例えばこんな、別れかた 〜缶コーヒー〜  ガコンッ。  俺は自販機から缶コーヒーを取り出すと、彼女に投げて渡した。 「熱つつっ」 「そりゃ熱いさ。ホットだからな」  大げさに熱がる彼女に、俺はそう言って笑った。 「……ごめんね」  コーヒーを両手で包むようにして持ったまま、彼女が謝る。 「いきなり謝られても、困るな」  俺は苦笑。 「だって……」 「じゃあ俺が『ダメだ。そいつなんかの所に行くな』って言ったら、そうしてくれ るかい?」  俺の言葉に、首を振る彼女。 「仕方ないのさ。お前には他に好きな男が出来た。俺が引き留められなかったのは、 俺にそいつ以上の魅力が無かったって、そういうことだろ?」  俺はちょっとオーバーアクション気味に身を翻し、後ろを向く。こんなの、演技 でもしないとやってられない。 「……ごめんね」 「もう謝るなよ。俺が悪いことしてるみたいじゃないか」 「……あなたって、強いんだね」  バカ言うな。  ホントは泣き叫びたいんだよ。  お前のことを掴んで、離したくないんだよ。 「……ま、お前よりちょっとだけ、大人だからな」  振り返らないまま、答える。  目頭が、熱い。 「そっか、そうだよね」  バーカ、納得すんなよ。  ……そんな素直なとこも、好きなんだけどな。 「な、とっととコーヒー、飲んじまえよ」  ようやく落ち着いたので、彼女の方に向き直る。 「……俺の、最後のプレゼントなんだからさ」 「……うん」  彼女は頷いて、プルトップに指をかける。 「……あ、あれ?」  爪が短いのか、缶を開けるのに手間取っている。 「なにやってんだよ」  缶を取り上げようとして、彼女の手に触れた。  ……彼女の手は、震えていた。  一瞬の躊躇のあと、缶を取り上げてプルトップを引く。  軽い音をたてて缶が開く。 「ほら」 「……ありがと」  彼女は俺から缶を受け取ると、一口、口にする。 「……にが」  顔を歪める。 「そういやお前、コーヒー飲めたっけ?」  今更ながら訪ねる。いつも彼女は、紅茶を飲んでいたことを思い出す。 「……最後だから。最後くらい、あなたが飲んでいたものを、飲もうかなって」 「……そっか」  それ以上は、言えなかった。  彼女は、顔をしかめながらも、ゆっくりと、コーヒーを飲んでいく。 「無理すんなよ」 「無理じゃないよ」  言いながらも、彼女の目には、涙が浮かんでいた。 「無理してんじゃねえか」 「……違うよ。これは、違うよ」  彼女の目から、涙が止めどなく流れ出す。 「これは、あなたと別れるのが、辛いからだよ」  ……なんで?  その質問は、言葉にならなかった。  何となく、理由がわかったから。  要は、彼女は俺のことを嫌いになった訳じゃないんだ。  俺よりも、好きな男が出来た。  それだけなんだ。  だから、別れるのが辛いんだ。  ……ずるい、な。 「じゃあ、思う存分泣いてください」  俺は、優しい声で彼女にささやいた。  泣きたいのは、俺の方だったけど。  ここまで格好つけたら、最後までやり通したい。 「うん」  彼女は頷くと、今度は声を出して泣いた。  本当は、抱きしめたかったけど。  それをしたら、俺が耐えられなくなるから。  俺はただ、彼女が泣いているのを、隣で見つめていた。 「……ごめんね……」  涙の隙間から漏れる言葉に、胸を痛めながら。  end  後書き  はい、例えばこんな、別れかた の3作目になります。  単に缶コーヒーが熱かったから、書きたくなりました。  ……いい加減、別れるネタはやめた方がいい気がしてきましたよ(笑)  一応、この別れかたは自分の希望が含まれてます。  彼女がもし別れようと言っても、俺は絶対引き留めてやらない。  むしろ、笑って送ってやると。  特に、今回みたいなパターンだったら、ね。  ……そだ、今度は、女の子メインで書いてみようかな。  ま、ネタが浮かんだらまた書きます。  2001.11.29 ネタはちゃんと練って書こうね ちゃある