君が望む永遠 超番外編(SHO Side) 天使が生まれた日






  #1


『だからさ、SHOさんの持ち味は音楽でしょ? そしたら誕生日は自作のラヴ・ソング。これしかないじゃん』
「……なんでそうなるんだよ」
『まあまあ、俺が作詞するからさ』
「だからな?」

 ……間違いだった。
 コイツに聞いたのが、間違いだった。


 電話の相手は、最近知り合った『ちゃある』とか言うヤツだ。エセ物書きらしいのだが、この間飲みに行ったときに酔って遙との話をしたら、あの野郎。

 『話をアレンジした小説をネットで公開』しやがった。

 おかげで僕はことある事にネタにされる。もうこんな生活イヤだ。
 しかしコイツにはもう五年も付き合っている彼女がいる。なんでコイツに彼女がいるのか不思議だと思ったが、いるものはしょうがない。
 というわけでまあ、要は、遙の誕生日プレゼントを何にすればいいか相談したのだが、結果は先の会話の通りだ。


『いや、絶対にいけるって。だって相手は遙さんだよ? 誕生日にピアノの弾き語りか何かでこう、熱く歌えば感動するに決まってるって』
 何故コイツはいつの間に遙と仲が良くなっているのか。確かにこの間一緒に飲みに行って紹介したが。
「でもな、実は僕、致命的な音痴なんだよ。だから歌うのは絶対に嫌」
『じゃあ……うーん……』
「な、だから歌以外で」
『わかった。ボーカルの件は任せておけ』
「はあ?」
 何故話がそっちに行く?
『うむ、では明日にでも連絡させるから。あと、作詞もしておく』
「おい、ちょっと待て!」
 ツー、ツー。
「切りやがった……」
 どうもヤツは人をネタにしたがっているらしい。

 しかしな。

 絶対に創らねえからな!





  #2


「やられた……」
『え? 何か言いましたかSHOさん』
「いや、なんでもない」
『しっかし姉さんの誕生日に自作のラヴソングとは、凄いですね』
「あははは……」
 電話の相手は言わずとしれた茜ちゃんだ。
 ちゃあるの野郎、こっちまで手を伸ばしてやがったか。
『ちゃあるさんからメール、来ましたよ。見ましたか?』
「うん……見た」
『なかなか恥ずかしい詞ですね』
「ああ……かなり悪意に満ちた詞だな」
『そんなことないですよ。SHOさんが姉さんのこと想ってるんだなって、よくわかります』
「そうかねえ……?」
『そうですよ。で、曲はいつ出来るんですか?』
「え?」
『曲ですよ。ウチは毎年ホームパーティーが恒例ですから、その場で演奏しましょう』
「はあ?」
 そ、そんな話聞いて無いぞ。
『SHOさんが恥ずかしくて歌えないっていうから、私が歌うことにしたんですよ』
「だからなんでそこまで話が進んでるのさ?」
『えっと、ちゃあるさんが』
 アイツ……絶対殺す!

「ちょ、ちょっと待って。ねえ、茜ちゃん、もしかしてこのこと、遙に……」
『うん、知ってますよ。楽しみだなって言ってました』
 ガーンッ。

 もう逃げ場は無いと言うことですか……。

『じゃあ、曲が出来たら教えてくださいね。楽しみにしてますから』
「あ、茜ちゃん」
 ツー、ツー。
 切られた……。

 まったく、どいつもこいつも!





  #3


 誕生日前日。
「こんにちはーっ」
 ウチに茜ちゃんがやってきた。
「やあSHOさん。元気?」
 ……連れてきたのはちゃあると、彼女のあきこさんだ。
「SHOさんのことだから、さぞかし名曲が出来たんだろうねえ」
「こら、そんなプレッシャーをかけるんじゃないっ」
 ちゃあるの言葉に、あきこさんがマッハでツッコミを入れる。
 相変わらずだな、と僕は思う。
「まあ……とりあえず聴いてよ」
 そう言って僕は、パソコンを操作した。


「良い曲、ですね」
 最初に口を開いたのは、茜ちゃん。
「うん。かっこいいよ。これなら遙さん、喜ぶと思う」
 あきこさんの言葉が続く。
「ほらほら、やっぱ俺の言った通りじゃん。これを遙さんに贈ればイチコロだって」
「ちゃある……あとで殺す」
「なぜ? 俺が何をしたって言うんだ?」
 とぼけた調子のちゃある。

 ゼッタイコロス。

「まあまあ。じゃあこの曲に合わせて私が歌えばいいんですね?」
「うん。一応CD−Rに焼いてあるから、帰っても聴けるよ」
「じゃあ頑張って練習しましょうかね」
「はーい」

 ウチで何故か歌の練習が始まった。しかも、茜ちゃんだけで良いのにちゃあるとあきこさんも一緒になって歌っている。
「ここの詞は、このほうが曲に合うかな」
「うんうん。SHOさんの想いが伝わるねえ」
「ここをさ……」
 しかも、本人の目の前で歌詞直してくし!
「ねえSHOさん、どうかな?」
「……どうにでもしてくれ」
 もう怒る気も失せて、僕はため息をついた。





  #4


 当日の夜。
 僕はちゃあるの車で涼宮家へと赴いた。
 ま、キーボード持ちだからな。
「あ、ちょっと寄り道な」
 ちゃあるがおもむろに言うと、花屋の前で車を止めた。
 助手席のあきこさんが、花屋に向かう。
 しばらくして帰ってきたあきこさんは、大きなバラの花束を抱えていた。バラの色は黄色。かすみ草を周りにあしらっている辺り、あきこさんの気配りが感じられる。
「赤は遙さんに似合わない感じがしたから黄色にしてみました。まあこのくらいは持っていかないとね」
 と、あきこさんから花束を受け取る。
「あきこに感謝しとけよ? ちゃんと予約入れといてくれたんだからな」
「あ、ああ……ありがとうございます」
「じゃあこれ、請求書」
「金は僕かよ!」
「冗談だよ。そのかわり、今度おごれよ」
「お、おう」
「……ひよこ屋で」
「いや、今度花代を払う」
 二人におごったら、今見たバラの代金より高いじゃんかよ。
「「ちっ……」」
 ちゃあるとあきこさんの舌打ちがハモる。鬼かこいつら。


「じゃあ俺達はこれからデートだから」
 涼宮家の前で、俺はおろされた。
「ま、電話くれたら迎えに来るかもしんない。期待しないで」
「おいおい」
「冗談だってば、じゃ、頑張ってね」
 ちゃあるは窓から手をひらひらさせながら去っていった。

「さて……」
 乗せられたとはいえ、後に引けなくなったなあ。
 こうなりゃ、なるようになれだ。
 ピンポーン。
『はーい』
「あ、SHOですけど」
『ちょっとまってくださいねー』
 インターホンが切れると、すぐに玄関が開く。
「いらっしゃい。SHOさん」
 出迎えてくれたのは、茜ちゃん。
「……ホントにやるの?」
 一応確認で聴く。
「当然ですよ。あれからもこっそり練習したんですから」
 やる気満々の茜ちゃん。ニヤリと笑う辺りが小悪魔的だ。
「はあ、そうですか……」
 僕は完全に諦め、キーボードを担いで中に入った。

「こんばんは、SHOさん」
 遙は、白のワンピースで僕を出迎えてくれた。
「こんばんは……」
 思わず見とれる。
「SHOさん、姉さんに惚れ直したでしょ?」
「うん……え?」
 思わず反射的に答えた後、我に返る。
「あはははっ、だってさ、姉さん」
「もう、茜っ」
 遙は照れた顔のまま、茜を怒る。
「えと……あ、誕生日、おめでとう」
 とりあえず、手に持った花束を渡す。
「うわあ……ありがとう」
 確かに、赤よりは黄色のほうが遙に似合うなあ。
 ぼんやりと、そんなことを思う。
「あらあらあら。すごいわねえ」
 花束を見てお母さんが驚く。
「さて、立ち話も何だし、始めようか」
 お父さんの言葉で、パーティーは始まった。


「ではー、SHOさんから姉さんに、プレゼントがありまーす」
 話が盛り上がってきたところで、茜ちゃんが手を挙げて宣言した。
 いよいよきたか……。
 僕は立ち上がり、キーボードの準備をする。
「なんとSHOさんは、姉さんのために曲を作ってきてくれました!」
 恥ずかしい。
 耳まで赤くなりそうだ。
「すごいな、SHO君」
「あらあらあら」
 みんなの視線が集中する。
「で、お友達が詞をつけてくれたので、今日は私が、それを歌いまーす」
 逆だ逆!
 ちゃあるが勝手に作った詞に、僕が泣きながら曲をあてたんだよ!

 これは某国の陰謀じゃよー。

 心の中で叫ぶ。

 けれど。


 この曲に込めた遙への想いは、本物だから。


 僕は優しく、鍵盤に触れた。
 遙への曲が、部屋に流れ始める。
 優しい、ピアノの音色。
 そこに、茜ちゃんのボーカルが加わる。


  見つめてた 君の笑顔
  僕が 望む君が 隣にいる

  はじめから 思っていた
  君の 笑顔が見たいと

  いつも笑ってなんて
  無理は言えないけど

  微笑む君が
  一番 好きだから

  もう迷わない 君のためなら
  どんなことだって成し遂げるよ

  君の想い確かに受け止めて
  僕は叫ぼう
 「好きです……あなたが」


  傷ついた 翼広げ
  君は空を見つめ 羽ばたいてた

  その姿 見つけたとき
  僕は 心奪われた

  君の翼癒やし
  僕も羽を開き

  あの広い空に
  一緒に行けるかな

  傷つくことを 恐れていたら
  この先は見えないのだから

  君のこの手確かに握りしめ
  二人羽ばたく
  広がる大空に


  愛することの つらさ知ってる
  僕達だからうまく行くよ

  君の身体確かに抱きしめて
  僕は誓うよ
 「一生……守る」と


「すごい、すごいよSHOさん!」
 弾き終わると、遙が拍手をしながら僕のところにきた。
「ほう、なかなかだったね」
 お父さんの声。僕はどっと汗をかく。
 緊張が後からやってきた感じ。
「私は? 私」
「うん、茜も上手だったよ」
「あはっ、良かった。でも本当は、SHOさんが歌うべきなんだけどね」
「あはは、僕、音痴なんで」
 僕は頭を掻く。
「なら、わざわざ詞を入れることもなかったのではないかな?」
「そうなんですけどね」
 お節介とは言え、せっかく創ってくれたんだもんな。
 それにこの歌詞は、確かに僕の想いを代弁しているから。
「SHOさん。ありがとう」
 遙が、僕の目の前で涙を流していた。
「最高の、誕生日プレゼントだよっ」
 そのまま、抱きついてきた。
「わわわわっ、みんないるのにっ」
 言いながらも、僕は遙を抱きしめる。
 視線がお父さんのほうに行くので、恥ずかしさは果てしないものはあるけど。
「元々姉さんは、感情表現が激しいんですよ」
 隣で茜ちゃんが解説する。
「遙、喜びの表現はそれくらいにして、食事を続けましょう」
 お母さんの言葉に、遙はゆっくりと離れた。





  #5


 その後は何事もなく、楽しいパーティーが続いた。
 あっと言う間に時は過ぎ、気がつけば、時計が十時を示していた。

「えと、そろそろかな?」
「え?」
 時計を見た僕を、遙は『もう帰っちゃうの?』という瞳で見つめる。
「ああ……ちゃあるが十時過ぎくらいに迎えに来るって言ってたから」
「そうなんだ……つまんないなー」
 少し酔っているのか(ってか、僕から見てもかなり飲んでいたが)、遙は子供のような表情をする。
 ちなみに茜ちゃんはというと、少し飲み過ぎたのかソファーで眠っている。
 デニム地のミニスカートで横になられるのは非常に目のやり場に困るのですが。
「じゃあ、ちょっと酔い覚ましに外に出てますから。今日はありがとうございました」
「いいや、礼を言うのはこちらのほうだよ。今日は楽しかった。素晴らしい演奏も聴けたしね」
 お父さんの言葉に、僕は思わず照れてしまう。
「じゃ、私も外にいるよ。ちゃあるさんにお礼言わないとね」
「礼なんて要らないだろ、あんなヤツ」
「SHOくん。友達を大切に出来ない人は、何も大切に出来ないんだよ」
 いやアイツ友達じゃねーし。
 ……と言おうと思ったが、そんなこと言ったら遙が本気で怒りそうなのでやめておいた。

「それじゃ、お邪魔しました」
 僕はさっくりキーボードを担ぎ、遙と共に外に出た。
 今日は星がよく見える。気持ちのいい夜だ。
「SHOくん。本当に、今日はありがとう」
「いやあ、こちらこそ。料理とか美味しかったし」
 恥ずかしいので頭を掻きながら空を見る。
「ねえ、SHOくん」
「なに?」
「ずっと……側にいてね」
「あ、当たり前だろ! 何言ってんのさ」
「ううん……時々ね、怖くなるの。頭ではわかってるんだけど、SHOくんがある日突然、いなくなっちゃう気がして」
「そんなこと無いよ。僕はここにいるから。いつだって、遙の隣にいるから」
 星の魔法か、恥ずかしいセリフがすらりと出てくる。
「うん……ごめんね」
「僕だって、時々怖くなるんだよ。だから、一緒だよ」
「うん……ずっと一緒に、いようね」
「ああ、ずっと一緒だ」
 そして僕達はゆっくりと、口づけをかわした。
 お互いを、お互いの存在を確かめるように、ゆっくりと。





  #6


 不意にPHSが鳴った。
 僕達は慌てて身体を離すと、僕は通話ボタンを押した。
「もしもし」
『ちゃあるでーす。キスの味はどうでしたかー』
「な、なんで知ってんだよ!」
『お、当たりですかー。いいなあ、若いなあ』
「うるせえ! 今どこだよっ」
『後五分くらいで着くと思いまーす。悪いな、遅くなって』
「いや、それはかまわないから。事故らずにな」
『うーい、では』
 ツー、ツー。

「……ちゃあるさん?」
「ああ、そう。後五分くらいだって」
「ふふっ、良かったね。先に連絡もらえて」
「なんで?」
「だって……キスしてるときに来られたら、恥ずかしいもん」
「あ、あははっ、そりゃそうだな」
 あはは、と二人で笑う。

 こんな空気を、大事にしたいな。
 ふと、そんなことを考えた。


 それからきっちり五分後、ちゃあるとあきこさんがやってきた。
「あ、こんばんはー」
「遙さんお久しぶりー」
 女の子特有のコミュニケーションが始まる。
「お疲れさん」
「ああ、疲れたよ」
 男同士のやや腹黒いコミュニケーションも始まる。
「さて、とっとと帰ろう。遙さん。今日は楽しかった?」
「はい、ちゃあるさん。ありがとうございました」
「俺は何もしてないでしょ。やったのは、コイツ」
 と、ちゃあるは僕を指す。
 この期に及んでそんなこと言うか!
「じゃ、今度はみんなで遊ぼうな。茜ちゃんがアメリカ行く前に」
「そうですね。また」
「遙さんまたねー」
「SHOさん。また」
「おう」
 遙の声に答えて、僕は手を振る。
 そして車は走り出した。
 遙の姿が、みるみる小さくなる。
 やがて角を曲がり、遙が視界から消えた。

 車の後部座席で、流れる明かりをぼんやりと眺める。
 前ではちゃあるとあきこさんがバカ話をしている。
 スピーカーからは知らない歌。
 そして、
 思い出すのは、遙の笑顔。

「……ありがとな」

「ん? SHOさん何か言った?」
「気のせいだろ。それより前見ろ前!」
 思い切り振り返るちゃあるを怒鳴る。

「なんだかなあ……」

 この先も、こいつらと付き合ってくのだろうか。
 考えるだけで頭が痛い。

 でもまあ。

 悪くは、無いかな。






 end












  君が望む後書き

 ……ついに自分出してるし(笑)しかもこれ俺っぽくないし(苦笑)
 というわけでSHOさん編です。ホントは遙への曲は本人が歌うはずだったのですが、リサーチにより急遽こうなりました。せっかく歌詞考えたのでもったいないし。

 一応あの歌詞は、Rumbling Heartsの曲で歌えるハズです。あきこさんから「歌っぽくない」と言われて慌てて直しました。が、やっぱり歌らしくないかな(苦笑)

 まあとりあえず誕生日に間に合ったという事で(爆死)

 2002.03.22 SHOさんの奥さんの誕生日に ちゃある

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