君が望む永遠 SS 聖なる夜に君を想う Ver2.00 一応R-15で。

 #1 12月10日

 12月に入ると、商店街はそれしかないんじゃないかというくらい、クリスマス1色になる。
 既に日本では「クリスマス」という行事は宗教ではなく、単なるお祭りだ。もっとも、本当に祝う人も中にはいるだろうが。
「鳴海くん、ちょっといいですか」
「はい」
 俺は店長の健さんに呼ばれた。暗い口調なので、きっと悪い知らせだろう。
「申し訳ないのですが……」
 ほらきた。
「12月の24、25日に、入って欲しいのですが」
「あー……」
 やはり、そう来たか。
 健さんは、何かというと厄介事を俺に回してくる。信頼されていると言えば聞こえが良いが、頼みやすい、というのもあるのだろう。
 無論、こっちにも負い目はある。今年の夏、かなり無理をしてシフトを変えてもらったり、無断欠勤を繰り返したにもかかわらず、こうしてバイトを続けられるのは健さんのおかげなのだ。
 挙げ句に、自動車免許を取るためにも、結構無理言ったしな。
 このくらいは……仕方ないか。
「……はい。わかりました」
「申し訳ありません。一応この日は、僅かですがボーナスも出ますので」
 雀の涙ほどのな。
 実を言うと去年も、その日は働いていたのだ。
 水月に、さんざん言われたことを思い出す。


         *


 1年前……。

「なんで? クリスマスだよ? 恋人たちが愛し合う夜だよ?」
「オマエ、そのセリフ恥ずかしくないか?」
「だって……」
 水月が潤んだ瞳で俺を見る。
「仕方ないだろ。俺だってクビになりたくないからな」
「いいじゃない、また新しいバイト見つけてさ、ね? 無職の間は、私が何とかするから」
「そうはいかないよ。そうそう、夜には帰ってくるからさ。店のケーキ、1個キープして持って帰るから。そしたら、二人で祝おう。な?」
「……約束だよ?」
「ん、約束だ」
 俺はそう言って、潤んだ瞳をした水月に口づけをした……。


           *


 水月か……。

 今、どうしているんだろうな。

 ま、きっとアイツのことだから、元気にやってるに違いないだろ。
 そして、いつかきっと、俺たちの元に帰って来るんだ。

 俺は、そう信じてる。



 #2 12月11日

「孝之君、バイトなの?」
「うん、ごめん」
 翌日、遙の部屋で、俺はクリスマス両日がアルバイトであることを話した。
 案の定遙は残念そうな顔をしたが、すぐ向き直ると、俺に向かって微笑んだ。
「でも、夜は……会えるよね?」
「多分……11時くらいになっちゃうと思うけど」
「ねえ……孝之くんの部屋で待っていても、いい?」
「え?」
「あのね。孝之くんのために、お料理をつくったり、2人でクリスマスを祝うために、飾り付けをしたりしたいの」
「遙……」
 遙の、そんな気持ちが嬉しかった。
「ああ、じゃあ今度、合鍵、持ってくるからさ。その日は、勝手に入っててよ」
「いいの?」
「ああ」
「やったあ」
 遙は小さくガッツポーズをする。
 よく考えたら、合鍵って遙に渡してなかったんだな、と思う。
 遙が、気軽に来られないから、というのもあるかもしれない。
 でも、遙はかなり良くなっている。全力で走る、とかいうのはまだできないが、普通に歩く分には、もうほとんど大丈夫だ。
「あ、でも」
「え? どうしたの?」
「遙が来る前に、部屋、片づけておかないと、な」
「ふふっ、そうだね」
 俺の笑顔に、遙もつられて笑った。



 #3 12月17日

 ピンポーン。

「……なんだ、こんな時間に」
 時計を見る。まだ朝の8時だ。

 ピンポーン。
 ピンポーン。
 ピポピポピポーン。

 うるさいな。
 俺は布団をかぶる。誰だか知らんが、俺の眠りを妨げるヤツは悪だ。

 ドンドン。
 ドンドン。

 今度は扉を叩く音がする。
 無視無視。

 ドンドン。
 ドントン。

 しつこいな。

 プルルルル……。

 今度は携帯が鳴り出した。
 布団から腕を伸ばし、携帯を手にする。
「誰だ……」
 携帯には『涼宮茜』の文字。
 茜ちゃん?
 何だ?
「……はい、もしもし」
『あ、鳴海さん? 今、どこですか?』
「ん……自分ち」
『やっぱ居るんじゃないですか。早く開けてくださいよ』
「はあ?」
 さっきからうるさいのって、茜ちゃん?
『結構寒いんですからね。早くっ』
 そう言って切られた。
「なんだ……?」
 もぞもぞと起き出し、玄関の鍵を開ける。
 同時にばーんとドアが開き、茜ちゃんが入ってきた。
「うー、寒い寒い」
 両手を擦るような仕草をしながらつぶやく。
「どしたの? こんな朝早く」
 ホントに寒いので、俺は急いで玄関のドアを閉める。
「なにって、片づけに来たんですよ」
「はあ?」
「『はあ?』じゃなくて。部屋の片づけ」
 急な展開に、頭がついていかない。
「……なんで?」
「姉さんを呼ぶんでしょ? そしたら、部屋の片づけくらいしないと」
「はあ」
 茜ちゃんはビシッと俺を指す。
「どーせ1人じゃ片づけなんてしないと思ってましたから。だから私が来たんです」
「はあ、そうですか……」
 よくおわかりで。
「じゃ、さっさと始めましょうか」
「え?」
「『え?』じゃないですよ。私は午後から練習なんですから、午前中に掃除終わらせますよ」
 だからこんなに早いのか……。
 頭では納得したものの、やる気が起きない。
「ほら、さっさと着替える」
「はいはい」
 俺は仕方なく、パジャマ代わりのジャージを脱ぎ、着替え始める。
「きゃっ」
 驚きの声と共に後ろを向く茜ちゃん。
「き、着替えは向こうでしてください!」
 あ、そうだった。
 最近、女の子なんか来てないから、無頓着になってたな。
「へいへい」
 俺は着替えを持って風呂場に移動する。
 背後では茜ちゃんが早速動き出したらしい。
 まずは台所の掃除を始めたようだ。
 俺もとりあえず着替えると、目を覚ますため顔を洗う。
 凍りつくような水が、俺を一気に目覚めさせる。
「鳴海さん。とりあえず洗濯物とゲームの山、何とかしてくれますか?」
 茜ちゃんの言葉に従い、洗濯物とゲームを片づけていく。
 その間に茜ちゃんは台所をすっかり綺麗にしてしまった。
 ……手早いな。
 良い奥さんになれるぞ。
 俺たちは居間を片づけていく。
 そそくさと男性向け雑誌をまとめる俺。
 ……いいじゃんか、持ってたって。
「まあ……男の人ですからね」
 後ろで茜ちゃんの声がした。
 ため息も聞こえる。
「な?」
 俺は苦笑しつつ、本棚の隅に見えないようにまとめた。


「なんとか片づきましたね」
「そうだな」
 茜ちゃんのおかげで、随分早く部屋が片づいた。なにしろまだ、昼前だ。
 まだ細かいところは残っているが、それでも俺1人じゃ、そうはいかなかっただろう。
「茜ちゃん。これから練習?」
「はい、そうですけど?」
「お昼は?」
「えっと、途中のコンビニで買っていこうかと思ってましたけど」
「じゃあ一緒に食べよう。俺も昼食べたいし。おごるよ」
「え? いいんですか?」
「片づけ、手伝ってくれたしな。美味いラーメン屋知ってるんだ。そこ行こう」
「やった」
 ま、そのくらいはしないと、な。


 前に遙と行ったことがあるラーメン屋で、俺と茜ちゃんはお昼を食べた。既に何人か並んでいたが、座るまでそうはかからなかった。
「あ、そうそう、鳴海さんは、年末どうするんですか?」
「年末? ……多分、バイト」
「そうですか……あの、うちの両親が、うちで年越ししないかって、鳴海さんに」
「え? いいの?」
「だって、どうせ1人でしょう? なら、うちで紅白見て、除夜の鐘を聞いて、初詣とか行けばいいかなって」
「あー、そりゃ願ってもない申し出だなあ」
「でしょでしょ? どうですか?」
「うん、調整してみるよ。最終的にはバイトのシフト次第、だけどね」
「やったー。私、プレスタ2の『ギルジディアXプラス』買ったんですよ〜。対戦したくて」
「ほほう、前は負けたけど、今度は負けないぞ」
 茜ちゃんから借りた『ギルジディアX』で、かなり鍛えたからな。
「うふふ。楽しみにしてます」
 茜ちゃんは、ホントに楽しそうに笑った。


 ラーメン屋の前で、俺たちは別れた。茜ちゃんは、これから練習だ。
 俺は部屋に戻ると、まだ少し残っていた片づけの続きを始めた。



 #4 12月19日

「はい、これが俺の部屋の鍵」
「わあ、孝之くんありがとう」
 俺から合鍵を受け取った遙は、まるで宝石か何かを贈られたかのように、喜んだ。
 そんなに、喜ぶものなのかなあ。
 記憶を手繰ってみると、水月も、随分喜んだような気もする。
 きっと、そんなものなんだろう。
「これから、いつでも来てくれてかまわないから、さ。部屋も……茜ちゃんのおかげで、片づけたし」
「うん」
 笑顔の遙。
「ああ、でも早く来ないと、また汚くなっちゃうぞ」
「そうしたら、今度は私が、孝之くんの部屋を片づけるよ」
「そっか、それもいいな」
 2人で笑う。
 幸せって、案外こんなものかもしれない。



 #5 12月23日

「さて、どうすっかな……」
 俺はアクセサリー店の前で、立ち止まった。
 やっぱり女の子は、アクセサリーを贈られると喜ぶと思う。
 イヤリングは、何となく遙には似合わない気がする。やはり、指輪かネックレス。

 ……ネックレス、だな。
 
 指のサイズ、わからないし。
 
「いらっしゃいませ〜」
 女性店員が愛想良く出迎える。俺はとりあえず無視して、ネックレスを見る。
「どれがいいかな……」
 遙のイメージから言うと、シンプルなものが良いと思う。
 端からざーっと、見ていく。
 一つ、シンプルなネックレスを見つけた。
 細い、銀色の鎖に、淡いブルーの、石。
「あの、これください」
 思った瞬間、俺は店員を呼んでいた。



 #5 12月24日

 目を覚ますと、1時間10分寝過ごしていた。
「やばっ」
 俺は飛び起きると、急いで顔を洗う。
「何でこんな日に寝坊するかな」
 俺はダッシュで家を出ると、バイト先へと急いだ。


 丁度来た電車に飛び乗り(案の定放送で怒られた)、俺は『すかいてんぷる』に飛び込んだ。70分の差を45分まで縮めたのは、努力の結果と言えよう。
「遅刻は遅刻さ」
 うるさいぞ、大空寺。
「ああ鳴海君、待ってましたよ。丁度今、電話を入れようと思ったところでした」
「すいません、店長」
「いえ、わたしもよく遅刻はしますから、かまいません」
 いや、それはかまうでしょ?
「それより、鳴海君には、これをお願いいたします」
 と言って健さんに渡されたのは、サンタクロースの衣装。
「寝坊の罰、と言うわけではありませんが、これを着て、外で宣伝をお願いいたします」
「はあ」
「これを着られるのは、私か、鳴海君しかいないんですよ」
 ああ、それは何となくわかる。
 他は中を除くと、みんな女性だものな。
 ……チビの。
「あにこっち見てるのさ」
 大空寺に、睨まれた。
 チビ、という意味で視線を送ったのがばれたらしい。
 ……鋭いな。
「では、よろしくお願いいたします」
「……はい」
 俺は頷くと、着替えるために移動した。


「いらっしゃ〜い。とっても美味しいすかいてんぷるのケーキはいかがですか〜っ」
 俺はサンタの格好をして、表通りでチラシを配る。まさか自分が、こんな格好をするとは思っていなかった。
 これでボーナス出なかったら泣くぞ。
 ……ああでも、遅刻したしなあ。
 やはり罰ゲームだったのではないかと思う。
「どうですかーっ、美味しいですよーっ」
 笑顔で呼び込みをするが、心の中では泣いていたりする。
 そもそも客を呼びたかったら、俺なんかじゃなくて女の子が『ミニスカサンタ』とかやれば良いんだよな。
 まあ、あの子たちにミニスカでここに立たせるのは可哀想だが。
 ……大空寺を除いてな。
 ああでも、あれじゃ客は寄ってこないな。
「ふう」
 周りに聞こえないように、小さくため息をつく。
 誰かが「『サンタクロース』じゃなくて『さんざん苦労する』だよ」と言っていたことを思い出す。
「べリー苦しみますってか」
 小声でつぶやく。今のは上手いかな。
「かなりだめ、ですね」
 背後で声がした。慌てて振り向く。
 そこには、赤いコートを着た茜ちゃんが、立っていた。
「ど、どうしたの?」
「うん、姉さんと一緒にすかいてんぷるに来たんだけど、鳴海さんはこっち、って聞いたから」
「あ、そうなんだ」
「孝之くん。こんばんは」
 茜ちゃんの背後から、遙が顔を出した。純白のコートとマフラーが、彼女を天使か何かのような、神聖なものに仕立て上げている。茜ちゃんは赤のコートに白いマフラー。ともすれば、サンタクロースのようにも見える。
 ……俺とお揃い、ってことか。
「こんばんは、遙」
「ふふっ、楽しそうだね」
「おう、楽しいぞ」
 嘘だけど。
「そんな格好で、寒くないんですか?」
 茜ちゃんが尋ねてきた。良い質問だ。
「まあ、使い捨てカイロが無かったら、凍え死んでるね」
 俺は苦笑して答える。始める前にコンビニへダッシュしたのは正解だったな。
「そうだ、サンタさんが2人に、プレゼントをあげよう」
『えっ、ホント?』
 俺の言葉に、姉妹の声がハモる。
 俺は背負った袋を開く。
「はい、どうぞ」
「なーんだ、ティッシュじゃない」
 ははっ、と俺は笑う。
 この2人が相手だと、つい茶目っ気を出してしまう。
「ありがとう、孝之くん」
「あ、いや」
 逆に改まってお礼を言われると、困るな。
「じゃあ、私たちこれで帰るから」
「ああ」
「孝之くん。おうちで待ってるね」
「おう」
 遙の笑顔で、なんかやる気が出てきたぞ。
 俺は2人を見送ると、再びチラシを配り始めた。
「はーい、すかいてんぷる特製のクリスマスケーキはいかがですか〜」

「はい、ご苦労様でした」
 バイトが終わると、健さんが茶封筒を渡してくれた。
「こちらが、今回のボーナスです」
 俺はちらりと中を見る。
「えっ? こんなにもらって良いんですか?」
「本日は寒い中の仕事でしたからね。特別です」
「あっ、ありがとうございます」
「いえ、本当は私が、店内で着るはずのものでしたから」
 ……だからあんなに薄かったのか?
 えらく寒かったですよ?



 #6 イブの夜

 俺はキープしてもらっていたケーキを手に、部屋に戻る。
 部屋は、明かりがついていた。
 そうだ、今夜は……。
 遙が、いるんだ。
「お帰りなさい。孝之くん」
 扉を開けた瞬間、自分が部屋を間違えたのかと、錯覚を起こした。
 クリスマス用の飾り付けがされた部屋で、遙が出迎えてくれた。
「あ、ただいま、遙」
「どうしたの?」
「いや、ここが自分の部屋じゃない気がしたから」
「うふふっ、変な孝之くん」
 俺はクリスマスケーキを遙に渡す。遙はそれを箱から取り出し、テーブルの中央に置く。
 テーブルの上には、豪華そうな料理が並べられていた。ホントに2人で食べるの? というくらい。
「よく、これだけの料理をつくれたね」
「うん……あのね、茜が、手伝ってくれたの」
 遙が、照れたように言う。
「そっか、後で、お礼言わなくちゃな」
「うん。そうして。茜も喜ぶと思うから」
「ああ、そうそう。これは、俺からのプレゼント」
 俺は上着のポケットから、小さな袋を取り出す。
「わあ、ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
 遙はわくわくした表情で、袋を開ける。
 袋の中の小さな箱から出てきたのは、あのとき買った、ネックレス。
 名前は知らないけど、薄い青の石が、アクセント。
「あ、アクアマリンだ」
 アクアマリン?
 初めて聞く名前だ。
「ありがとう孝之君。私の誕生石、知ってたんだね」
「誕生石?」
 逆に聞き返した。そんなもの、あるのか。
「うん、アクアマリンは、私の生まれた月……3月の、誕生石なんだよ。……孝之くん、もしかして、知らないで買ったの?」
「あ、ああ……その石が、遙に似合うような気が、したから」
「すごいねー、それで、私の誕生石を選んだんだもんね」
「うん? ああそうだね。やっぱこれって、」
『ラヴ・テレパスィー?』
 2人の声がハモる。
 そして、俺たちは笑った。

 料理は少し冷めてはいたが、どれも美味しかった。
 特に、既に定番となったミートパイは、最初に食べたときよりも格段に美味しかった。
「きっとさ、俺たちに子供が出来たら、遙がつくるミートパイを毎週楽しみにしたりするんだよな。俺と一緒に」
「うふふっ、そうだと、嬉しいな」
 夢のある会話。2人で歩んでいく将来。本来なら、3年前の夏からずっとしていたはずの、会話。
 こんな些細なことが、嬉しい。


 それから俺たちは、ゆっくりと2人の時間を過ごした。
 一緒にシャワーを浴び、今は遙の髪が乾くのを待ちながら、テレビを見ていた。
 テレビでは、クリスマス定番の曲が流れている。
 俺の隣で、寄り添ってテレビを見ている遙。
 一つ一つは、小さな幸せだけど。
 その積み重ねがあって、俺は今、こんなに幸せなのだと思う。
「なあ、遙」
「なあに? 孝之くん」
「俺、遙のこと、愛してるよ」
 不意をつくような俺の言葉に、顔を真っ赤にする遙。
「今日は特別な日だから、ちゃんと遙に、言っておきたかったんだ。遙、愛してる」
 クリスマスは、本当は恋人の日では無いのだろうけど、特別に思うのは確かだから。
 改めて、はっきりと自分の想いを、言葉で伝えたかった。
 こんなにもたくさんの幸せをくれる遙に、感謝と。
 永遠の、愛を誓うために。
「孝之くん……」
 遙が、ぽろぽろと涙をこぼす。
「私も……孝之くんのこと、愛してるよ」
 俺は、遙の涙をそっと手ですくうと、そのまま、口づけをかわした。
 長いキス。
 愛を、確かめ合うように、俺たちはお互いを離さない。
「ん……」
 遙の、声が漏れる。
 やがてゆっくりと、どちらからともなく唇を離した。

 見つめ合う俺たち。

 テレビから、賛美歌が流れる。
「ねえ、孝之くん……」
 遙が、口を開いた。
「私、涼宮遙は、生涯鳴海孝之を愛し続けることを、誓います」
 そう言って、俺の手を取る。
 ああ、遙も、同じことを考えていてくれたんだ。
 全てが幸せに思える。
「……私、鳴海孝之は、涼宮遙を生涯愛し続けることを、誓います……って、なんか結婚式みたい、だな」
「そうだね。うふふっ」
 嬉しそうな、遙の笑顔。
「……そろそろ、寝ようか」
「うん」
 二人でベッドに潜り込む。
「孝之くんの隣で寝られるなんて、幸せ」
「俺もだよ」
 どちらからともなく、口づけをかわす。
 舌を、絡める。
「んん……」
 遙の、甘い声。
 それが、合図となった。



 #7 クリスマス

「ふうっ」
 俺は使用済みのゴムをティッシュで包み、ごみ箱に放る。
 が、ごみ箱の縁に弾かれて外に転がった。
「もう……無精するから」
 誰かに言われたようなセリフ。
「ああ、いいよ。俺が拾うから」
 疲れ切った身体を起こそうとする遙を諫め、俺はティッシュを拾い、ごみ箱に捨てる。
「……明日も、早いの?」
 隣に戻った俺の胸に手を乗せ、遙が尋ねる。
「ああ、そうだな」
「じゃあ……明日もここにいていい?」
「え? いいの?」
「うん……片づけもあるし……」
「待っててくれるなら、俺も早く帰ってくるよう頑張るよ」
「そう? じゃあ、待ってる」
「ああ」
「じゃあ、明日も頑張ってね……おやすみなさい……」
 やがて、俺の腕の中で、遙が寝息を立て始めた。
 今日は一日大変だったから、かなり疲れていたのだろう。
 可愛い寝顔。

 もう、遙の寝顔も、怖くはない。
 悪夢はもう、見ない。

 遙の体温を直に感じながら、俺も眠りにつくのだった。




 end













 俺も望まない後書き

 だめだあーっ。こんなんじゃだめだーっ。
 もっとこう……なあ?
 アダルトに攻めようと思ったんだけど……なあ?

 ……ごめんなさい。俺には書けません。
 いや、書いてみたけど……。
 遙「恥ずかしいよぉ」
 と、言われてしまったのでパスです。
 だって俺、通勤中の車内で書いてるんですよ?
 目の前に『ぢょしこうせえ』がいたりするんですよ?
 ねえ?(笑)

 というわけで、「聖なる夜に、君を思う」です。
 小さなこと、小さな幸せを、積んでいくような、そんな話を目指しました。
 ……上手くいっているような気が、しないな(苦笑)
 ホントはもう少し、掘り下げたいんですけどね、ネックレスの話とか。
 でも、それは次に持ち越し、ということで。
 と、いうわけでまた次回でお会いしましょう。

 2001.12.13 次回は年末年始編だ ちゃある

 と、いうわけでの後書き Ver2.00版

 ほんのちょっとだけ、アダルト色を濃くしました。
 ですから一応R-15指定で。
 ……まだまだ、ですけどね。

 では。

 2002.01.08 ちゃある

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