君が望む永遠 スナップショット 『クリスマス・マーメイド』

「はあ……」
 あたしは、商店街を歩きながら、一人ため息をついた。
 街は、すっかりクリスマスだ。
 今年のクリスマスは、初めて一人で過ごす。
 ここ三年は、孝之と、過ごした。
 それ以前は、家族と。

 周りが「独り身はさみしいわぁ〜」と言う気持ちが、やっとわかった気がする。
 でも。

 今年は、一人で過ごすんだ。
「ああでも、泳ぎに行っちゃおうかな〜」
 スイミングスクールでアルバイトをしてるから、時間外なら泳ぎたいときに泳げる。時間内でも、アルバイト価格でプールを借りられるのは、嬉しい。
 一度は捨てた水泳。でも、自分から孝之を取り上げられた結果、頼るのはやはり、水泳しかなかった。
 寂しさと愛しさの重みに負けそうな自分には、地上の重力はつらすぎるから。
 私は、水の中に戻った。
 そんなことを考えるうち、不意に学生時代の遙の言葉が脳裏に浮かんだ。

  *

「クジラさんってね。一度は地上に上がったんだけど、自分の身体を支えられなくて、海に戻ったんだって」
「へえ、遙、よくそんなこと知ってるね」
 遙は結構色々なことを知っている。かなり大ボケだけど、勉強はできる。
 しかし、クジラになんの迷いもなく『さん』とつけるのは、遙らしい。
「うん、この間ね、本で読んだの。でもね、私はこう思うの。『クジラさんは、大きな体でいじめられて、悲しかったから、海というお母さんのところに、帰ったんだ』って」
「ふーん、面白いね。さすが絵本作家を目指そうとするわけあるわ」
「……そんなことないよぉ」
 頬を赤くする遙。
「ううん、ホントに面白いよ。これなら絵本作家になれるって」
「……水月、ありがとう」
 遙は、優しく微笑んだ。

  *

 あたしも、クジラさんと、同じようなものなのかな。
 確かに、水は、あたしを優しく包んでくれる。
 つらいときも、悲しいときも。

「やっぱ、泳ぎに行こう!」
 アタシはくるりと方向を変えた。

 今年のクリスマスは、1人で祝う。
 水に包まれて。


 end









 君は望む? 後書き

 なんとなく思いついたので、書いてみました。
 水月のさみしいクリスマス、です。
 ちなみに、遙が言ってることは本当のことなのか、俺は知りません。そんなふうなことをどっかで読んだ気がしたな、というレベルなのであらかじめご了承ください。
 なかなか本編が書けなかったり頓挫したりしてますので、合間にこうやってスナップショットを書いていければいいな、と思います。こればかりになりそうですが(笑)
 
 2001.12.14 ちゃある
 

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