君が望む永遠 SnapShot 「遙の願い 私の思い」
「ねえ、水月……」
「ん?」
「今日……鳴海くん、授業出てた?」
「え? あー、うん。多分」
「あ、そう……」
それっきり、遙は黙ってしまった。
ここは、駅前のハンバーガーショップ。ここに遙と来るのも久しぶりだ。今日は水泳部の練習が無かったので、久しぶりに遙を誘った。
「……で? 鳴海がどうかしたの?」
「え? え? ううん、何でもないの」
「何よその驚いた表情は。最近、毎日聞いてきてるじゃない」
「そ……そうだっけ?」
「そうだよ」
最近の遙は、なんかおかしい。
何かとウチのクラスの『鳴海孝之』ってヤツのことを聞いてくる。
「うーん、あの、えっと、そう。いろいろとね、話題になってて」
「話題?」
「うん。例えばね、今年の始業式に、一人だけ後から駆け込んできたでしょ?」
「え?」
思い出した。
確かに、今年の始業式を講堂で行っているところに一人派手な音を立てて飛び込んできたのが、鳴海孝之だったか。
うん、他にもいろいろと小さな問題を起こしている気がする。
「やっぱこう、問題児っぽい奴はどこでも話題になるのかねえ」
「あ……うん……そう……だと、思う」
遙はちょっと悲しげな目をしながらも頷く。
あれ、あたしな何か変なこと言ったかな?
「そう言えば……今日の六限は、いなかった気がする」
「そうなんだ……また、あそこに行ってるのかなあ?」
「なに、その『あそこ』って」
「え? あ、なんでもないなんでもない」
遙は慌てて手と首を横に振る。
「なーんか、今日の遙、おかしいんだよねー。あたしに何か隠し事してない?」
「そんな、隠し事なんて」
エヘ、と困ったように微笑む遙。
絶対に怪しい。
「ちゃんと話しなさいよ。あたしと遙の仲でしょう?」
うつむく遙の目を捕らえるように、下からのぞき込む。
遙は、顔を真っ赤にしている。
何をそんなに照れてるんだろう。
あたしと遙は、一年からのつき合いだ。きっかけは入学式の日だった。初めて見たときから、どこか危なっかしくて、放っておけなかった(だって入学式に弱っている子猫を見つけたからって、こっそり飼おうとするのよ? 信じられる? ま、付き合ったあたしも我ながら凄いと思うけど。ちなみに入学式をサボったので、二人して後で怒られた)のは確かだと思うけど、きっとあたしたちは、お互いが持っていないものに惹かれたのだと思う。だからクラスが変わっても、あたしたちはつき合いが続いている。
「お互い隠しっこは無しにしようよ。ね?」
あたしは顔を真っ赤にして照れている遙に、笑顔で話しかける。
「じゃあ……誰にも、内緒……だよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。あたしって口堅いから」
「ほんとだよ? 誰にも言っちゃ、だめだよ?」
「うん、絶対言わない」
あたしは真摯な目で遙を見る。彼女に対しては、嘘を付きたくないから。
「……あのね」
しばらくためらった後、遙が口を開いた。
「私……鳴海君の事が、好きなの」
「……え?」
遙は言い終わると、耳まで真っ赤にしてうつむく。
「ホントに?」
あたしは思わず聞き返してしまった。確かに今までの素振りからすると間違いは無い、と思う。でも、遙が鳴海孝之を好きだなんて、どう考えても信じられなかった。
遙はあたしの問いに頷きで答える。もう、言葉も出ないようだ。
「へえー、遙がねえ。それにしても、何故?」
それがわからない。確かに鳴海孝之は雰囲気的に明るい感じだし、勉強はできそうにないけど、性格はまあまあのような気がする。
しかし、それだけでは遙が好きになる理由にはならない気がする。
「…………」
当の遙は、黙ってうつむいたままだ。
「ま、理由は人それぞれだから、言いづらいなら言わなくてもいいけどね」
今までの感触からそこまで聞き出すのはムリだと判断し、あたしは肩をすくめた。
遙は一見他人に流されやすいように見えるが、変なところで頑固なところがある。譲れない部分は誰がなんと言っても譲らない。そう言う子なのだ。
「……じゃあ、あたしが毎日、鳴海のことを遙に教えてあげる」
「え? 本当?」
「うん。まあ練習があるから夜遅くになっちゃうけど、電話するよ」
「うわあ、嬉しいな。水月、ありがとう」
「大したことじゃないよ。それに、鳴海のどこが好きなのか、興味あるしね」
それが本音。
「ええっとね……優しいとこ」
遙はそう言って、照れたような顔でうつむく。
「へえ、そうなんだ」
「うん、あのね、あのね……」
堰を切ったように、遙がしゃべり出す。
こんなに活発な遙を見るのは、久しぶりだ。
あたしは妙に嬉しくなって、遙の言葉に耳を傾けた。
結局あたしはあの後二時間も鳴海孝之の話を聞かされた。遠くから見ているだけでよくもまあこんなにネタがあるものだと感心したが、恋する乙女ってのはそう言うものなのだろう。
……ま、おごってもらったからいいけど。
「じゃあ、明日からよろしくね」
「はいはい」
駅前で、手を振って別れる。
「さて……まずはどうやって近づこうかな」
あたしは考える。やっぱ鳴海のことを知るには、友達になっておいたほうがいい。
ちょっと動機は不純だけど、まあいいや。
──親友のために、一肌脱ぎますか。
あたしはすっかり暗くなった街を、家に向かって歩き出した。
僕が望む後書き
と、いうわけでスナップショットです。これ、書き始めは去年の十月頃なんですが、まとまらないのでお蔵行きになってました。
ちょっともったいないので、スナップショットとして復活です。
えーと、いつも感想をいただいているシナさまから、ネタをほんのちょっと拝借いたしました。きっとこのネタが無かったら、こいつを出すこともなかった……かもしれません。いつかどこかでシナさまのSSを見ることがあったなら、クスリと笑ってください。
承諾していただいたシナさまに、感謝いたします。
では。
2002.02.28 ちゃある