だったので」
 私は早口で理由を並べ立てる。
「……濡れねずみで姉さんに会われるのも困るし、そのまま帰られても姉さんが悲しむので、せっかくだから傘に入れてあげようかなと思ったんですけど」
「ホントに?」
「別に、濡れて帰ってもらっても私は困らないんですけど」
 嬉しそうな顔に思わず顔がほころびそうになり、慌てて目をそらし、冷たい声で返す。
「あ、あの、じゃあ悪いんだけど、一緒に入れてもらっても良いかな」
「ええ、最初からそのつもりでしたから」
「……サンキュ」
 鳴海さんは申し訳なさそうな顔で傘に入ってきた。
「あ、持つよ」
 鳴海さんの手が、傘の柄に伸び……。
 ……私の手に、触れた。
 あっ。
 私はどきっとして手を引く。
 その動きにあわせて、傘が大きく揺れた。
「ご、ごめん……」
「あ……」
 私の方こそ。
 ……その言葉が出ない。
 たった一言が言えない。
 鳴海さんからもそれ以上言葉が無く、二人は無言で駅に向かって歩いていく。
「な、茜ちゃん」
「……何ですか」
 動揺を悟られぬよう、冷たい声で答える。
「……いつから、あそこにいたんだ?」
「……そんなにいませんでしたよ」
「そっか……なら、良いんだけど」
 本当は。

 三十分くらい、待ってたけど。

「茜ちゃん。肩、濡れてるよ」
 不意に鳴海さんが声をかけてきた。
 意図的に鳴海さん側に傘を向けていたのがわかったらしい。
「いいんです。鳴海さんが濡れる方が困りますから」
「そんな、それじゃ俺だって困るよ」
「私は、一度家に帰って着替えますから」
「……それじゃあ、俺は直接病院に行けないな。一緒に茜ちゃんの家に行かないと」
「え?」
「だって、駅から病院まで、雨具無いもの」
「あ……」
 そっか。
「な? 悪いんだけど病院までつき合ってくれると嬉しいな」
「……」
 鳴海さんのその顔に、私は何も言えない。
 その間に鳴海さんは傘を持ち、私の方に傾ける。
「……仕方ないですね」
 はあ、とため息。
「どうせ一人でも多少は濡れるんです。このまま姉さんのところへ行きましょう」
「……すまないね」
「じゃあもう少し身体を寄せてください」
「あ、ああ……」
 鳴海さんと密着するような形で、私達は歩く。
 まるで鳴海さんに、守られているような感じ。
 ふと鳴海さんを見ると、偶然目があった。
「あ……」
 心臓が、跳ねた。
 顔が赤くなるのを悟られないように、顔をそむける。

 今は。
 今はまだ、言えないから。

 でも、もう少しだけ。

 このままでいさせてください……。








 俺が望む後書き

 ええと、これは「雨と傘」というお題で雑文大会を行ったときのネタが元になっています。
 一応二章中という設定ですが、細かくタイムテーブルなど確認せずに書いたので矛盾などあるかもしれません(そもそもこの話が成り立たないかもしれないデス)。
 まあ、雰囲気だけでも伝わればな、と思います。
 では。

 2002.06.19 ちゃある

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