例えばこんな、別れかた 「ねえ、別れましょ?」 「……は?」  真菜の言葉が、俺には一瞬、理解できなかった。 「私たち、別れましょ」 「……なんで?」  ようやく理解した俺の頭は、何とか質問を返した。 「だって、裕太ってば、私のことを見てくれないんだもん」  その言葉に、ドキッとした。 「な、何言ってるんだよ……」  動揺が、言葉に表れる。 「裕太は、私なんかよりお姉ちゃんの方が好きなんでしょ?」  俺の心を見透かしたような言葉。  そして、真実の言葉。  そうなんだ。  俺は。 「……ごめん」 「謝ること無いよ。だって私、その事を知ってて、付き合ったんだもん」 「え?」  またも理解不能な言葉。 「私はね、裕太のこと、好きなの。うん、誰よりも好き。だから、裕太が私をお姉 ちゃんの代わりとしてしか見てくれなくても、いいと思ったの」  真菜は俺に背中を向けた。 「でもね。ダメだった……私は、お姉ちゃんの代わりは、出来なかった。ううん、 違うな……私が、お姉ちゃんの代わりじゃ、嫌になったの」 「真菜……」 「ごめん、もう、我慢できないの。だって、私はお姉ちゃんじゃないんだもん。笹 本春菜じゃないんだもん。私は、笹本真菜なんだもん」  真菜の肩が、震えていた。  でも、俺は、その肩を抱くことが、できなかった。 「……どうして?」  真菜が問いかける。涙声で。 「どうして、お姉ちゃんなの? お姉ちゃんは、好きな人がいるんだよ? 恋人が いるんだよ? 婚約してるんだよ?」 「……でも、好きなんだ。多分、真菜が俺を好きなのと、同じくらい、俺は、春菜 さんが、好きなんだ」 「……やっと、ホントのこと、言ってくれたね」  真菜が振り向く。もう、顔は、涙でぐちゃぐちゃになっている。 「裕太はずっと、私に嘘ばかりついてた。最初は気づかないふりをしてたけど、途 中から、もうダメだって思って……でも最後に、本当のことを言ってくれて、よかっ た……」  真菜は笑った。  涙を流したまま。 「ね、別れよ?」 「ああ……そうだな……」  俺は、真菜の言葉に頷いた。  これ以上一緒にいることは、真菜を苦しめるだけだと、ようやく理解した。 「今まで、嘘ついてて、ゴメン」  俺は、真菜に頭を下げた。他に出来ることが見つからなかった。 「いいよ……だって、裕太だって、苦しかったんでしょ? 同じだよ。私たちは、 実らない恋を、お互いごまかしあっていただけだよ。一緒だよ」 「真菜……」  そうだ。俺の想いは、届くことがない。  春菜さんは、来月結婚してしまうのだから。 「じゃ、私、帰るね」 「あ、じゃあ……」 「送らなくて良いよ。私たち、もう恋人同士じゃないんだもん」 「あ……」 「それに……一人で泣かせて」 「……わかった。じゃあ」 「……うん」  真菜が振り返る。俺は、真菜が去っていくのを、ずっと見ていた。  実らない恋、か……。  俺は、春菜さんのことを思い出し、続けて、真菜とのことを、思い出した。  そして、泣いた。  いつまでも。  end  俺が望む後書き  なんとなく、勢いで書きました。想いのすれ違い、を思い浮かべて。  上手くいっていない部分がかなりありますが、個人的に好きなので。  気に入ってくれたら、嬉しいです。  2001.11.27 ちゃある