天使のいない12月 ファーストインプレッションSS

 「君がいる12月」〜葉月真帆〜



 いつも俺達は、一番望んでいるものは手に出来なかった。
 不思議と、次に望むものは手にはいるのに。



「こんにちわー」
 維納夜曲に元気な声で現れたのは、真帆ちゃんだった。
「お、真帆ちゃん。いらっしゃい」
「あら真帆ちゃん。また時紀クンに会いに来たの?」
「はい。今日もタカリに」
「おいおい、いくら何でも毎回はおごれねえぞ」
「ざーんねん。じゃあ今日は自腹で食べますか」
「あらあら時紀クン、こういうときは彼氏がおごるの、基本よ?」
「いくら彼氏でも、限界がありますよ」
 明日菜さんの言葉に、俺は苦笑で返す。
「だいたいそれに……」
「『俺は真帆ちゃんの彼氏じゃない』でしょ?」
 俺が言うよりも先に、明日菜さんはいたずらっぽい顔で言った。
「……分かってるじゃないですか」
「まあね。毎回言われてればいい加減想像付くわ」
 だったら最初から言わなければいいのに、と思うのだが、そうしないのが明日菜さんだ。
 俺はため息をつくと、真帆ちゃんのところへと向かった。

  +

「今日もごちそうさまでした。センパイ」
「……まあいいけどな」
 結局真帆ちゃんは店が終わるまで居座り、何故か支払いは俺になっていた。何か釈然としないものはあるが。
 俺は店の終了と同時に、真帆ちゃんを送るために店を出た。俺はそんなつもりなどなかったのだが、嬉しそうな明日菜さんの笑顔に押し切られた。

 外は、寒い。気温が低いだけではなく、風も強い。吹き付ける風は、容赦なく体温を奪っていく。
 俺達は、自然と寄り添うように歩く。
 お互いを、暖めあうようにして。
「寒いですね」
「だな」
 交わす言葉は、ほんのわずか。
 求める温もりも、ほんのわずか。
 端から見れば、俺達は恋人の距離にいるのかもしれない。でもそれは間違っている。
 俺達は、恋人の距離から一歩。いや半歩だけ離れているのだ。
 そしてその半歩は、永遠に埋まることはない。
 なぜなら、俺達はきっと、

 一歩ずつ近づいて、すれ違ってしまうだろうから。

「じゃ、ここまでで」
「ハイ。今日もおごってもらってありがとうございます、センパイ」
「あー……ああ」
 きっとその件について真帆ちゃんに何か言うのは間違っているのだろう。言うべきは明日菜さんだ。
「明日も……行っていいですか?」
 不意に見せた真帆ちゃんの不安げな表情に、俺は一瞬言葉を失う。
「ああ……もちろん」
「ありがとうございますっ」
 一転、笑顔を見せる真帆ちゃん。その笑顔は、安堵したような顔で。
「じゃ、明日も待ってるから」
「はい。必ず行きます」
「……もうおごらんぞ」
「わかってますよ」
 他愛ないやりとり。でもそれがおかしくて、俺達は笑い出す。
「じゃ、また明日」
「さよなら、センパイ」
 俺は元気よく手を振る真帆ちゃんに見送られながら、角を曲がる。

「ふう……」
 ため息一つ。
 別に会うのがつらいんじゃない。
 むしろ、今の俺に真帆ちゃんは必要な存在だと思う。
 真帆ちゃんに会うことで、俺の心が救われているのは事実なのだから。
 でも。

 所詮、俺達は互いに二番目なのだ。
 繰り上がりは、ありえない。

 いつか、互いに一番ができたら。
 俺達の関係も、変わるだろうか。

「それも、ありえんな」

 つぶやく。

 いいんだ。俺達はずっと二番目で。
 二番目だからこそ、気も許せるんだ。

 これからも、変わらず。

 半歩足りないままの、距離で。

 俺は、真帆ちゃんの笑顔を思い浮かべながら、家に向かって走り出した。





  俺が望むあとがき

 えと、忘れてました(ぉ
 天使のいない12月はテーマがわりと深い(そして暗い)ので非常に書きづらく、真帆ちゃんもこんな中途半端になってしまいました。 まあ書いたんだから許してください。いやホントごめんなさい。

 2004.02.03 ちゃある

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