天使のいない12月 ファーストインプレッションSS

 「君がいる12月」〜麻生明日菜〜






 この世界は、欺瞞に満ちている。
 俺達は、そんな世界でナニカを演じているだけなんだ。



「ね、ウチで年越し、しない?」
 アルバイトの休憩時間。明日菜さんはいつものような笑顔で、俺に話しかけてきた。
「えーと……」
 脳裏に浮かぶ、恵美梨の顔。
 あいつは年末、どうするんだろう。
 って、さすがに年末は親もいるだろうけど。
「多分大丈夫っす」
「そ、じゃあ年末はウチで紅白見て年越しそば食べて初詣、ね。きーまりっ」
 嬉しそうな顔で、明日菜さんが言う。
「俺も楽しみにしてますよ」
 その笑顔につられて、俺も微笑む。
 こうやって、俺達は今日もラブラブなバカップルを演じている。
 そう。

 『演じている』

 目の前の明日菜さんは、明日菜さんじゃない。
 本当の明日菜さんは、きっとあのとき見た彼女。
 それを知りながら、明日菜さんは今日も明日菜さんを演じている。
 だから俺も、木田時紀を演じる。
 明日菜さんの、恋人という役を。
 現実の世界に、空想の舞台を重ねて。

「こらっ、手を休めるなっ」
「はいっ」
 おやっさんに怒鳴られ、俺は厨房に戻る。
 焼き上がったケーキを、俺は運ぶ。
「本当に……いいのか?」
「え?」
 おやっさんの言葉に、俺は動きを止める。
「明日菜のことだ。おまえは本当に、あいつとつきあっていくつもりなのか?」
「おやっさんは……反対なんですか?」
「いや……俺だって明日菜には幸せになって欲しいと思ってるし、お前がその相手に相応しくないとは思っていない。ただ、あいつの性格を、お前が本当に理解しているのか、と思ってな」
「……大丈夫、だと思います」
「なら、いいんだが」
 言葉とは裏腹に、おやっさんの表情は固い。そりゃそうだろう。おやっさんには、既に演技でしかないことがばれているのだから。
「時紀ク〜ン、片付け手伝って〜」
 重くなった空気を吹き飛ばすように、明日菜さんののーてんきな声が聞こえた。
「あ、はーい」
 俺はおやっさんに会釈すると、店に出て行った。


「また、おじさまに何か言われたの?」
 明日菜さんはため息をつく。
「大したことじゃないですよ。大丈夫」
「時紀クンがそう言うのなら、いいけど」
 心配そうな顔をする明日菜さん。シュンとした顔も、可愛い。
「心配ないですよ。もう、明日菜さんは心配症なんだから」
 微笑んで、スッと明日菜さんを抱き寄せる。
 ほんの少しだけ、頬と頬が触れ合う。
「……な?」
「うん」
 ニコッと微笑む明日菜さん。
 そう。その笑顔。
 例え演技だとしても。
 俺は明日菜さんに笑ってほしいと思う。
 演技して、演技して。
 演じ続ければ、いつか。

 自分自身すら、だますことができるかもしれない。

 偽りの幸せすら、本当の幸せに思えるかもしれない。

 だから、俺達は演じ続ける。
 いつか、完全な芝居ができることを信じて。


 おわり






 君が望む後書き

 うーむ。まとまりきれていませんなあ。
 明日菜さんは、脇役キャラとしてはわりといい味出せると思うんですけど、メインに据えると本音を扱わないと行けなくなりそうなので厳しいですな。
 ってーことで続きは微妙。

 2003.11.30 ちゃある

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