天使のいない12月 ファーストインプレッションSS

 「君がいる12月」〜栗原透子〜



 些細な想いかもしれない。
 いずれ消えてしまう想いかもしれない。

 でも今は、その想いが真実だから。



「で、どれにするんだ?」
「あうぅ〜」
 ここに来てからもう、三十分が経過している。
「……いい加減にしないと、買うのやめるぞ」
「……ヤだもん」
「だったら早く決めろっ、このバカ女!」
「ふぇ……」
 栗原透子は、涙目になりながらも必死で選び始めた。
 この棚に陳列された、ぬいぐるみの山から。


 俺と栗原とは、身体だけの関係……のはずだった。
 けれど、俺達は今、こうしてデートをしている。

 おかしな話だ。

 人間関係がめんどくさいと思っていたのに、今こうして栗原と一緒にいるという事実。
 この天然ボケのバカ女にイライラしつつも、憎めない……いや、むしろ愛らしいとさえ思っている事実。
 俺は……変わったのだろうか?
「木田……くん」
「あん?」
「これに……する」
「……なんだこれ」
「……サボテン……」
 なんで三十分以上もかけて選んだぬいぐるみが、よりにもよってサボテンなんだか理解出来ない。
 でもまあ、コイツがいいって言うのなら、いいのだろう。

 所詮他人など、永遠に理解できないのだ。

「……で、次は映画だったんだけどな」
「ごめん……なさい……」
 四千円のサボテン(のぬいぐるみ)を抱えた栗原は、いつものように謝った。
「お前さ、謝ればいいと思ってんだろ」
「そんなこと……ないもん……」
「せっかくお前がデートらしいデートしたいって言うから、ちゃんとスケジュール立ててきたってのに」
「ふぇ……」
「まず遅刻。三十分な」
「だって……デートだって思ったら緊張して眠れなかったんだもん」
「そして財布を忘れたな」
「だって……寝坊したから慌てて……」
「んで今は、プレゼント選ぶのにまた三十分」
「だって、だって木田くんが買ってくれるっていうから……嬉しくてどれにしていいか迷っちゃったんだもん……」
「だからってなあ」
「ふぇぇ……」
 俺の言葉に半泣き状態の栗原。
 ……なんか、疲れたな。
「あーっ、もうやめた!」
「え?」
「今日もいつもと同じ! ほら、ホテル行くぞ!」
「ええ?」
「今日の迷惑料、身体で払ってもらうからな!」
「……うん」
 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに微笑む栗原。
 ……ま、元々そういう関係なんだしな。
「んじゃ行くか」
 俺はそう言って、栗原の肩を抱く。
「……あ」
 俺が取った不意の行動に、顔を真っ赤にする栗原。
 俺はぐっと顔を近づける。
 そして、栗原の耳元で囁く。
「今日は泣くほど、いじめてやるからな」
「ふぇぇ……痛いのはやだよう……」
 それでも、どことなく嬉しそうな顔。

 身体だけの関係じゃなくなっても。
 身体の関係が不要になったわけじゃない。

 むしろ、身体だけじゃないってことを確かめるために、
 俺達は今日も、セックスするんだ。

 そんなことを考えながら、俺達は冬の街を歩く。
 二人手を繋ぎ、温もりを確かめるようにして。
 そして、更なる温もりを、感じるために。

 俺は、栗原のことが好きだ。
 今は、その想いがあればいい。

 俺達は、今この瞬間を、生きているんだから。


 おわり。





  俺が望む後書き

 ってーことで、天使のいない12月をやってのそっこーSSです。
 まあエンディング後なので、ASってことかもしれません。
 サイトの構成上、エロは出したくないのですが、この話ってエロなしだとめんどいね。 サイトリニューアルしたら、エロ版も書こうかなあ……リニューアルできたらね。

 てなわけで、今回は3本同時に書き始めましたがとりあえずこれが出来たのでアップします。
 天使のいない12月ページは後日作るので、今はこっちに。

 2003.09.29 ちゃある
 2003.10.02 加筆修正。

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