例えばこんな、別れかた 〜リセット〜
「利明先輩」
由奈はいつものように、後ろから声をかけてきた。
「ん?」
俺はやはりいつものように、振り返らず答える。
と。
由奈は俺の前に回り込み、じっと俺を見た。
珍しい。
「どうした?」
「わた、わたしと、別れてください」
由奈は顔を真っ赤にすると、どもりながらも俺に向かって言った。
ぶっちゃけた話、俺たちは『成り行き』でつきあい始めた。
俺たちのサークルがみんなサークル内でつきあい始めてしまい、俺と由奈だけが、あぶれた格好になったのだ。
「ね、ね、利明、アンタさ、由奈とつきあっちゃえば?」
「そうそう、それ俺も言おうと思ってたんだ。結構お似合いだと思うぜ?」
言ってきたのは明美と晋作のカップルだ。俺は『何を言ってんだ?』という顔で二人を見る。が、二人は既に由奈に向かっている。
「ねえ由奈。アンタ、利明とつきあう気、ない?」
元々内気な由奈は、戸惑いの表情を隠せないようだ。
「由奈も知ってると思うけどさ、利明、良いヤツだよ? どう?」
「え、えと……利明先輩が……良いっていうのなら……」
由奈は小声で、明美に答えた。
「だってさ利明、じゃ、決まりね」
「ああ? 勝手に決めんなよ」
「じゃあなに? アンタ、由奈のこと嫌いなの?」
「そ、そんなことあるわけねえだろ」
「じゃあ決まりっ。これでウチらのサークルは全てカップルになりました〜」
パチパチとおこる拍手。
「利明先輩……いいんですか?」
由奈は上目遣いで俺を見た。身長差25センチは、こう言うとき困る。
「俺は……かまわないぜ」
「そうですか」
由奈は、それ以上の言葉を口にすることは無かった。
それから3ヶ月。俺たちは『恋人』を続けている。
もっとも、キスもしていなければデートすら行っていないが。
「急に……どうした?」
俺が、何かしたのだろうか。いきなり『別れる』なんて。
「利明先輩……先輩、私のこと、どう思います」
「どう思うって……ちっちゃいのに、頑張ってるな、とか」
「そうじゃなくて」
由奈は首を振る。
「私のこと、好きなんですか?」
彼女は、まっすぐ俺の目を見つめる。
嘘や隠し事を、全て見透かそうとするように。
「俺は……わからない」
正直に、俺は答えた。
「ただ明美や晋作に、由奈とつきあえって言われて……由奈が断らなかったから、俺も断らなかった」
「やっぱり……」
視線を下げる由奈。
「明美先輩たちに言われたから……それだけなんですよね?」
由奈は、うつむいたまま、つぶやくように言った。
「由奈……」
どこか寂しそうな由奈。由奈も、明美たちに言われたから、俺とつきあい始めたんじゃないのか?
「やっぱり、別れましょう? だって、こんなのおかしいです」
「どういうことだよ」
「私、嬉しかったんです。先輩が私とつきあってくれるなんて、夢みたいでした」
「え?」
「だって私は、利明先輩が目当てで、このサークルに入ったようなものですから」
由奈は、そう言って微笑む。
しかし、その瞳は潤んでいた。
「私、利明先輩のこと、好きなんですよ?」
そうだったのか……。
言われるまで、気づかなかった。
由奈も俺と一緒で、言われたからつきあっているものとばかり、思っていた。
「でも、利明先輩が私のことを好きじゃないのなら、意味無いです。私が、辛いだけです……」
涙混じりの声。
「だから……お願いです。私と……わ、別れ……て、くだ……さい……」
泣きながら、必死に言葉を紡ぐ。
ああ、由奈は。
こんなにも、俺のことを好きだったんだ。
このとき初めて。
俺は、由奈を愛しいと思った。
「……わかった、別れよう」
俺はそう言って、由奈の肩を叩く。
由奈は泣いたまま、こっちを見ずに頷く。
「ありがとう……ございます……」
涙を抑えつつ、由奈が答える。
「じゃあこれで、俺たちは恋人でも何でもない、ただのサークルの先輩後輩だ。いいね?」
パンッっと俺は手を叩く。
由奈は泣きやまない。
「じゃあ、由奈。早速先輩からの頼みなんだが」
「……はい。なんでしょうか?」
涙を拭い、由奈は顔を上げる。
「俺と、つきあってくれないか?」
一瞬の沈黙。
「え? え?」
意味がわからないのか、戸惑う由奈。
「俺、由奈のこと、好きだ。好きになった。この想いが本物なのか、確かめたい。だから、俺とつきあってくれ」
俺の言葉に、由奈が赤くなる。
「リセットして、もう一回はじめからやり直したい。ダメかな?」
「……いいえ、そんなこと無いです……嬉しいです」
由奈は、両手で顔を覆ったままうつむく。
「じゃあ、オッケーだな。これからよろしく、由奈」
「よろしくお願いします。利明先輩」
俺は、そっと由奈を抱きしめる。
由奈も、身体を寄せてくる。
そして、俺たちは。
初めての、キスをした。
end
俺の望む後書き
と、いうことで、例えばこんな、別れかた 〜リセット〜 をお送りします。
えと、彼女が「ブルーになる話はイヤ」みたいなので、趣向を変えてみました。
別れて、またつきあうのもいいのかな、と。
……そろそろ別れのパターンを創り出すのに疲れてきた、と言うのもあります。
まあ、行き着くとこまで言ってから、考えますので、今後ともよろしくお願いいたします。
では、次の作品で。
2001.11.30 ちゃある