君が望む永遠 Side Story 超番外編 〜僕はきっと、君の純真な瞳に惚れたんだ〜
はじめに
この作品はSHO(遙派)さんのために書き下ろしたものです。他の人が読んでもムカツクだけです(笑)あらかじめご了承ください。
「ったく、自転車でこけて入院だ? ふざけすぎなんだよな」
僕はぶつぶつと文句を言いながら病院内を歩いていた。いくらイベントが終わって一段落ついたとは言え、はしゃぎすぎだ。
ブツブツ言っていた僕はこのとき、完全に前を見ていなかった。だから、前から車椅子が迫ってきていることに、気づかなかった。
ガツッ。
「きゃっ」
え?
何かが足にぶつかった感触。それなりの衝撃と痛み。そして、
女の子の、悲鳴。
視線を下に移すと、車椅子に乗った女性の姿があった。
「あっ、ごめん」
僕は慌てて飛び退く。
「大丈夫だった?」
焦りながらも、しゃがんで視線を合わせる。
「あ、はい。大丈夫……です」
ちょっと辛そうな顔。ぶつかったときに何かしたかな?
って……。
…………。
僕はそのとき、彼女の瞳に吸い込まれていた。
心臓が、ドクン、と跳ねる。
可愛い……。
純粋に、そう思った。
「……どうか……しましたか?」
「え? あ? いや……ホントに、大丈夫かな。と思ったから」
彼女に見とれて惚けてました、などとは言えない。
「あ、大丈夫ですよ。ほら」
彼女はそう言って小さくガッツポーズをする。
それだけじゃ大丈夫かどうか、わからないじゃないか。
「あ、本当だ。大丈夫そうだね」
でも僕は、そう返した。
「どうもすみませんでした」
彼女が頭を下げる。
「い、いや、ぼ、僕が前を見ていなかったのが悪かったわけで」
慌てて僕も謝る。何度も何度も頭を下げた。
「あ、あ、そんなに謝らないでください。……では、お互い様、ということで」
「そうですか? ……じゃあ、そう言うことにしておきましょうか」
彼女の瞳に、負けている。
「では、私は行きますので……」
そう言って彼女は、車椅子を動かす。
……が。
「あ、あれ?」
細い両の腕を懸命に使って前に行こうとするが、どうも動かないようだ。
「あ、前輪が少し曲がってますよ」
見ると、ぶつかったときに曲げたのか、前輪部分が少し歪んでいた。
「あうう……どうしよう」
困った表情をする彼女。
「あ、良かったら、僕が押していきましょうか?」
「え? あ? いいですいいです。申し訳ないですし……」
「まあ、元は僕が悪いですから。さて、どこに向かえばいいですか?」
さっさと僕は車椅子を押し始める。後ろから押す分には、少々の歪みは問題にならないようだった。やはり彼女の腕の力が弱いからなのだろう。
「あ……えっと、そこを、右、です……」
観念したのか、誘導を始める彼女。
すごく、恥ずかしそうだ。
「あ、あの……」
彼女が話しかけてきた。
「え? なんですか?」
「優しいん……ですね……」
ボッと、顔が赤くなるのを感じた。
女性にこんなことを言われたの、何年ぶりだろう?
「そっ、そんなことないですよっ」
思わず大声で否定。
だって。
下心、無い訳じゃないし。
「あれぇ〜涼宮さん〜。いつもの彼氏と違うのぉ〜?」
曲がり角で、看護婦さんに話しかけられた。
なんか大人の、『結構遊んでますよ』と言わんばかりの感じだ。
「あのっ、この人はっ違うんですっ」
彼女が、慌てて否定する。
そうだよな。
こんなに可愛いんだもんな。
彼氏くらい、いるよな。
ちょっと、落胆。
「それにもう……孝之くんは……彼氏じゃ、ないんです……」
彼女はうつむき、呟くように、言った。
「あ……」
看護婦さんもまずいことを言ったと悟ったのか、言葉が続かない。
「ごめん……ね……」
顔をポリポリと掻く看護婦さん。
「いえ、いいんです……」
彼女は、うつむいたまま。
「えと、後で検温行くから、どっか行かないでね。それじゃ」
雰囲気に耐えられなくなったのか、看護婦さんは足早にその場を去った。
しばらく僕は、車椅子を押すことも出来ずに立ちすくむ。
どうにも出来ない自分が、もどかしかった。
「……あ、ごめんなさい。私の病室、この先なんです」
彼女はようやく顔を上げると言った。
けれど、僕の方は振り返らなかった。
「あ、ここです」
「はい」
僕は病室のドアを開け、車椅子を中に入れる。
「ど、どこまで押せばいいですか?」
「あ、ベッドの横まで、でいいです」
僕は言われるままに、車椅子をベッドの横につけた。
「ありがとうございました。あとは、一人で出来ますから」
そう言って彼女は、細い両腕で、自分を起こす。
そして、這いずるようにベッドへと、移動する。
「てっ、手伝いますっ」
「いえ、一人で出来ます。……一人で出来ないと、ダメなんです」
彼女の強い言葉に、僕は動くことを止めた。
少しの時間の間、僕は立ち去ることも、近づくことも出来ずに、ただ彼女の奮闘を見ていた。
端から見れば、みっともないようにうつるかもしれない。でも僕には、彼女の行動が美しく見えた。
「……ごめんなさい」
無事ベッドに戻った彼女は、頭を下げた。
「いえ、謝る必要なんてどこにもないです」
僕は慌てて両手を振る。
「あの……お時間、大丈夫ですか?」
彼女に言われて、時計を見た。随分時間が過ぎている。
「あ、ごめんなさい。すぐ出ていきますから」
慌てて、彼女の病室を出ようとした。
「あ、あのっ」
彼女に呼び止められ、振り向く。
「今日は、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ……あの」
「はい」
「また……来てもいいですか?」
「え?」
「いやあのっ、決してやましい訳じゃなくて、その、何というか……あなたには、笑って欲しいです」
「え?」
「あ、僕これでもこう、人生全てネタにしているような人間で、人を笑わすネタには事欠かないんです」
「うふふっ、変な人」
彼女が、笑った。
「そうそれ。その笑顔が見たかったんです」
「え?」
不思議な顔をする彼女。
「あなたを笑わせたい。それが理由じゃ、いけませんか?」
自分でも不思議だった。
何故自分が、初対面の彼女に、こうまで言っているのか。
「……また、来てください」
「え?」
「家族以外のお見舞いは来ないので……少し、寂しかったんです。また、来てくれたら、嬉しいです」
……ホントに?
「わかりましたっ、必ず来ますっ」
ビシッと彼女に向かって敬礼。
「ふふっ、お待ちしてます。……あ、そうだ。私、涼宮遙です。よろしくお願いします」
「あ、僕の名前は……」
「……SHOって、言います」
end
SHO(遙派)さんが望めばいい後書き
と、言うわけで、SHO(遙派)さんに脅されたので書きました(笑)
一応水月エンド後に、遙が本当に孝之を吹っ切るための布石、として書きました。でも、水月エンドの記憶が無いので、嘘が混じっているかもしれません。
多分SHOの部分を好きな名前にしてくれれば自分好みになるかと。
あ、一応お断りしておきますが、SHO(遙派)さんは“こんな性格のひとではありません”。少なくとも僕の知っている範囲では。
でも、遙に釣り合う人間として書きたかったのでこうしました。おこらないでください。
では、次の作品で
2001.12.07 こんなの書いてないでまともなの書け ちゃある