君が望む永遠SS  天使の生誕を僕らは祝う






  #1 始まりは一本の電話から。


 プルルルル……。
 部屋の電話が鳴った。
 慌てて取る。
「もしもし」
『もしもし兄さん? 茜です』
「よお、何か久しぶり」
『何言ってんですか、十四日に会ってるじゃないですか』
「そっか、キャンディあげたっけ?」
『そうですよ。まだ三日しか経ってませんよ』
「そうかそうか。あ、やっぱ電話だからかな。電話での茜ちゃんの声聞くの、久々の気がする」
『そういう意味なら、そうかもしれませんね』
「で? 今日は何の用?」
『兄さん、姉さんの誕生日、バイトじゃないですよね?』
「ああ、さすがにそれは、と思って避けたけど」
『……よかった。その日はウチでパーティーするんで、参加のほうよろしくお願いしますね?』
「え? それ、もう確定?」
『確定です。……何しろ三年ぶりの誕生日ですからね。お父さんもお母さんも、楽しみにしてますから』
「そうなんだ。……もしかして涼宮家って、誕生日はホームパーティーがデフォルト?」
『ええ。去年の私の誕生日は、兄さんバイトだったか教習所だったかで来てくれませんでしたけど』
「……サラリとキツイこと言うねえ、茜くん?」
『そうですか? そういうつもりは無かったんですけど』
 ……嘘つけ。
『とりあえず兄さんは姉さん連れだし係ですから、そのつもりでいてください』
「なにそれ?」
『言葉通りです』
「はあ、そうですか」
『と・に・か・く、わかりました?』
「はい、わかりました」
 茜ちゃんの妙な勢いに押され、素直に返事をする。
『じゃ、よろしくお願いしますね』
 最後は妙にかわいげのある声のあと、電話が切られた。
「……なんなんだ?」
 まあ、遙の誕生日なのは間違いないから、いいかな。





  #2 とかくプレゼントというものは、選ぶのに苦労するものだ。


「……困った」
 『すかいてんぷる』の休憩室で昼飯(オーダーミスのエビフライを戴いている)を食べながら、俺は悩んだ。
「何をあげていいのか、さっぱりわからん」
 とりあえず頭の中でリストアップしてみる。
 ・本命は花か……ただ、残らないのがちょっとな。
 ・お菓子……いやいや、お見舞いじゃないんだから。
 ・ぬいぐるみ……子供か? ああでも、遙の部屋って結構ぬいぐるみあるんだよな。
 ・洋服……何が似合うんだかわからん。
 ・絵本……好みがわからんなあ。
 ・アクセサリ……クリスマスにあげちゃったんだよな……。
「だはー、わからんー」
 背もたれに寄りかかって大きく伸びをした瞬間、良く知った顔が目の前に洗われた。
「何叫んでんのさ」
「うわっ、大空寺」
 慌てて顔を上げる。
「何でそんなに驚く? 何かやましいことでもあんの?」
「……いや、へちゃむくれの顔がいきなり現れたら誰だって驚くだろ」
「あんですと?」
「ああそうだ、大空寺さ。好きな男からの誕生日プレゼント、何欲しい?」
「はあ? 何言ってんのさ」
「……ああ、お前に聞くのが間違っていた。スマン、無かったことにしてくれ」
 俺は手をヒラヒラと振り、視線を目の前の皿に移した。
「相手が愛情こめてくれた物なら、なんだって嬉しいさ」
 大空寺の意外な言葉に、俺は大空寺のほうを振り向く。
「……あにジロジロ見てんのさ」
「いや……大空寺からまともな言葉を聞くとは思ってなかったから」
「あんですとーっ」
「ああスマン。でも、そういうものなのか?」
「へ? あにが?」
「……自分で言ったことを覚えてないのか? 相手の想いがこもっていれば、なんだって嬉しいって言ったろ?
「ああ、それは当然のことさ。アンタだって、相手から贈られたものに愛情がこもってるってわかったら、それが何だって嬉しいさ?」
「そうだな……確かに」
「そんなこともわかんないから、単細胞生物って言われるのさ」
 大空寺は偉そうに腕を組む。
 その態度にムッときたが、今回は許してやろう。
「ん……サンキュな」
 軽くお礼を言ったつもりだったが、途端に大空寺の顔が赤くなる。
「なっ、お、お礼なんて言われる筋合いは無いさ」
「……なに照れてんだ、お前」
「うっ、うるさーい、お前なんか猫のうんこ踏めーっ」
 大空寺の怒鳴り声が休憩室中に響いた。





  #3 納得したはずだが、実は解決していないと言うのは良くあることだ。


「じゃあ何をあげるか、と言われると、やっぱり何も浮かばないんだよな」
 バイトが終わり、俺は部屋に戻るとベッドにごろんと仰向けになった。
「愛情こめたものをあげよう。それは決まり。じゃあ何をあげる?」
 天井に向かって問いかける。
 もちろん、返事などあるわけがないのだが。
「……とりあえず、飯にするかな」
 一瞬このまま寝てしまおうかと思ったが、シャワーを浴びていなければ飯も食っていない。さすがにそれはまずかろうと思い、起きあがる。
 ぴんぽーん。
 不意にチャイムが鳴った。
「誰だ? こんな時間に」
 考えられるのは慎二あたりだが……。
 不審に思いつつ玄関に行くと、先にドアが開いた。
「こんばんは」
「あ、茜ちゃん?」
 俺は予想外の人物が立っていたので驚いた。
「白陵大で水泳の練習をしてたんですけど……なんとなく来ちゃいました」
「何となくって……」
 そう言えば、茜ちゃんは私服だった。今までは白陵柊に通っていたから制服だったが、卒業式を迎えてからは白陵大で練習をしてるのか……。
「ええと……本当は、姉さんの誕生パーティーの話で」
「あ、そういうこと」
 確かに思い当たる理由はそれしかないけど。
「あ、と、とりあえず上がってよ。汚いけど」
「……本当に汚いですね」
 部屋の惨状を見て、茜ちゃんがため息をつく。
「これだけ汚いと、掃除したくなっちゃいますね」
「あー、今日は勘弁。さすがにこの時間からどたどたすると回りに迷惑だから」
「冗談ですよ」
 笑いながら、茜ちゃんは台所のテーブルにつく。
「夕飯は食べたの? まだなら一緒に食べる? 出来合いだけど」
「あ、いただきます。……兄さん、料理できるんですね」
「これでも一人暮らしが長いからな」
 少ない予算を効率的に使うには、自炊は必要不可欠なのだよ。
 俺は余った野菜をさっと炒めた後、別で作った鶏ガラスープの中にざっと入れる。
 調味料で味を調えたら出来上がり。
「はい。野菜たっぷりスープ」
「うわ、美味しそうな匂い」
「いや、美味いから食べてみな? あ、冷や飯入れても美味いぞ」
「いただきまーす……あ、美味しい」
「だろ? あんまり手間もかからないし、面倒なときはこれを良く作るんだ」
 驚いた表情の茜ちゃんを見て、俺は満足げに頷いた。
 きっかけは、『野菜炒めをカップラーメンに入れたらどうかな?』という話なのだが。

「ごちそうさまでしたー。これ、身体暖まりますねー」
「まあな。おかげで夏は食えない」
「そうですね」
 茜ちゃんが笑う。
「さて、本題に入ろうか。えと、遙の誕生日の話、だっけ?」
 俺はテーブルの上を片づけながら、茜ちゃんに問いかけた。
「ええ。一応当日はお父さんが帰ってくるのを待って、と言う形になります。で、その前に準備をしたいんですけど」
「その間遙を外に連れ出しておけと?」
「簡単に言うとそうですね。まあ……普通にデートしてきてくれれば」
 少し沈んだ顔をする茜ちゃん。
「ん? どうかした?」
「え? あ、ちょっと……つまらないこと思い出したんです」
 デートに何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「そうですね。後は帰ってきたところをクラッカーを持って待ってる、と、そんな感じですかね」
「ふむ」
「あとはプレゼントなんですけど……兄さん、もう決めました?」
 何げに痛いところをついてくる茜ちゃん。
「あー……まだなんだ」
「じゃあ、今度の日曜に一緒に見に行きませんか?」
「え?」
「私も決めかねてるんですよ。それに、クラッカーとか準備しないとならないし」
「それは……荷物持ちになれ、と?」
「あ、いえ……嫌ならいいんです。嫌なら……」
 沈んだ顔をする茜ちゃん。
「いや、かまわないよ。丁度休みだから」
「ホントですか! じゃあ日曜十時にこっち来ますね」
「ああ、わかった」
「やったあ。これで高いものも買える〜」
「おいおい、俺だって予算があるんだからな」
「わかってますよ。でも、二人分合わせたら結構良いものが買えると思いませんか?」
 嬉しそうな茜ちゃん。ま、いいんだけどね。





  #4 例えばこういうのは『妹とデート』とかいうのだろうか。


 日曜日。
 俺と茜ちゃんは橘町に来ていた。
 まずは誕生日のプレゼントを買おうと、アクセサリーの店に入った。
「いらっしゃいませ。彼女にプレゼントですか?」
「あ、いや、違うんです」
 店員に尋ねられ、慌てて否定する。
「今日は、私の姉に贈るプレゼントを探しにきたんです」
 茜ちゃんはニッコリと、店員に言った。
「前にね。こんな感じのネックレスをあげたんだ」
 と、ショーケースを指さす。
「ああ、アクアマリンは姉さんの誕生石ですね」
「そうらしいね。俺、知らなかったんだけど」
「知らなかったんですか? それでよくこれを選びましたね」
「まあ……愛の力ってやつ?」
「はいはい……じゃあ、これとお揃いが良いですね」
「ツッコミも無しですか?」
「だってそんなにのろけられたら、ツッコミ入れる気も失せちゃいますよ」
 茜ちゃんは苦笑。
「ま、それはそれとして、イヤリングなんてどうですか? ちょうどこれなんか」
 そう言って茜ちゃんが指したのは、やはりアクアマリンのイヤリング。
「そうだな……イヤリングか……」
「姉さんもそろそろそういうおしゃれをしたほうが、良いと思うんですよ」
「そっか……そうだよな……」
「値段も手頃ですよ? 私も少し出しますし」
 茜ちゃんがもみ手をしながら寄ってくる。
「じゃ、これにしようか。茜ちゃんの見立てなら、間違いないだろ」
 俺は店員を呼び、プレゼント用にイヤリングを包んでもらう。
 きれいに放送してもらっている脇で、茜ちゃんがネックレスを見ている。
 俺は茜ちゃんの脇に立ち、一緒にのぞき込んだ。
「こういうの……やっぱ茜ちゃんも欲しいんだ?」
「え? ええ、それはまあ、私も女の子ですから……」
「ふむ……」
 と、値段をチラリと見る。
 いけるかな?
「例えば、この中だったらどれが好き?」
「そうですね。この星形のネックレスとか、きれいじゃないですか?」
「あ、そう」
 と言って俺は顔を上げる。
「すいませーん。コイツも追加でーっ」
「え? いいですいいです。申し訳ないですよ」
「いいって。俺、茜ちゃんの誕生日に何もあげてないだろ? 誕生日プレゼントってことで」
「でも……」
 なおも食い下がる茜ちゃんを振りきって、俺はシルバーのネックレスを買った。
 アクセサリー店を出たところで、俺はネックレスを茜ちゃんに差し出した。
「はい。茜ちゃん。もう買っちゃったから、受け取ってくれよな」
「……ありがとうございます……一生、大事にしますね」
 茜ちゃんはネックレスを受け取ると、両手で包み込むよう胸の前で抱えた。
「ははっ、大げさだな。さ、次はクラッカーかな」
「そうですね」
 俺は先に歩き出す。茜ちゃんが後から追いつき、俺と並んで歩く。
「なんか……デートみたい、ですね」
 不意に茜ちゃんがつぶやいた。
「……そう……かな。確かに知らない人が見たら、そう思うかもな」
「妹とデート、ですか?」
「そうだね、そんな感じ」
 お互い顔を見合わせて、笑う。
「じゃあ買い物して、ちょっとお茶でもして帰ろうか。デートだから」
「はい!」
 茜ちゃんが元気良く返事をする。

 たまには良いんじゃないかな。
 こうして、妹とデートするのも。





  #5 今日二人きりでいられるのはこの時間だけだから。


 誕生日当日。俺は遙と東京のデパートまで絵画展を見に来た。昼間遙を連れ出して欲しいと言われたからなのだが、せっかくだから遙が行きたがっていた絵画展に行こうと思ったのだ。
 平日の昼間とは言え、今日は休みを取った人が多いのか、それなりに車内は混んでいる。
「……そっか、春休みなんだよな」
 さすがに三年も立つと、学生時代の長期休暇など頭から消え去ってしまう。
「絵画展なんて、久しぶりだなー」
 遙がウキウキした表情で言う。今日の遙は、淡い水色のワンピースだ。
 胸には、アクアマリンのネックレスも、着けている。
「まあ、俺があまり興味ないのが悪いんだけど」
「ええっ、そう言う意味で言ったんじゃないよう……」
 遙がシュンとした顔をする。
「ああ俺も、そんな意味で言ったんじゃないんだよ」
 慌てて俺は遙の頭を撫でる。
「ふにゅう」
 頭を撫でられ、嬉しそうな、気持ちよさそうな顔で微笑む遙。
 まるで子猫のような顔。
 可愛い。
 思わず抱きしめたい衝動に駆られたが、さすがに電車の中なのでぐっと我慢する。
 俺はその衝動をごまかすため、窓の外を流れる景色に目を向けた。


 絵画展は、まあ正直言えば俺自身にとって面白いものではなかった。けれど幸せそうな瞳で一枚一枚の絵画を丁寧に見ていく遙の表情はなかなか見られるものではなく、そう言う意味では非情に楽しいものだった。
「楽しかった?」
「うん、とっても。私、ああ言う絵が描きたいな」
 今はお茶の時間。適当な喫茶店に入ったのだが、十を越える紅茶の種類があり、遙が喜んでいた。
「そっか、確かにあの絵は絵本に合うよね」
「うん、あんな絵を私も描けたらいいなって思うよ」
 遙は嬉しそうに微笑む。きっとあの絵は、ある意味遙の目標なのだろう。
「そういえば遙、絵本は今も描いてるの?」
「うん……勉強の合間とかにね。まだ、見せられるものじゃないけど」
「でも今度、見せて欲しいな。うん」
「ええっ……恥ずかしいよぉ……」
「でも、誰も読まないものを描いていても仕方ないだろ? 俺が、最初の読者になりたいなって、思ったんだけど」
「えっ」
 遙が驚いた表情をする。
「俺はまだ絵本ってよくわからないけどさ。よくわからない人に見てもらうのって、実は結構重要じゃないかな。良く読む人じゃわからない欠点とか、出てくるだろ?」
「ああ、そうだね。うん、そうかも。孝之くんすごーい」
「いや、誉められるほどのものでは無いんじゃないかな」
「今度出来たら、孝之くんに見せるね。私の、最初の読者になって」
「おお、任せとけ」
 俺はぽんっと胸を叩く。俺の仕草に、遙はまた笑った。





  #5 天使の生誕を僕らは祝う。


「誕生日おめでとーっ」
 涼宮家に戻るなり、遙はクラッカーの洗礼を受けた。俺もポケットに隠し持っていたクラッカーで、遙の背後を襲う。
「きゃっ、あ、ありがとう」
 遙は驚きながらもお礼を言う。
「さ、始めようか」
 お父さんの言葉で、パーティーは始まった。

「ハッピーバースデートゥーユ〜」
 ケーキの上には二十一本のロウソク。
 誕生日の歌を歌う俺達。
「ハッピーバースデーディア遙〜ハッピーバースデートゥーユ〜」
 歌の終了と同時に遙がロウソクを吹き消す。さすがに一息で消せず、三回くらい吹いてやっと火が消えた。
 みんなが拍手で祝福する。
「はい、お父さんとお母さんから」
「うわあ、ありがとう」
 遙はお母さんからプレゼントを受け取る。どうやらスケッチブックと色鉛筆らしい。
 ……見ただけで高価そうなのがわかるんですが。
「じゃあ今度スケッチにでも行こうか。せっかくだから」
「うん。行こう行こう!」
 俺の言葉に、遙が嬉しそうに頷く。
「じゃあそれはそういうことで。で、これは俺と茜ちゃんから」
 俺はリボンに包まれた小さな箱を、遙に手渡す。
「一応私が二割出資してます」
 と、茜ちゃんが付け足す。
「ありがとう……これは、なに?」
「姉さん、開けてみて」
「う、うん……」
 茜ちゃんに促され、遙は包装を丁寧に剥がし、箱を開けた。
「うわあ、イヤリング」
「気に入ってくれるかわからないけど」
「ううん。いいよ。大事にするね、孝之くん」
「あのー、一応私も二割出資してるんですけど〜」
「あ、ご、ごめん茜」
「まあ、良いんですけどね……」
 茜ちゃんはそう言って肩をすくめる。
「ね、今着けてみても、いい?」
「いいけど、姉さん、できる?」
「うーん……」
「あらあらあら、じゃあこっちで着けましょうね」
 お母さんに促され、二人は隣の部屋に消える。
「姉さん、初めてのことは本当に不器用だからなあ」
 茜ちゃんが、困った表情で腕を組んだ。
「あれ? 茜ちゃん……それ」
「あ、兄さんやっと気づいたんですか?」
「ああ、ごめん」
 茜ちゃんは、この間プレゼントした銀のネックレスをしていた。星形の飾りが、胸元で光っている。
「それは……鳴海君が?」
「ええ……半年遅れの誕生日プレゼント、ってやつです」
「そうかそうか、茜の時は、鳴海君来てなかったんだっけな」
「そうなんだよ。おまけにプレゼントもくれないし」
「……だから買っただろ?」
「冗談ですよ」
 あははは、と茜ちゃんが小悪魔的な表情で笑う。
 むむう。

「おまたせー」
 遙とお母さんが戻ってきた。遙の耳には、淡い水色のイヤリングが輝いている。
「お、似合うねえ」
「うんうん。お姉ちゃんはそういう淡い色が似合うよね」
 俺と茜ちゃんが続けて誉める
「そ、そうかな」
 照れる遙。
「本当に、よく似合ってるよ。それを選んで良かった」
「……うん」
 照れた表情で、俺を見つめる遙。
「あのー、それを選んだの私なんですけど〜」
 割り込むような茜ちゃんのセリフ。
「あ、ご、ごめん茜」
「まあ、いいんですけどね〜」
 そう言って茜ちゃんは、さっきと同じように肩をすくめる。
 その仕草に、俺は笑う。
 そして、みんなも笑った。





  #6 祭りの終わりは、いつでも寂しくなる。


「じゃあ……俺、そろそろ」
 時計が十一時を回る頃、俺は立ち上がった」
「もう帰っちゃうの?」
 酔いで顔の赤くなった遙が、上目遣いで俺を見る。ちなみに茜ちゃんはというと、久しぶりに飲んだアルコールのせいか、ソファーで眠っている。
「ごめんな、明日バイトなんだ」
「そっか……つまんないな……」
 さすがにあれだけ飲んだからか、遙は少し酔っているようだ。子供みたいな口調で、拗ねた顔をする。
「まあまあ、鳴海君に会えなくなるわけじゃないんだから」
「……うん」
 お父さんも幼児退行を理解してるのか、優しい口調で遙に言った。
「また、来るから、さ」
「うん……あ、ちょっとまって」
 そう言って遙は、自分の部屋に上がっていく。
 ……あれだけ飲んだのに、足取りしっかりしてるなあ。

 しばらくの後、遙は一冊のスケッチブックを抱えて戻ってきた。
「あのね。ちょっと前に描いたの。読んで」
 そう言って、遙は俺にスケッチブックを差し出す。
「……いいの?」
「うん……私の、最初の読者になって欲しいの」
「そっか、じゃあ読ませてもらうよ」
「うん」
「じゃあ……帰るね。お邪魔しました」
「あ、外まで見送る」
 そう言って、遙は俺の後に付いてきた。


「今日は随分星がきれいだな」
「そうだね」
「きっと、星も遙の誕生日を祝ってるんだよ」
「え? そんなことないよ……」
 照れた顔をする遙。こんな事を言うなんて、俺も酔ってるのだろうか。
「じゃ、行くね」
「あ、ちょっと待って」
 そう言って、遙は目を閉じる。
 俺は遙を少し抱き寄せ、唇を重ねる。
 甘い香り。
 俺は遙を感じたくて、唇を吸う。
「んっ」
 そしてゆっくりと、唇を離した。
「ふあ……」
 トロンとした、遙の顔。
「じゃ、また」
「……うん」
 名残惜しそうな遙の額に、俺はもう一度、キスをする。
「遙……愛してる」
「うん……私も、愛してるよ」
 そして、俺達はもう一度キスをした。




 俺の天使が生まれた日。
 その日に、感謝して。





 end











  俺が望む後書き

 えー、いちおできました。
 書き込み不足を感じているので、後で直すかもしれませんが、とりあえずはこのまま出します。
 ホームパーティーだと、いまいち二人の書き込みが出来ないので失敗したかも、と思いました。いや、茜が書きたかっただけなんですけどね(笑)
 しかし茜の書き込みも足りない・・・だめだ(爆死)
 
 ま、とりあえず間に合ったのでセーフという事で。・・・出来はともかくとして。

 2002.03.22 天使の誕生日に ちゃある

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