君が望む永遠 超番外編 〜あなたへのおくりもの〜 「ついに……やっちまったなあ……」  今日は12月24日。世間では3連休の最終日、そしてクリスマスイブだが、僕 にとっては冬のイベントに向けての最終調整の時期だ。  今日は遙さんとの約束がある。ただでさえ身体が夜型となっているのに、よりに よって2徹してしまった。  でも、今日は行かないとならない。  この日のために買ったクリスマスプレゼントと、一つの決心。 「キツイな……でも、ここで寝たら、起きないよな……」  今の時間は7時。うちから遙さんの家までは、電車で1時間ちょっと。着くのを 11時くらいとして……。 「ダメだ、シャワーでも浴びるか」  僕はふらつく足取りで、風呂場へと向かった。  12月も半ばになると、本格的に寒くなる。  僕は眠気と寒さに耐えながら、涼宮家を目指す。  歩き慣れた道。もう何度、ここを歩いただろうか。  ピンポーン。  僕は涼宮家のチャイムを鳴らす。 『どちらさまですか?』 「SHOです」 『あ、はい、ちょっと待ってくださいね』  しばらくの後、玄関が開けられる。 「どうぞ」  顔を出したのは、茜さんだ。白陵柊の、制服を着ている。 「こんにちは、茜さん」  僕は茜に挨拶をして、玄関を上がる。 「SHOさんは相変わらず私のこと『さん』付けなんですね。私のことは呼び捨て でいいって言ってるのに」 「だって、茜さんも僕のこと『さん』付けでしょ?」 「それはだって、SHOさんは一応年上だし……」 「一応、ね。どうせ僕は子供だから……」 「あ、いや、そう言うつもりで言ったんじゃないですよ」 「あはは、冗談冗談」 「あ、もう〜」  頬を膨らます茜さん。  彼女のそういう仕草が、可愛いと思う。 「じゃあ、『茜ちゃん』は?」  僕は妥協案を出す。 「あ、それは……」  戸惑う表情の茜さん。 「あ、いや、そうだね。もう、子供じゃないしね」  『ちゃん』だと、やっぱ子供扱いしているような感じになるかな。 「いえ、そういうのが、嫌いなんじゃないんです……えと、いいですよ」 「え?」 「『ちゃん』づけで、妥協しますよ」 「妥協って……」 「ね、SHOさん」  茜さんが笑う。 「では、今回から『茜ちゃん』ってことで。改めてよろしく、茜ちゃん」 「はい、こちらこそ、SHOさん」  僕たちは、顔を見合わせて笑う。 「あ、そうそう、茜ちゃん」 「なんですか?」 「ご飯粒、ついてますよ」  僕は自分の右頬を指す。 「え?」  茜ちゃんは慌てて自分の右頬に手をやる。 「あ……」  茜ちゃんの頬がほんのり赤くなる。 「今、ご飯食べてたから……もう、そう言うのは先に言ってくださいよ!」 「あははは、ごめん」 「茜、誰が来てるの?」  2階から、遙が顔を出した。 「こんにちは、遙さん」 「あ、SHOさん。こんにちは〜」  相変わらずの、おっとりしたテンポだ。  雰囲気が、心地よい。 「あ、今日は私の部屋がいいかな。茜、お茶出してくれる?」 「はーい」  遙さんに言われて、茜さん……違った、茜ちゃんが台所に消える。  僕は遙さんに招かれて、階段を上る。 「どうぞ」  遙さんに促され、僕は遙さんの部屋に入る。何度か来た部屋。あまり変わってな いようだ。  小さなテーブルの脇に、二人で座る。 「ごめんね、SHOさん。忙しいのに」 「……独り身は寂しいですから。この時期」  僕は苦笑。だから、こんなに忙しいのにあなたに会いに来てるのですよ。 「え?」  遙さんは僕の言葉の意味が伝わらなかったのか、首を傾げる。 「お姉ちゃん、彼女がいる人が、こんなに頻繁に遊びに来てくれるわけ無いじゃな い。ねえ?」  丁度お茶を持ってきた茜ちゃんが、僕に振る。 「ええまあ……そう言うことです」  ポリポリと頭を掻く。 「あ……ごめんなさい」 「いえまあ、事実は事実ですから」  アハハハ、と僕は笑う。 「こっちとしては、SHOさんに彼女がいない方が嬉しいんですけど」  お茶を入れながら、茜ちゃんが言う。 「え?」  ちょっと、ドキッとした。 「だって、SHOさん面白いんだもん。一緒にいて飽きないし」 「あ……そうですか」 「うん、話を聞いてると、『どうしてこの人の周りはこんなに面白いことばかり起 きるんだろう?』って考えちゃうくらい」 「そうですか?」 「うん、まあ……『ああ、SHOさんって身を削って笑いを取ってるんだなー』っ て思うよ?」 「あははは」  乾いた笑い。  否定できないけど。 「さて、私はこれから練習だから、そろそろ行くね。夜には帰ってくるから」  ああ、だから制服姿だったのか。 「うん、行ってらっしゃい」 「あ、SHOさん」 「何ですか?」 「誰もいないからって、姉さんのこと襲ったりしちゃダメですよ?」  ぶっ。 「きゃっ」  僕は口に含んでいたお茶を思わず吹き出してしまった。 「ごほっ、ごほっ」 「もう、冗談だったのに〜」 「茜っ」 「す、すみません」  慌てて掃除を始める僕たち。 「あ、ゴメン。私時間が、じゃ、あとよろしく〜」  茜ちゃんが謝りながら玄関へと去っていく。  ……逃げたな……。 「ごめんね、SHOさん。茜が変なこと言って……」  テーブルを拭きながら、遙さんが謝る。 「いえ、あの。はい……」  やだな……。  なんか、お互いに気にしてるな……。  続く沈黙。  間が持たない。 「あ、あのっ。今日はプレゼントを持ってきたんです」  思い切って、口を開いた。今日の目的。 「え?」 「あ、いや、クリスマスですから」 「わあ、嬉しいな……」 「気に入ってくれるか、わからないんですけどね……」  言いながら、僕は鞄を探る。  取り出した、小さな袋。 「こ、これです……」  おずおずと、差し出す。 「なんだろう? 開けていい?」 「はっ、はい」  僕は緊張しながら、遙さんが袋を開けるのを待つ。  袋の中から出てきたのは、小さな箱。  そして、その中から出てきたのは。 「うわあ、綺麗な指輪」  それは、アクアマリンの指輪だった。石は小さく、指輪も銀製だけど、僕は気に 入っている。 「あの、3月が誕生日だって聞いたので」  アクアマリンは、3月の誕生石だ。 「ありがとう」  遙さんが微笑む。  ああ、僕は。  この微笑みが見たくて、プレゼントを贈ったのかもしれない。  それくらい、素敵な笑顔。  遙さんは、右の薬指に填めてみる。 「あ……」 「ちょっと……大きかったですか?」  確かに、少し大きいようだった。結構小さめのを買ったつもりだったのだが。 「ごめんね……細い指で」  遙さんの、まだ痩せ細った指を見た。だいぶ回復しているとは言え、指先は病人 のように細かった。 「あのっ、直して持ってきますから」 「ううん、いいよ……そうだ」  遙さんは立ち上がり、机の上の引き出しを探す。 「あ、あった。これならどうかな?」  遙さんは引き出しから、銀のネックレスを取り出した。本当に鎖だけの、シンプ ルなネックレス。 「これをね……」  遙さんはネックレスにアクアマリンの指輪を通す。 「こうして……ね?」  そのまま首に掛けた。 「似合うかな?」  遙さんは照れたような表情で、僕を見た。 「はい。似合います……」 「良かった……ありがとう、SHOさん。大切にするね」 「あっ、はい……それと」  僕はいったん、言葉を止めた。  プレゼントと一緒に、言おうと思ってたこと。 「……僕と、つきあってくれませんか」 「え?」  遙さんが、止まった。  言った。  言ってしまった。  ずっと、言おうと思っていたこと。 「僕は、いつも遙さんの笑顔に助けられてきました。僕は、ずっと遙さんの笑顔を 見ていたい。遙さんの隣で。もし遙さんが笑顔じゃなければ、僕がその元凶を取り 除いてあげたい。僕は、僕は……」  言葉があふれ出す。 「僕は……遙さんが、好きなんです。誰よりも」  しばらく、二人とも言葉を発しなかった。  ただ、お互いを見つめたまま。  まるで、役者が次に言うべきセリフを忘れてしまったかのように。 「……だめ、ですか……」 「え……?」  沈黙に耐えられず、僕は口を開く。  この間の後で、断られるのは、何よりもつらい。 「今日は、ごめんなさい。あの、僕、帰ります」  僕は立ち上がった。振り向いて、部屋の戸に手をかける。 「あの、ちょっと待って……」  その言葉に、僕は立ち止まる。 「……あの、私……」  僕は振り返る。 「私……なんかで……いいんですか?」 「な、何言ってんですか。僕は、遙さんでないとダメなんです」  僕は、はっきりと言った。  この想いに、偽りはない。 「ありがと……」  遙さんは、泣いていた。 「でも、もう少し、待ってください……」 「え?」 「SHOさんのことが、嫌いな訳じゃ、ないんです。でも、あの、私の心が、まだ ……」 「待ちますよ。いつまでだって」  僕は、子供をあやすかのように、遙さんの頭にポン、と手を乗せた。 「ごめんね……」  遙さんはそっと、僕の胸に身体を寄せた。  僕もそのまま、抱き寄せる。 「いいです。ゆっくりとで」  僕たちの道は、始まったばかりだから。 「うん……」  ね、今は、このままで……。  end  本日のごめんなさい  あれー? この話で遙さんとつきあい始めるつもりだったのニー(爆)  ってことで3話目。クリスマスに関係ない作りになってしまいました。  遙さんはまだ、孝之のことが忘れられないようですので、SHOさんは頑張って 忘れさせるよーに(無責任)。  またネタが思いついたら書きます。とりあえず結婚まで書かないとなあ(笑)  本編もそろそろ 2001.12.24 まにあった? ちゃある