例えばこんな、別れかた 〜クリスマス〜

 目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていた。
「しまったっ」
 こんな大事な日に寝坊するなんて、最悪だ。
 俺は慌ててシャワーを浴び、ヒゲを剃るとダッシュで家を飛び出した。
 街はクリスマス一色だった。これだけ染められると、クリスチャンで無い人(もちろん、俺を含む)が神聖な気持ちになるのも、なんとなくわかる。
 ……もっとも、染めている方はもっと、俗っぽい思いから行っているのだろうが。

「メリー・クリストファー・リーブ!」
「あなた、まともな登場出来ないの? それに、遅れたことに対する謝罪の言葉は?」
「悪い、遅くなった」
「相変わらずなのね、あなたは」
 由比清香(ゆい・さやか)は、あきれた声で言った。
「昨日も徹夜だったからさ」
「そんなの言い訳にしないでよ。今、18時よ」
 清香は自分の時計を俺に見せる。ちなみに待ち合わせは17時半。40分の短縮であるが、その負荷は俺の髪や、服装に現れている。

「で、今日はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「えーと、焼き肉」
「……まあ、いいわ」
 清香は首をすくめると、俺の腕に手を回す。
「じゃ、案内よろしくね」
「おう」

 俺が選んだ焼き肉屋は、小さいながらも美味しい肉を出してくれる店だ。値段は張るが、値段以上の味を、保証してくれる。
「……美味しい」
「だろ? 俺は清香のその顔が見たくてここを選んだんだよ」
「また、上手いんだから」
「何言ってんだ、ホントだぞ」
「まあ、信じてあげるけどね。でもきっと、私以外の女性とも、来てるんでしょう?」
「さすが、よくわかっていらっしゃる」
 ペチ、と扇子で頭を叩くふりをする。どうしても清香の前では、つい茶目っ気を出してしまう。
 本当は、女性を連れてきたのは清香が初めてなのに。
「ほらほら、今日は俺のおごりなんだから、たくさん食えよ」
 俺は焼けた肉を次々に清香の皿に置いていった。

 俺たちは2人で5人前と石焼きビビンバ、それにマンゴープリンを平らげた。
「どうも、ごちそうさま」
「いやいや、今日は、特別な日だからな。で、どうするんだ? 帰るのか?」
「うん、そうするわ。……ごめんね」
「いや、いいんだ。どうせ俺たち、もう夫婦じゃ無いんだし」
 俺の言葉に、清香ははっとした顔をする、その顔に、俺は失言したことを悟った。
「あ、ごめん……」
「いいの。それは、私が謝るべき話なんだから」
「でもな……」
「ホント、私の方こそごめんなさいね」
 清香は髪をかきあげる。
 その仕草は、動揺しているときの仕草だ。
「また、連絡するわ」
「おう、待ってるよ」
 清香は俺の頬に軽くキスをすると、手を振りながら去っていった。
「……俺も帰るか」
 少しだけキスの余韻を味わった後、俺は帰ることにした。
 本当は、ホテルも予約してあったのだが。


 家に戻ると、電気をつけ、ストーブのスイッチを入れる。
 俺は上着だけを脱ぎ、ベッドに倒れ込む。

 また、俺たち……やり直せるだろうか。
 出来てしまった子供。
 若すぎた結婚。
 そして流産。
 ギクシャクした関係は、容易には戻らず、俺たちは離婚した。
 でも、離れてわかった。
 俺たちは、お互いを必要としていることを。
 でも、お互いに言い出せない。
 過去の過ちが、脳裏をよぎるから。

「少しずつ……近づけて行くしか無いよな」
 俺はつぶやく。あれから5年経った。俺たちも少しは、大人になったはずだ。
 いつか、きっと……。
 俺はそう思いながら、眠りに就くのだった。















 後書き
 
 はい、止めると言ったそばから「例えばこんな、別れかた 〜クリスマス〜」をお送りいたします。「クリスマス雑文祭」対応で書きました。本当はSSを用意したんですけど、何となく二次創作は趣旨と合わないような気がしたので急遽書き上げてます。
 今回は、『好きだけど別れてしまったカップル』を書きたかったんです。それだけです。なんか思いが空回りして、タイトルからかなり逸脱してますが。 ってゆーか、ホントにもうネタが無いよう(^^;;
 ってことで、ネタがないのでSSの方にいったん力を回そうと思います。そちらも読んでいただければ幸いですね。
 では、次の作品で
 
 2001.12.05 ちゃある

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