例えばこんなラヴストーリー 「わがままなボクら」






 パシィンッ。

 彼女の平手が、俺の頬を叩いた。

 渇いた音。

 けれど、


 痛かったのは、



 頬ではなく、




 ──俺の、こころ。




「もうアンタなんか知らないっ」
 彼女はそう言って背中を向けた。
「ああそうかよっ、じゃあお前とはもうさよならだっ」
 俺も背を向ける。
 そのまま振り返らず、俺は歩き始めた。




 ──やっちまったな。

 いつか、こうなることはわかっていた。
 俺はわがままで、いつも彼女を振り回していた。

 怒る彼女を、俺はのらりくらりとかわす。


 そして、軽いキス。



 今日もそれで、仲直りするハズだった。


 けれど、今日は何かがずれていた。



 わからない、何かが。





『いつか彼女は、俺に愛想をつかして去って行くだろう』



 いつも俺は、そんな思いが心のどこかにあった。
 自分の欠点に、彼女はきっと耐えきれなくなるだろう。


 けれど、性格なんかは今更直せるものじゃない。



 俺は彼女が好きで、多分彼女も、俺のことが好きで。
 好きだって言うのは、欠点もひっくるめて好きだってことで。

 だから、何とかなるんじゃないか。

 そんなことを自分に言い聞かせていた。


「だから、こんなことになるんだよなー」
 感情のこもらない声。

 理由は簡単だ。



 彼女を、失ってしまったから。




 公園のベンチに、どっかと座り込んだ。
 そのまま、空を見上げる。


 きれいな秋空。


 いい天気だ。



「はあ……」

 ため息、一つ。
 空を見上げたまま。


 心に、ぽっかりと穴があいた。

 ドーナッツみたいに。


 あははは。


 なんだ。




 俺の中で、





 ──彼女はこんなにも、大きかったんだ。





「あは、あはは……」
 目頭が、熱い。
 俺は右手で、両目を押さえた。
 とめどなく、涙がこぼれる。



 失うということの衝撃に、今更になって気づいた。


「あはははは……」
 力無く、笑う。

 もう、人目なんてどうでも良かった。

 ただ、自分が情けなくて。

 悔しくて。


 俺は、泣いた。












「──っ」
 不意に震え出す携帯。
 発信者すら見ずに通話ボタンを押す。
「もしもし」
『……ひっく、ひっく』
「もしもし!」
『……ごめんね。ごめんね……』
 聞こえるのは、彼女の声。
『やだ……離れちゃ、やだ……』


 ──ああ。


 なんてこった。


 全ては俺が悪いのに。


 彼女が謝ることなんてないのに。



「今どこだ?」
『ひっく……駅……』
「わかった、すぐ行く、西口で待ってろ」
『うん……ひっく』


 跳ね上がるように立ち上がり、俺は駅に向かって走り出す。


 迎えに行かなくちゃ。


 この世で一番大切な、アイツを。



 そして、謝らなきゃ。

 そして──。





 ──仲直りの、キスをしなきゃ。



 end












  俺が望む後書き


 えー、ネタを思いついたらすぐに書け、ってことで30分コースです(笑)
 自分がわがままなので、こんな話になっちゃいました。

 ……実話じゃないですよ?(爆死)

 2002.03.05 ちゃある

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