例えばこんな、別れかた 〜聖夜〜

「よお、待たせたな」
 俺は、そう言って彼女に挨拶をする。
「結構、タキシードって着るのめんどくさいよな。俺初めて着るから、戸惑ってさ」
 彼女の前で、俺は照れ隠しに苦笑する。
 ややあってから、俺は真剣な顔をする。今日は、大事な話をしに来たんだ。
「……今日は、お前にお別れを言いに来たんだ。だから、最後にお前の願いを叶えようと思ってさ」
 そう言って、俺は後ろ手に隠した花束を出す。
「ほら、お前『イヴの夜は、黒のタキシードを着て、真っ赤なバラの花束を届けて欲しい』って、言ってただろ。……結局、最後まで出来なかったから、さ」
 声が震えているのが、自分でもわかった。
「俺……この街を出るんだ。叔父がさ。仕事、紹介してくれるって言うから。ここにいると……お前のこと、忘れられないから」
 彼女は無言。
「だから……ごめんな」
 いつの間にか、俺は涙を流していた。
「これ、ここに置いていくから」
 俺は、バラの花束を彼女の前に置く。
「また、ここに来るから。お前に会いに、必ず来るから……」
 涙が、止まらなかった。
「……なんで、死んじまったんだよ……」
 涙混じりの、言葉。
「俺は、俺はお前だけを……」
 泣き叫ぶ。でも、彼女の答えは無い。
 俺は、泣き続けた。


 彼女が眠る、墓の前で。


 end







 俺しか望まない後書き

 と、いうわけで「例えばこんな、別れかた」の2作目です。
 とりあえず2作目にしてコンセプトがはっきりしました。それは、「『別れ』に
 まつわる僅かな時間を切り取って表現する」ということです。
 だから、よけいな表現は、なるべく切り捨てました。
 今回の話だと、主人公や、彼女の名前とか、ですね。

 個人的な話をすると、このシリーズは「ぽっと浮かんだ設定がもったいないので
 とりあえず話にする」というのが発端です。だから、もしかしたらこのシリーズ
 から別の話が生まれるかも、しれません。
 ……あまり書くと、本編より後書きが長くなるので、このあたりで。
 では、また別のお話で。

 2001.11.28 ちゃある

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