君が望む永遠 Side Story 番外編#1 対決! 茜vs孝之(takayuki side)Ver1.00


「なーるーみーさんっ」
 ポンッと背中を叩かれ、少し驚きつつ振り向く。
 そこには、制服姿の茜ちゃんが立っていた。
「あれ? 茜ちゃん。何でこんなところに? 練習は?」
「今日は、午前中だけなんです。それで帰りにここを覗いたら、鳴海さんが見えたので」
「そっか、茜ちゃんもゲームするんだもんな」
 確か、ドリコスもプレイスタリオン2も持ってるんだよな。
 いいなあ……プレスタ2。
「で、鳴海さんは何を見てるんです?」
「ああ、今ドリコスのゲームって、中古だと安いじゃん? だからちょっと」
「ギルジディアXじゃないですか!」
 俺が手に持っているゲームを見て、茜ちゃんが嬉しそうな顔をする。
「ああ、それ、ゲーセンでよくやってて、面白いからさ」
「ですよね、面白いですよね」
「なに? 格闘アクションもやるの?」
「だって、ドリコスは、そう言うゲームばかりじゃないですか」
「まあ……それもそうだが」
 妙に納得。いや本当はもっと違うゲームも多いぞ。
 ……ギャルゲーとか。
 …………。
 虚しい。
「今度プレスタ2版も出るんですよね。私、限定版予約したんですよー。楽しみにしてるんです」
 ホントに嬉しそうな茜ちゃん。
 ……マニアですか?
「あ、そうそう。ギルジディアXなら、ウチにありますから、貸してあげますよ」
「え? ホント? 助かるなあ」
 ギルジディアXを買うために、シューティング1本諦めたとこだったんだよな。
 これで、そっちが買えるぜ。
 俺はギルジディアXを棚に戻し、代わりにシューティングを1本取る。
「……買う金額は、変わらないんですね」
 呆れた顔でツッコミを入れる茜ちゃん。いいじゃないか、これくらい。


「どうします? このままウチ、来ます?」
 会計を済ませて店を出ると、茜ちゃんが尋ねてきた。
「そうだな……どうせ今日は、このままゲームやる予定だったから、うん、寄ってく」
 ま、帰ってやることもあるけど、短い時間ならいいでしょ。
「それなら……私と対戦、しませんか?」
「茜ちゃんと?」
「これでも、結構自信があるんですよ」
 ほほう。
 この私と。
 格ゲーで勝負?
 良い度胸だ。
「良かろう。受けて立ちましょう」
 俺はニヤリと笑う。
「ホントですか? じゃあ、行きましょう」
 茜ちゃんは嬉しそうな顔をすると、俺の前を歩き始めた。俺は慌てて、彼女についていく。
 でも、本当に明るくなったよな。
 俺とも、屈託無く話してくれるようになったし。
 妹って、こんな感じなのかな? って思う。


「ただいまー」
「おじゃましまーす」
 茜ちゃんに続いて上がる。
 そっか、遙とお母さんは、病院か。
「ちょっと、着替えてきますね」
 トントントン、と茜ちゃんが2階に駆け上がっていく。
 俺はそれを見送る。
 しかし、ここの構造って……。
 2階に上がるとき、短いスカートだとパンツが丸見えなんだよな。
 お父さん、気にしなかったのかな。
 まさか、それを楽しむために!
 ……いやいや、あのお父さんに限って、それはないだろう。

 俺じゃないんだから。

 しかし、そうか……。
 今日の茜ちゃんは、薄いブルーか……。


「お待たせしましたー」
 Tシャツにデニム地のミニスカートで現れた茜ちゃんは、両手でドリコスを抱えていた。そして、ドリコスの上には……。
 ファイターズスティック!
 しかも2つ!
 おいおい、これって2つ買うと、今のドリコス本体より高いんじゃないのか?
「しかし、何故2つ?」
「え?」
「いや、ファイターズスティックが何で2つもあるのかなって」
「ああ、姉さんの分です」
「遙の?」
 そりゃ驚いた。遙もやるんだ。
「下手なんですけどね。対戦誘ったら、『同じ環境じゃないと』って言うんで」
「ふーん」
 妙に納得。変なところで頑固なんだよ、遙って。
「さて、つなぎ終わりましたよ」
「じゃ、始めますか」
 早速起動。茜ちゃんが1P側を使用し、俺は2P。
「さーて、どのキャラでやろうかな……」
 まずは様子見で、そこそこのキャラを使うか。
 と、いうことで黒服&グラサンの剣使い『ジェイ』を選択。
 茜ちゃんは?
 ふむ、海賊少女の『メイコ』だな。
 では、スタート!

 様子見で飛び込み。
 ぐはっ、きっちり対空決めてくるかよ。
 これは、甘く見ない方がいいな。
 自分の間合いで……。
 コインから居合いっ。
「初っ端から嫌な連携ですね」
 茜ちゃんの声。きわめて冷静だな。
 少しやり合い、互いに体力を削る。
 ぬ、イルカ攻撃か、ジャンプでかわして……。
『くじらさーん』
 ぐはっ、超技っ。
 くそ、体勢を立て直し……。
『くじらさーん』
「なに?」
 2発連発か?
 あー、体力ゲージがー。
 隣を見ると、にやりと笑う茜ちゃん。

 俺の脳裏に、3年前の夏が浮かんだ。
 あのプール。
 茜ちゃんが記録を持つほど泳ぎが上手いとは知らず、果敢に勝負を挑んだ日。
 端からおごらされ、次の遙とのデートのため、光熱費に手を出したあの日。
 甦る、屈辱の日々。

 ……負けられん。
 あのときの屈辱、今こそ晴らさせてもらうぞ。
「負けられんのだ!」
 俺はジェイの体勢を立て直し、前ダッシュ。イルカ攻撃はジャンプ。対空前に攻撃。
 ヒット!
 勝機!
 パンチからキック、そしてコインから居合いと見せかけて、超技!
『これが、俺の名だ!』
 勝利!
「どうよ」
 へへん、とばかりに自慢する俺。
「まだ、1敗しただけですよ」
 冷静な声の茜ちゃん。
 ほほう、まだそんな声で言うかね?
 仕方ない、実力の違いというものを見せてあげよう。
 ラウンド2 スタート!
 俺はダッシュから吹っ飛ばし攻撃を決め、一撃技の体勢を取る。
「ホントに?」
「さあ?」
 これで一撃技を警戒するな。
 居合いで間合いと取ると見せかけ、前ジャンプから下ファイヤー。
 相手がダウンしたところで、挑発。
「なんか、むかつく〜」
 お、怒ったね。
 メイコがイルカ攻撃。
 それはガード、そして一撃技!
 決まった!
「あー、やられたー」
「ま、まだまだだね、茜くん」
「悔しいな、ね、もう1戦」
「君のメイコじゃ、俺には勝てないよ?」
「わかりました。メインキャラ、使いますから」
「ほう、何かね?」
「見てのお楽しみ」
「はいはい、次行きましょう」
 ってことで2戦目。今度も俺は『ジェイ』。
 茜ちゃんは? 『水戸あんぢ』か。
 確か基本性能は低かった気がするが、嫌な相手だったよな。
 ま、いっか。
 スタート!
『始めっから飛ばして行くぜ!』
 へいへい、かかってきなさい。
 まずは居合いで攻撃。
 お、相手は大斬りっすか、余裕だね。
 って、おい。俺が食らってるよ。
 なんだあれ、出始めにガードあんのか。面倒だなあ。
 って言ってる間に体力半分無いよ。
『奥の手発動!』
 しまった!
 くそっ。
 ……って、更にジェイを掴むの?
『奥の手発動!』
 また2連発?
「うあーっ、あれハメじゃないん?」
「違います。連続技です」
「……そうかよ」
 だめだ、負けられん。
 
 ……が。
「勝ちぃ」
 さっくり負けましたよ。もう。
「これで五分ですね」
「はいはい。そうですね」
「鳴海さんの『ジェイ』では、私の『あんぢ』様に勝てないんじゃないですか?」
「はいはい。そうですね」
「あれ? あっさり負けを認めるんですか?」
「まさか、そんなことがあるわけなかろう。俺もメインキャラ使うさ」
「そうですか。やっぱ鎌使いの『マクセル』とか?」
「見てのお楽しみだ。さっさと始めるぞ」
「はーい」
 で、俺が選んだのは。
「『ポチョム君』?」
 驚いた顔の茜ちゃん。何故そんなに驚く?
「そうだ」
「ホントに?」
「いいからかかってこい」
 俺の本気を見せてやるから。

『始めっから飛ばしていくぜ!』
 おお、さっさと来い。
『疾っ』
 うざいわ!
 掴んで、必殺投げ。
『ポチョム君バスター』
「きゃあっ」
 慌てて間合いを取る茜ちゃんのあんぢ。
 しかし、甘いのだよ。
 突進攻撃から超技。これで気絶確定。
「そしてぇっ」
 キャラクターと同時に叫ぶ。
「『ポチョム君バスター』」
「うそっ」
 勝利!

 続く2戦目も俺があっさりと勝つ。
「どうかね?」
「じゃあ、次は、本気出しますからね?」
「ほほう? まだ本気ではないと?」
「まあ、見ててください」

「……なかなかじゃない?」
 なりふり構わずきやがったな。
 ハメすれすれの連携を平気でかけてきやがる。
 ポチョム君はダッシュが無いから、間合いを取られるときついんだよなー。
 しかし、その手の対処もわかってるんだよっ。

「くそっ、もう一回」

「あーん、まだまだあっ」

「今の無しだろっ」

「それはずるいですよっ」


 ……1時間後。
「ちょっと……休憩しないか?」
「そう……ですね。お茶……煎れてきます」
 疲れた表情の茜ちゃんが台所へと歩いていくのを見送る。
「ふう」
 左手が、痛いな。やっぱレバーをガチャガチャやってたら、きついか。
 とりあえず、茜ちゃんについてわかったことが2つ。
 ギルジディアXがかなり上手いということ。
 かなりの負けず嫌いだということ。
 ……まあ、負けず嫌いについては、勝負の世界に生きてるんだから、ある意味当然なのかもしれないが。
 他にも、地の口調が出てたりで、楽しい。
 でも……。
 ……そっか、まだ、俺に対しても、言葉に気を使ってるのか。


 茜ちゃんが入れてくれた紅茶を飲みながら、しばし休息を取る。
「鳴海さん」
「ん?」
「お茶が済んだら、勝負、しませんか?」
「勝負?」
「ええ。もうだいぶ鳴海さんの攻撃も読めてきましたから」
 ニコッと笑う茜ちゃん。
 ……生意気な。
「それは、何かを賭ける、ということですかね?」
「そう言ってるんですけど……怖じ気づきました?」
「キミは、誰に対して言ってるのかね? うん?」
 いいんだな?
 ここで、3年前の屈辱を晴らしても。
 後悔してもしらんぞ?
「……いいだろう。で、負けたら?」
「……負けたら……勝った方の言うことを何でも一つだけ、聞くというのは?」
 少し、照れた表情で言う茜ちゃん。
「ふーん、面白いじゃない? そっかー、茜ちゃんがねー。俺の言うことをねー」
「まだ鳴海さんが勝つとは決まってませんよ?」
「いやあ、モノが懸かったときの俺の力を知らないね?」
「鳴海さんも、私が本番勝負に強いの、知りませんね?」
 ……言うじゃない?
 ここまで対戦成績は俺の15勝9敗だぞ?
「じゃあ……やろうか?」
「決まりですね」
 互いに不敵な笑みを浮かべる俺と茜ちゃん。
 ま、勝ったらマッサージでもしてもらおうかな。最近肩こり激しいし。


「ルールはいつも通り、2ラウンド先取でいいですね?」
「変えても仕方ないだろ?」
「じゃあ、始めます」
「後悔するなよ?」
 キャラクターは互いに変更無し。俺は『ポチョム君』茜ちゃんは『水戸あんぢ』だ。
 スタート!
「先手必勝!」
 あんぢに向かって突進!
 が、ジャンプでかわされ、逆に反撃を受ける。
『疾っ』
 飛び道具をガード、同時に突進してくるあんぢの攻撃は足払いと読んで下段ガード。
 よしっ
『ポチョム君バスター』
 これで体力1/3奪取。
 しかし茜ちゃんも負けていない。
『風神っ、お留守だぜっ』
 くそっ。こんな扇子野郎にっ。
 突進っ。
 ちっ、しっかりガードかよ。

 さっきとは違う、微妙なラインでの攻防が続く。
「っしゃ!」
「あっ」
『ポチョム君バスター』
「うし!」
 まず俺の1勝。
 茜ちゃんにガッツポーズ。
 ……大人げないかもしれんが、勝負は勝負だからな。

 で、2戦目。

 今度も一進一退の攻防。
「ここかっ」
 しまった、かわされたっ。
 しかもこのパターンって……。
『奥の手発動!』
 あーまた「超技→つかみ→超技」の連携だよ。ぐはっ。
『成敗!』
 あーまたこのキャラがムカツクー。
「これで五分ですね」
「ま、勝負はこうでないと面白くないからな」
「言ってますね」

 そして最終戦。

「いくぞっ」
 最後の最後で攻めのパターンを変えてみる。負け始めてからこれは伏線だったのだよ。
 しかし、茜ちゃんも同じことを考えていたらしい。
 互いに決まるはずの連携をしくじったり、逆にガードし損なったりということが増えている。
 これならば一撃のダメージが大きいポチョム君が有利か!
「もらった!」
 これで削る!
 が、相手はパーフェクトディフェンスで削りダメージも無効にする。
 これも茜ちゃんは今まで使わなかった手だ。
 しかし、密着状態ならポチョム君バスターでっ、
「あれっ」
 ……コマンドミスかっ。
「風神っ、疾!」
 ぐあっ。
『笑止!』
 ……ま、負けた……。
「やったあっ」
 全身で喜びを表す茜ちゃん。対照的にがっくりと肩を落とす俺。
「私の勝ちですね!」
「……ああ……そうだな……」
 本当は逃げ出したいところだが。
 俺は今、茜ちゃんに対して『信頼度回復キャンペーン中』なのだ。
 ここでわめいて信頼を失うより、言うことを一つ聞いてやった方がマシだろう。
「さあ、何でも言えよ。ただし、不可能なことは言うなよ?」
「ええと……ちょっと待ってください」
 少し戸惑った表情で悩む茜ちゃん。
「え、えと……」
「早く決めてくれませんかね」
 何を恥ずかしがっているのだ。
 まさか、恥ずかしいことを要求するつもりか?
 ……裸踊りとか?
「ちょっとまて、それはダメだ」
「えっ」
 茜ちゃんが驚いた表情で俺を見る。
「いくら何でも、裸踊りは勘弁してくれ」
「……そんなこと言いませんよ」
 安堵した表情の茜ちゃん。
 じゃあ、何を言ってくるつもりなんだ?
「あ、あの……」
「おう」
「わ、私と、キ……」
「き?」
 茜ちゃんが言葉を続けようとした瞬間、不意に玄関の扉が開いた。
「ただいまー」
 遙の声だ。
「おう、遙。お邪魔してるよ」
「え、孝之君? どうして?」
「うん、茜ちゃんに会ってさ。ちょっとゲーム大会」
「ゲーム?」
「ああ、茜ちゃんって強いな。俺でもなかなか勝てなかったもん。さっきも負けたから、茜ちゃんの言うことを一つ聞くハメになっちゃったし。あ、それで、なんだっけ? き?」
 茜ちゃんの方を見ると、頬を赤らめたまま、不機嫌そうな表情をしている。
「茜ちゃん、どうした」
「き……」
「き?」
「金曜日に鳴海さんのバイト先で、夕飯おごってくださいっ、私と、姉さんに!」
「わわっ」
 何、いきなり大声で。俺、何かした?
「ああ……わかった。それでいいんだな?」
「ええ、いいです」
「……なんか、怒ってないか?」
「……怒ってなんか、ないです」
 そうかな……。
 なんか、ふてくされてるように見えるんだけどな……。
「……そう言うわけだから、今度の金曜だって」
 俺は遙の方を向く。遙は話の流れについていけないのか、ただコクンコクンと頷くだけだ。
「もう片づけますね。あ、ギルジディアXは持っていきますよね?」
「あ、ああ……」
 手際よく片づけていく茜ちゃん。
「えと、そろそろ、俺、帰ろうかな」
「ええ〜、孝之君、帰っちゃうの?」
「ま、元々ゲーム借りるだけだったし……洗濯物も溜まってるし、な」
「うん……」
「金曜はバイト休みの日だから、一緒に飯が食えるよ」
「うん」
 素直に頷く遙。ゴメンな。時間取れなくて。
「じゃ、茜ちゃん。今日は楽しかったよ」
「ええ、私も」
 さっきまでの怒ったような表情とは違う、いつもの笑顔で茜ちゃんが答えた。
「じゃ、遙」
「うん、またね」
 二人に見送られて、俺は涼宮家を出た。

「二人におごりか……」
 ま、たまには良いか。
 しかし、どうして茜ちゃん……こんなこと言うのに恥ずかしがってたんだろう?
 考えてみたが、結局謎は解けることは無かった。

end

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