君が望む永遠 サイドストーリー「頑張らなくっちゃ〜遙の一日〜」Ver1.00

#6

「今日は、楽しかったよ」
 家の前で、孝之君に向き直る。
「俺も。遙が結構歩けるようになってるんで、驚いたよ。これならすぐに、あちこち出かけられるようになるな」
「うん、私もね。孝之君と行きたいところ、たくさんあるんだ」
「俺も」
 二人とも、楽しそうに微笑む。
「あ、そうそう。さっき話してた絵本、貸してもらってもいいかな?」
「え?」
「いや、何度も読んだみたいだったからさ。ダメならいいんだけど、何となく、読みたくなったから」
「え、ホント?」
「ああ、遙が感じたことを、俺も感じられるかはわからないけれどな」
「うん。持っていって」
「いいの?」
「うん、これも『適材適所』かな?」
「ははっ、そうかも」
 私は紙袋から絵本を取り出し、孝之君に渡す。
「サンキュ。今度来るとき、返すよ」
「うん」
「それじゃ、俺、帰るわ」
「うん」
 孝之君が私の腰に手を回した。
 ……そっと、口づけを交わす。
 唇から感じる、孝之君の体温。
 そして、そっと離す。
「それじゃ」
 孝之君は身体を離そうとした。
「……嫌」
「え?」
 まだ、孝之君と離れたくない。
「遙?」
 今度は私の方が、孝之君の首に手を回す。
 ちょっとだけ背伸びして。
 もたれかかるようにして、孝之君と唇を重ねた。
 もう少しだけ、孝之君を感じていたい。
 孝之君が、腰に回していた手に力を込めた。
 ぐっ、と抱きしめられる。
 私も精一杯の力で、抱きしめた。

 長かったのか、短かったのか。
 やがてどちらとも無く、力を抜いた。
 唇が、離れる。
「……ごめんね」
「いや、こっちこそ」
 頬が、熱い。熱を出したみたい。
 でも、体中を幸せが走り回っているみたい。
「それじゃ」
「うん」
 今度こそ、と言う感じで孝之君。
「またね」
「うん」
 私は去っていく孝之君に、手を振った。
 孝之君が見えなくなるまで。

「はふ〜」
 私は湯船で、両足を伸ばした。
 やっぱり、両足はかなり疲れていた。ジーンとした感じに似た疲労が、足から全身に広がっていく。
「でも、今日は頑張ったね」
 足をマッサージしながら、一人つぶやいた。今日は多分、退院してから一番歩いたんじゃないかな。
「今日は、いろいろあったな」
 今日のことを、思い返す。

 一人でロータリーを歩いたこと。
 平君との会話。
 絵本の前で悩んだこと。
 案内してくれた、元気な女の子。
 制服姿の孝之君。
 孝之君とケンカする、可愛い女の子。
 買った絵本。
 ラーメン屋の待ち時間。
 とんこつラーメンと替え玉。
 星を見ながら歩いたこと。
 最後のキス。

 自分がしたことを思い出したら、恥ずかしくなった。
 顔を半分、湯船に沈める。

 でも、楽しかった。
 また、一人で出かけよう。
 早く、たくさん歩けるようになるために。
 孝之君と、同じスピードで歩けるように。
 孝之君と、ずっと歩いていけるように。

 頑張らなくっちゃ!

君が望む永遠関連ページに戻る