茜妊娠エンド アフターストーリー
僕のお母さん
作:匿名のM
茜が深刻な顔で電話を受けている。
オレは妙な胸騒ぎを覚え、受話器を持つ茜に近づいた。
季節は、そろそろ暑い時期にさしかかろうとしていた。
夏は……あまり好きじゃない。
「そうですか…はい……はい…」
少しづつ冷静さを取り戻した時期のオレは、茜との関係を見つめなおすことが多くなっていた。
その話をするたびに、茜はむしかえさないで欲しいといった目でオレを見た。
茜に対しての想いも、オレの中には確かに存在した。
それは茜の望むところではないと、そう頭では判っている。
傷を舐めあうように支えあってきただけではない。
一人だと押しつぶされそうになることもある。
一人だと耐え切れなくなるときもある。
そんなときに、オレには茜がいて、茜にはオレがいた。
変わってない…ちっとも…。
あの頃から、オレはこれっぽっちも成長してない…。
「はい…解りました…」
カチャ。
「…どうしたんだ?」
茜がオレに気付き、はっとして振り返る。
「あ…あな……兄さん」
優しげな笑顔を湛えたその瞳には、涙が浮かんでいた。
「どうした…? なにかあったのか…?」
兄さん…?
茜はオレをどう呼んでいた?
一昨年、子供の七五三の時に遙に報告にいって…その後、なんて呼んでいた?
「姉さんが…目を覚ましました…」
遙が!?
ドクンッ
自分の耳にもはっきりと聞こえたと錯覚するほどの、激しい鼓動が胸を叩く。
かつて茜は言った。
『姉さんが目覚めるまでは、私がずっとそばにいますから』
嬉しい?
オレは嬉しいのか?
いつまででも待ちつづけると、そう決めてから、この日を夢見ていたはずだ。
けど…だったら、なんで、涙が……。
遙を手に入れる代わりに、茜を手放す。
そんなことが本当にオレにできるのか…?
「兄さん…あの……わかってると思うけど……」
オレは茜の言葉を聞くのが辛く、抱きしめ、唇を重ねた。
「あ……ダメ……やめて…ください……」
「だけど…オレは……」
どんっ。
涙を流しながら、オレを突き飛ばした茜。
オレはまた…。
かえって辛い思いをさせてしまっている。
あれは…遙に子供の成長を報告にいった前の年……。
*****
「どうして、相談してくれなかったんだ!?」
「………ごめん」
茜からその話を聞かされたとき、オレはかなりのショックを受けた。
だからついつい声を荒げてしまったんだろう。
「でも…これでよかったの…」
「いい訳ないだろう? そんな…一人で苦しんで……」
茜の中に息づいた新しい命…。
オレには知られることがないまま、悩み、苦しみ……そして、切迫流産………。
「じゃあ……」
茜は続きの言葉を飲み込んだ。
だけど、聞きたいことは判っている。
そして、それをオレにぶつけられない気持ちも、痛いほどわかる。
相談してたら、産めといったのか?
それとも………。
「姉さんが目を覚ましたら…私生児になっちゃうから…」
「・…………ごめんな」
相談されていたら、産めといえなかっただろうから、ごめんなのか?
それとも、産めといっただろうから、ごめんなのか?
判らない…自分でもいろいろな感情がぐるぐると頭を駆け巡って、結論が出ない。
「ほら…孝之さん…優しすぎるから…」
「気をつけていたはずなのにな……ごめん」
そんなことをいう場面じゃないとわかっている。
だけど、茜の気持ちを考えたら、オレにはそれしか言えなかった。
*****
最後に来てから一週間もたってないというのに、なんだか知らない場所のようだ。
両親は病院の待合室で、オレ達を待っていた。
「鳴海君…」
「お父さん……」
声をかけあい、そのまま時間が止まる。
お互い、何を言ったらいいのかわからない。
「子供…孝遙(たかはる)は?」
「…学校です」
「そうか…連れてはこなかったのか…」
「ええ…連れてきませんでした…」
連れてきてどうだということもない。
ただ、なにか話していないと、不安に押しつぶされてしまう。
「先生のところにいこう…」
場の重さに耐えかねて、茜が医局へ向かう。
他の三人は動かない。
いや、動けなかった。
「ほら、お父さんもお母さんも………兄さんも…」
オレの方をチラッと見たお父さんの目が、深い悲しみに彩られる。
判ってはいたことのはずだ…。
オレだって…実のところ…心の整理ができていない。
「もう…今は、姉さんのことが一番でしょ? しっかりして…」
そうだ…今、考えるべきなのは、遙のこと…。
「行きましょう…」
「鳴海君…」
コンコン。
「はい、どうぞ」
扉を開けて、医局に入ったオレ達の顔を、先生はゆっくりと見回した。
「まず、状況を説明するわね」
そうだ…以前目覚めたとき…遙は普通の状態ではなかった。
もしまた、そんな状態だったら…あの頃と同じように、していかなければならない。
「そろそろ他の検査結果も出ると思うけど、遙さんの意識はしっかりしています」
「それじゃあ…」
状況は、以前より良い…そういうことなんだろう。
少しだけ安堵の空気があたりを包む。
「ええ…だけどね……」
「………」
「8年前、意識を取り戻した時のことは、覚えてないのよ」
孝之君が待ってるから、行かないと……。
経過した年数を把握する前の第一声はそれだったらしい。
遙の中では、11年前にオレと待ち合わせをしたあの時のままなんだ…。
「お父さんお母さん…それに、先生も…」
茜が努めて明るく声を絞り出した。
何を言うのかは、判っている。
オレは昨日の晩に聞いている。
「私が姉さんの代わりをしてたなんて、言ったらダメですよ」
「茜…あなた…本当に……」
お母さんが、顔を伏せた。
「時期をみて…必要だったら、私から言うから…だから…」
オレが一人で、遙との子供を育ててきたなんて、無理がある。
いずれ、どうしても話さなければならない時はくるだろう。
それまでは、嘘をついていこうと…。
「鳴海君…君は………君もそれでいいのか……?」
「…………はい」
ため息を一つついて、先生が話しに割り込む。
「いずれにしても、今はまだ子供のことは話さないでね。
失われた年数を取り戻すその過程で、少しづつ情報を与えていかなければパンクしてしまうから…いいわね?」
それぞれが、それぞれの思いを抱いたまま、首を振った。
そのとき一番必要なこと…それを積み重ねていくしかない。
それが一番大切なことなんだ。
オレは顔を上げて、廊下を一歩踏み出した。
*****
「孝之君…」
ここまで、身体が衰弱してるなんて…。
以前目覚めたときは、ベッドの上で座っていた。
あの時よりもやせ細った遙は、身体を横たえたまま首をこちらに向けるのが精一杯という感じだ。
「遙…」
なんと言えばいいんだろう…。
今では、オレはもう正式に遙の家族になっている。
「ごめんね……」
「…………」
なぜ遙が謝るんだ…。
謝らなければならないのはオレの方なのに…。
「本当に…11年も……」
オレや茜の姿を見て、実感したのだろう。
遙は涙で顔をくしゃくしゃにした。
「遙………」
自分ではまだぬぐえもしない涙を、オレは指先でそっとぬぐった。
「孝之君……あの…あのね……」
「なんだ?」
ためらいがちに言いながら、遙が視線をそらした。
「ごめんね…もう……待ちきれなかったよね……?」
「………」
茜がいたから、待っていられた……。
そう、はっきりと言えたらどんなにかいいだろう。
だけど、今それを言うことは茜の気持ちを……思いを、踏みにじることになる。
「孝之君……もう…………」
もう……?
他に彼女がいる?
それとも結婚している?
聞きたいことは山ほどあるだろう。
「遙……オレは……」
「……うん」
まっすぐで、曇りの無い瞳がオレを見る。
「…………」
「あまり長話はできないわよ。今の遙さんは、話をするだけでも重労働なんだから」
何から言えばいいんだろう?
何を伝えればいいんだろう?
「オレは遙を待ってたから……」
いろいろな思いが渦巻いて、それだけ言うのがやっとだった。
「え…? でも……そんな……本当に…?」
遙の目が驚きに見開かれる。
「ああ…だから……焦らないでがんばれよ…な?」
「うん…うん……」
「鳴海君、お父さんやお母さんにも話をさせてあげなくていいの?」
先生が後ろから声をかける。
「あ、そ、そうですね…」
「いや…いいんだ。私は遙の声を聞けるだけで十分だよ」
「それに、兄さんとお話したほうが、元気が出るんじゃない?」
からかうように茜が続ける。
……どんな気持ちで言ってるんだろう?
それを考えると、照れるより前に不安になる。
「もう……茜ったら…」
遙が頭を動かして、茜の方を見ようとする。
「ああ、ほら、姉さん。あたしがそっちにいくから…」
「茜…ずいぶん…変わった……」
「見た目だけよ」
「こんなに大人になって……」
「私は変わってないよ……姉さん」
生きてきた年数、経験を重ねた年数でいえば、内面的には茜の方が大人になっているはずだ。
優しげな瞳で遙を見る茜の瞳。
それなりの経験を重ねてきてるがゆえの……包み込むような視線。
オレは複雑な思いで、姉妹の会話を聞いていた。
「水月は……平くんは……みんなは元気……?」
二人には・…あれから会っていない……。
「…………」
けど…今は……安心させてやらないと……。
そう思うのに、声が出ない…。
「……そろそろ、いいかしら?」
「え…だけど……」
話の途中で、先生に腰を折られ、遙が不満そうな声を漏らす。
「今日はもうお休みなさい。また明日……いいわね?」
疑問符ではあるが、有無を言わさない口調に、遙はただ頷いた。
*****
病室から出たオレ達は、再び医局へと向かった。
「あの…いいですか?」
「なにかしら?」
あんなに…体が動かなくなっているなんて思わなかった。
どれくらい経てば普通の生活に戻れるんだろう…?
「あの…遙は…」
オレが聞くより先に、お父さんが心配そうな声を出した。
「………」
「身体は…元通りになるんですか?」
「時間をかけて、ゆっくりと体力を取り戻すしかありません」
「そうですか…」
どのくらいの時間……?
だけど…いつまで待たなければならないのかと思い悩んでいる時間よりは、まだマシだ。
「あまり焦ってはいけません。心のリハビリもあるんですから…」
そうだ…。
水月とのこと…遙はどう思うだろうか……?
今になって水月との約束を思い出す。
二人がどうなっていても、遙にはちゃんと言おうって……。
「…………兄さん?」
すっかり口に馴染んだのか、茜が自然な口調で呼びかける。
そう思い込もうとしてるだけかも知れないが……少なくとも今のオレには自然に聞こえる。
「…………」
「あの…この後ちょっと…いい?」
「だけど、そろそろ孝遙が帰ってくる時間じゃ……」
「お母さん、お願いできる?」
「ええ…構わないけど…」
茜に手を引かれて、オレは医局を後にした。
*****
日が傾きかけた病院の庭。
ここにいると、いろんなことが思い起こされる。
「水月先輩…呼べないかな…?」
「それは………」
「姉さん…多分会いたいと思うから……」
「……………」
最後に水月と別れた時のことを考えると…どうなんだろう…。
遙が死ねばよかったなんて…本心じゃないことは判ってる。
だけど…それをオレに言ってしまった事実は消えない。
二度と会わない…多分その言葉にはそんな意味も含まれていたんだろう…。
このことは茜には言っていない。
言ったとしても、本心じゃないことは茜にだってわかるだろう。
だけど…言えることじゃないし…言うつもりもなかった…。
「茜の方には…あれからなにか連絡はあったのか?」
「ううん…そっちは…?」
『あなた』でも『兄さん』でもなく『そっち』か………。
無理をしてるんだろう…やっぱり。
「いや、あれからまったく…」
「そう……私、行ってみる」
「それは…」
止めたほうがいい。
多分、オレ達の状況は耳に入っているだろうから…。
そして、それを好ましい状況だとは考えていないだろうから……。
「……オレも行くよ」
一人では行かせられない。
どんな謗りをうけたとしても、二人で決めたことに対して、茜だけを責めさせるわけには…。
「うん…それじゃあ…これが……」
夫婦としての最後の共同作業……。
はっきりと言えるほどにさらっとした言葉ではない。
茜にとってもそうだということに、安堵を覚える。
くっ……馬鹿かオレは……。
そこは安心するところじゃないだろう?
「そうだな……ありがとう…」
オレは茜をぎゅっと抱きしめた。
「あっ……」
瞬間、身を固くはしたが、茜はそのままオレに身をゆだねた。
「お礼なんて…言わないで下さい」
茜の肩が震える。
「…………」
「私は、幸せだったんですから…それに……」
茜がオレの胸を両手で押した。
断固とした意志を感じ、オレはそれに逆らえない。
「これからも、幸せです」
「そうか……」
ふとしたはずみで忘れそうになる。
茜は…遙の身代わりを務めていたんだ。
重ねあった時間は……無駄ではなかった。
そうすることで、茜だって救われていたはずだ。
「それじゃあ…いくか…」
「はい」
*****
海の見える公園。
遙とも、水月とも、茜とも……そして、孝遙とも何度か足を運んだ場所……。
そこで水月は海を見ていた。
ふと、学生時代を思い出す。
水月の髪は当時より短くはなっていたが、また後ろでまとめられていた。
「……………水月先輩」
「久しぶり…」
水月はオレ達の方を振り向かずに声を出した。
オレ達の現状を、全く知らないということはないはずだ。
そして、それをこころよく思っていないことも判っている。
「姉さんが…目を覚ましました…」
こうしている時間がもったいないとでも言いたげに、茜が単刀直入に話を切り出す。
「遙が!?」
振り向いた水月の顔には、オレ達を責めるような表情は無かった。
そこにあったのは、友達が快方に向かったことに対する安堵。
「…………」
ふと、以前の時のことを思い出したらしい。
安堵に彩られていた顔に、心配そうな色が浮かぶ。
「…大丈夫です。意識ははっきりしています」
「そう…」
「身体のほうは、以前より、衰弱していますけど…だけど、なんとかなりそうです」
「…よかった」
宙を泳いだ水月の視線が、オレ達を捉えた。
ふっと、表情が硬くなる。
「言えるの? 今度は、ちゃんと言える?」
誰も傷つけたくないという思い。
自分が一番傷つきたくなかったということ。
自分が人を傷つけることで、自らが痛みを感じることが怖かった。
今はそれを判っているから、同じ事は繰り返さない。
「ああ…もちろんだ」
「はぁ……あのときにこれだけ毅然としててくれたらねえ」
「…………」
「ま、遙を慰めるのは任せといて。孝之がやっても、茜がやっても辛いだけだと思うから」
う…。
やはり、誤解している。
「水月…それは……違うんだ」
「へ?」
「水月先輩……兄さんはずっと姉さんを待ってたんです」
「…………」
水月が信じられないものを見るように目を見開く。
「ただ…ちょっと寄り道してただけですから」
「茜! あんた、状況わかってるの!? あの頃とは違うのよ?」
「わかってます」
「わかってない! 子供のこと、どう考えてるの!?」
やっぱり、子供といるところをどこかから見たか、あるいは誰かに聞いたか…なのか。
そして、水月はオレ達を誤解している。
「あの子供は…孝遙は……オレと遙の子供だ……」
唖然とする水月。
そんな水月から茜は視線をそらした。
「私は…姉さんの代わりでしたから……」
「そんな…変だよ。おかしいよ……」
はたから見たらそうなんだろう…。
オレは一人で抱えきれない重荷を茜とともに支えあうことでやってこれた。
茜はオレへの想い、遙への思いを自分を捨てることで貫こうとした。
「変じゃないです」
茜がきっぱりと言い放った。
いつの間には、その瞳はまっすぐに水月を見据えていた。
「茜……」
「水月先輩なら、わかるんじゃありませんか?」
水月は違った……はずだ。
少なくとも、遙の身代わりなんて、そんなつもりはなかったはずだ。
そうでなかったら耐えられない……オレは水月の夢を奪ってしまったのだから…。
「まあ、全くなかったって言ったら嘘になるかもしれないけど…」
ぐわんぐわんぐわんぐわん……。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
「水月………」
「あ、だけど、誤解しないでね。私は孝之が好きだった……だけど、そういう気持ちもあったのかも知れないって思っただけ」
少しだけほっとする。
あの当時…助けられたからなんて理由じゃなく、本気で水月を好きだったから…。
「でも、それはそれで泥沼なんじゃない?」
「だから、先輩も協力してくださいね」
「協力?」
「子供のことも、私と兄さんのことも私から言い出すまでは、内緒にしてほしいんです」
「そう……そのくらいなら……」
いたわるような目。
水月は茜を心底心配している。
それが痛いほどわかった。
「というわけで、平先輩もお願いしますね」
茜が公園の暗がりに声をかけた。
「…なんだ、気づいてたのか」
頭をぽりぽりと掻きながら、慎二がバツの悪い顔をして現れる。
「よっ、久しぶり」
「慎二…」
「まあ、オレからは特になにも言わないよ。そんな立場でもないしな…」
あ、そうだ……水月に一応確認しておかないと……。
「あのさ…」
「ん?」
「例の約束だけど……まだ有効なのかな?」
遙が目覚めなくなってから、水月と付き合って、茜を代役にして………。
「誰かの口から耳に入るよりはいいんじゃない?」
「それもそうか……」
話すことはいっぱいある。
一番重要なのは……遙が目を覚ましたことで、どれくらいオレが嬉しいのか。
それさえ伝われば、いろんな事柄の重みにも耐えられる……そう思う。
遙を中心に、オレ達の関係がまた動きだしたような気がする。
「それじゃあ、明日、早速遙の見舞いに行くね」
「はい…よろしくお願いします」
思っていたより、すんなりと事態は進みそうだ。
去っていく二人の背中に、オレはありがとうの言葉を投げかけた。
届かないと思ったほど小さくだったが、慎二は片手を上げてこたえた。
「さて……それじゃ、帰ってこれからのこと、相談しないとね」
「ああ…そうだな」
目覚めたといっても、まだ退院のめどさえたっていない。
多分、今日はけじめという意味で、オレを『兄さん』と呼んでいたのだろう。
後ろから付いてきていた足音がぴたりと止んだ。
「すっかり孝遙の本当の母親のつもりになってた…」
「茜……」
「ふふ……だめだな、私……こんなんじゃ、兄さんに……迷惑………っく…」
抱きしめようと上げた手を、オレはその先まで動かせない。
ここで抱きしめたら………今はいいかもしれない。
だけど……。
「孝遙も幸せ者だよな」
「……え?」
「優しくて可愛い母親が二人もいるんだから……さ」
「兄さん……?」
「オレの嫁さんの代わりだったかもしれないけど、孝遙の母は代わりじゃないだろ?」
「だって……それじゃ、姉さんが……」
「遙だってわかってくれるさ」
問題はまだ山積みだが……きっとうまくやっていける。
オレはそう確信している。
ゆっくりとだが、成長してると思いたいから……。
*****
コンコン。
「はい、どうぞ…」
横になったままの遙を見て、水月と慎二が悲しそうな顔をする。
勘弁してくれ…遙はまだ8年前に一旦目覚めたことを知らないんだ。
その当時の様子と比べるようなマネは…今はしないで欲しい……。
ツン。
慎二のわき腹を突く。
「ってえ…あ……そっか…」
「え…なあに?」
まだ、顔を動かすのも一苦労といった感じの遙が、心配そうな声を出す。
(悪りぃ…そうだよな……)
小さく耳元でそうつぶやき、慎二が遙の枕もとに近づく。
「いや、ここまでこなきゃ、涼宮に顔見せられないの、気づかなくてさ」
「あ……平…くん?」
「そうだけど…?」
「ご、ごめんなさい…変わっちゃったから…」
この中で一番変化が少ないのは、遙だろう。
それは11年間の空白があったからなのだろうか?
「だけど、良かった。思ったより元気そうだね」
水月も枕もとに歩み寄る。
「あ……水月…髪…切ったんだ……?」
「ああ…うん……今は遙の方が長いね」
何気ない会話。
まるで学生時代に戻ったかのような、さりげない会話。
「退院できたら、みんなでお祭りいこうな」
「孝之君…うん……うん……」
「ああ、だから泣くなって……まだ腕も動かせないんだろ?」
慎二がオレをわざとらしく小突く。
「だったら、お前がぬぐってやればいいじゃねーか」
「わ、わかってるよ」
オレは指先で、遙の頬を伝い落ちる涙をぬぐった。
「あ……ありがとう……」
「ふっふ〜ん、やるわねえ……孝之」
「うるせえぞ、水月」
その場の全員がハッと息を飲む。
オレも口を押さえて凍りつく。
「あ……孝之君……今、水月のこと……」
「そうそう、遙に報告することあるんだ」
水月が遙の言葉を遮る。
「あのね……秋に、慎二と結婚するの」
「平くんと水月が?」
「そうそう、だから、それまでには退院してよね」
初耳だった。
まあ、8年の間になにがあったのか……音信不通だったオレには知る由も無い。
「へえ……」
お前らがね…と言いかけて慌てて口を噤む。
オレが知らないってのも、遙からしたら変な話だろう。
だから、知ってるそぶりを見せないと……。
「秋……大丈夫かなあ……」
遙が不安そうにオレを見た。
「なあ、退院が難しかったら、後でまたオレ達だけで披露宴だけでもどうだ?」
「う、うん……」
歯切れが悪いのはどうしてだろう……?
「どうかしたのか?」
「ホントはね…遙が間に合わないんだったら、延期したいんだけど……」
「まあ、そういうわけにもいかなくて……さ」
「そんな…延期なんて……」
遙が慌てて割ってはいる。
「予定日……新春だから…」
「よてっ……」
まじまじと水月の腹を見る。
「そんなにじろじろ見ないでよっ」
「そうか……子供…か……」
遙はどう思うだろう……。
自分にも子供がいて、もう小学生だと知ったら……。
「水月……幸せなんだ……よかった…」
「だから、いちいち泣くなって…」
「嬉しくて……ごめん……」
親友の幸せな未来を予感して、涙腺がゆるんだのだろう。
指を伸ばして、再び遙の頬をぬぐう。
「ごめん…ごめんね………」
懐かしい……とても懐かしい雰囲気に、オレまで泣きそうになる。
「えっと…あまり無理させちゃってもなんだから……」
「オレ達そろそろ…」
「うん……ありがとう……幸せにね…」
「もうっ、今生の別れじゃあるまいし…またくるから、遙も元気だしてね」
「そこまで、見送ってくるよ」
と、椅子から立ち上がりかけたオレの肩を慎二が押さえつける。
「気ぃ使うなって。いてやれよ」
「ああ…わかった……」
何年ぶりかで会ったというのに……わだかまりもいろいろあるだろうに……。
まるで一切のブランクがないように、オレ達は自然になれていた。
遙のおかげだな…。
「んじゃ、またな」
手を振って病室を出て行く二人を見送り、オレは遙に向き直った。
「優しい泣き虫さんだな…」
遙の頭を撫でる。
「あ…………」
「ん? どうした?」
「なんだか…子供扱いされてるみたい……ううん………お父さんみたい…」
お父さんみたい………。
オレは……。
きょとんとした目でこっちを見つめる遙の頭から、オレは慌てて手を引っ込めた。
「そんなことないって」
「……小さい頃、お父さんに感じたみたいな印象……」
「まだ、目が醒めたばかりで、混乱してるんだろ…いいから、休めよ……」
「うん……へんなこと言って…ごめんね……」
少し息が上がっている。
オレは布団の中に手を入れて、遙の手を握り締めた。
確かな暖かみが、生きてるんだと実感する。
決して力強くはなかったが、遙もオレの手を握りかえす。
「いいんだ…………」
もう少し…もう少し落ち着いたら、ちゃんと言うから…。
オレはもう父親なんだって……。
オレと遙の間の子供の父親なんだって……。
「私……ちゃんと動けるようになるのかな………」
「何言ってるんだよ。当たり前だろ」
「首だって…ほとんど動かせないし……腕だって上がらない……」
「焦るな……ちゃんと待ってるから…」
ゆっくりと、遙に顔を近づける。
「あ………」
ちゅっ………。
「あうう……」
遙の顔が真っ赤になる。
「遙……」
「恥かしくて………手で顔を隠したいのに……あうう……」
真っ赤な顔で、ちょっと膨れてみせる遙が愛しくて、オレはその頬をそっと撫でた。
「さて…あまり長話しても、負担になるだろ。そろそろ寝るといいよ」
「う…うん……」
何かを言いたそうな視線……。
今のオレには何が言いたいのかが判る。
「寝付くまでいるから……」
「うん……ごめんね……」
「ごめん、なんて言うなって」
「うん…ごめん…」
安心して瞳を閉じる遙。
オレ達と同じ年代というより…まるで子供を見ているようだ……。
まさか……遙に対して持ちつづけた想いが、子供に対するそれになってはいないだろうな……?
オレは心の中で、苦笑した。
安らかな寝息を立て始めた遙を、オレはしばらくの間、見つめつづけた。
*****
「ただいま」
「おとーさん、おかえりーっ!」
トタトタトタトタトタトタトタトタ……。
元気良く廊下を走ってくる足音。
まったく、子供の成長っていうのは早い。
ついこの間まで『パパ』と呼ばれていた気がしたが、今では『おとーさん』だ。
そのうちにそれが『父さん』になって『親父』になったりするんだろう。
「なんだ、今日はご機嫌じゃないか」
玄関に座り、靴を脱いでいるオレの背中に、愛息子が抱きつく。
「だって、明日はみんなで遊園地いく日だもん。ちゃんといい子にしてたんだよ」
あ……忘れてた………。
明日は、ずっと病院に居られる気になっていた。
日曜日だっていうのに、行かないというのも、遙が可哀相だ。
どうする………。
パタパタパタパタ……。
軽やかなスリッパの音が台所の方から向かってくる。
「孝遙、おとーさんはね、明日、用事が入っちゃったのよ」
サンキュ……茜。
いつものように、孝之に対しては茜は言葉をゆっくりと切って発音する。
「えー…それじゃあ、遊園地いけないの……?」
「よっと…」
靴を脱ぎ終え、立ち上がる。
孝遙の頭に手を乗せて、オレは優しく髪を撫でつけた。
「用事は午前中に終わるから…午後から遊園地にいこう」
「ホント!?」
「……大丈夫なの?」
茜がちょっと心配そうな顔でオレを見る。
「ああ……茜は孝遙を連れてきてくれるか? そうだな…一時に入り口で…」
「ええ…そうね。そうしましょう」
「ねえ、おとーさん、お風呂入ろ!」
あ、風呂が先か……?
「くすっ……それじゃ、出る頃に食べられるようにしとくわ」
「ああ…頼む」
当たり前の家族のやりとり……。
もう、それが慣れっこになっていて……いつしか当然のことになっていた。
母として……そして、妻として……茜はよくやってくれている。
遙が母だと明かしたら、孝遙はどう思うだろう?
裏切られたと思うだろうか……?
今まで母だと信じてきた茜に対して、どう思うだろう……?
茜は……茜はどうするんだろう……。
「ねえ、おとーさん、どうしたの?」
「あ……ああ……なんでもない……それじゃあ、風呂に入ろうか」
「うん! あのね、今日ね、隣のクラスでね………」
本当にいい子に育ってくれた。
素直で、優しくて……。
風呂場に向かって駆け出した孝遙を見つめ、オレはそんなことを考えていた。
*****
コンコン。
「はい、どうぞ」
ドアを開け、遙の枕もとに近づく。
「あ……孝之君……」
「調子は?」
「うん……大丈夫……」
首をオレの方に向けて、遙が微笑む。
「そこまで動くようになったのか……」
「うん……先生もね、回復が早いって驚いてた」
遙が嬉しそうにオレの目を見る。
「遙はがんばり屋だからな……だけど、あまり無理はするなよ」
「うん……あのね……」
「なんだ?」
「みんな……今、何してるの?」
「何って……」
「いろいろ、知りたいの……私が眠っている間に何があったのか……」
話しはじめると、歯止めが効かなくなりそうな気がして、オレは何も言えなくなってしまう。
「教えてくれないの………?」
「少しづつ……な……」
「うん……わかった……」
ごめんな……そんな寂しそうな顔をされても……今はまだ……。
「ね……おまじない、覚えてる……?」
「オレをなめるなよ。しっかり覚えてるさ」
「手を……握ってくれる?」
「ああ」
オレは布団の中に手を入れて、遙を指を絡ませた。
「夜空に星が瞬くように……」
二人の言葉が重なる。
「溶けたこころは離れない……」
このおまじないを、また遙とできる日がくるなんて……。
「例えこの手が離れても……」
もう少しで諦めそうになることもあった……。
「ふたりがそれを忘れぬ限り……」
だけど、もう離さない。
「な? ちゃんと覚えてたろ?」
「孝之君すごい……11年前のことなのに……」
喜びと安堵が浮かぶ遙の顔。
そう、この顔を守りつづけたい……だからオレはやってこれたんだ……。
「今日は午後から用事があるんだ……」
「うん」
少しだけ寂しそうな顔。
だけど、そこに不安の色は無い。
「話し疲れたろ?」
「うん……少し…」
「じゃあ、眠るといいよ。眠りつくまで、手を握ってるから」
「うん……嬉しい………」
目を閉じた遙は、ほどなく安らかな寝息を立て始めた。
オレは起こさないように気をつけながら、手を布団から抜いた。
「起きるまで居てやりたいけど……」
いや、居てやりたいじゃない……居たいってのが本音だ。
子供の顔も見せてやりたい。
お前はこんなにがんばったんだぞって、誉めてやりたい……。
それを話すときには、茜とのことも伏せてはおけない。
やっぱ、無理あるよな……それに、何度も何度も嘘をつきたくはない。
腕時計――去年のオレの誕生日に茜がくれものだ―――を見て時間を確認する。
「それじゃあ、オレ、行くから……また、来るよ」
風を感じたいと開け放っていた、窓を閉じる。
顔に直射日光が当たらないようにカーテンを半分引き、オレは病室を後にした。
*****
日曜日ともなると、遊園地は家族連れでいっぱいだった。
どの家族も、子供に振り回されながら、園内をいったりきたりしている。
「ふう……」
うちも例外ではない。
急かされるままにあっちを見てこっちを見て……。
「おとーさん、何してるの? こっちこっちー」
孝遙が遠くで手招きをしている。
「孝遙、ソフトクリームでも食べない?」
茜が苦笑混じりに孝遙を呼び寄せる。
「え? 食べる食べる」
とててててててててて……。
ナイスフォロー。
目を輝かせて走り寄ってきた孝遙とオレをベンチに座らせ、茜がソフトクリームを買いにいく。
「おと―さん」
「ん?」
あたりをきょろきょろ見回して、孝遙がオレの顔を覗き込む。
「おかーさん、どうかしちゃったの?」
なに?
………なにか有ったのか!?
「ん? どうしてだ?」
務めて平静を装おうとするが、少し声が震える。
「だってさあ……おとーさん、耳かして」
孝遙が真面目くさった顔を近づける。
腰をかがめるようにして、耳を傾ける。
もしかして……一人で泣いて……それを見られた……?
それとも、子供特有の鋭さで……なにか違和感を感じている…?
「あのね………」
ドクンッ
「うん……」
「わーーーーーーーーーーーーーっ!」
キーーーーーーーーン。
予測すらしていなかった大音量の黄色い声。
「た……孝遙……」
「えへへ……」
えへへじゃねえ。
どこでこんなことを覚えてくるんだか。
「えへへへへ……ひっかかったひっかかった」
「こらっ」
まだ残る耳鳴りに悩まされながら、オレは安堵した。
まったく……心配しちまったじゃないか……。
「はい、買ってきたわよ。………あれ、どうしたの?」
「あの、あのね…おとーさんが、おとーさんがね………」
また真面目くさった顔。
気をつけろ。
そんなフォローをする時間もなかった。
「おとーさんが、どうかしたの……?」
茜は心配そうに口に手をそえている孝遙の顔に耳を近づけた。
「わーーーーーーーーーーーーーっ!」
「きゃっ」
ぽと……べちゃ。
驚いた茜の手から、ソフトクリームが地面に落ちる。
「あ……」
孝遙はしまったという顔をして、潰れたソフトクリームを見る。
「………孝遙ぅ」
腰に手を当てて、茜が孝遙を見下ろす。
「あ………」
たじたじとなった孝遙は、それでも茜の顔を見上げていた。
目を逸らすことさえ出来ないのかもしれない。
「ごめんなさいは?」
「あ……う……」
「孝遙は、おかーさんに心配かけて平気なの?」
「ううん…」
茜の迫力に押されながら、孝遙がブンブンと首を横に振る。
「そう。じゃあ、謝れるわね?」
「………ごめんなさい」
「はい、それじゃあ、この話はこれでおしまい。また買ってくるわね」
「ううん……もう、いい……」
孝遙なりに、ショックだったのだろう。
茜からこんな反応が返ってくるとは思わなかったのだろう。
「食べたくないの?」
「おかーさんが、ここに居てくれた方がいい……」
茜は嬉しそうに微笑み、孝遙をオレの隣に座らせた。
「ほんとうにこの子ったら………だけど、なんでもなくてよかった…」
茜が孝遙の横にストンと座る。
なんだろう……こんなこと…前にも有ったような……。
誰かを心配して…そうしたら、それはただの冗談で………。
遠い昔……確かに……。
「……人の心をこんなふうに弄んじゃだめよ」
「うん……」
そうか……。
「なんだか、思い出すな……」
「え?」
きょとんとした目で、二人がオレを見る。
「いたずら好きで、あの頃は振り回されてばかりだった……」
「あっ……」
茜も当時のことを思い出したようだ。
「あの……あの時は…本当に………ごめんなさい…」
電話でオレを呼び出して……心配で走っていった、なんてことがあった。
「?」
きょとんとした目で、孝遙がオレと茜の顔を見比べている。
「もう、いいって……オレはちゃんと謝ってもらったんだし」
「ううん……どんな気持ちだったのか……今わかったから…」
「そっか……」
つまり、今の『ごめんなさい』は、当時わかってないなりに言った『ごめんなさい』に対してなんだな……。
「ね、孝遙」
「え?」
「ソフトクリーム、本当にもういらないの?」
「うーんと……いる……」
「じゃあ、買ってくるわね。おとなしく、待っててね」
「うん…」
立ち上がり、売店に向かう茜の後姿を見つめながら、孝遙が膝の上に乗ってくる。
「ねえ…おかーさん……ゆるしてくれたかな……?」
「大丈夫だよ……」
「よかったあ…」
孝遙の頭を撫でながら、オレは流れる雲を見上げていた。
*****
遙はベッドの上に座れるぐらいに回復していた。
そろそろいいだろう…。
そんな思いもあって、オレ達……オレと水月は揃って遙の見舞いに来た。
ふっと会話が途切れる。
「今まで言えなかった……だけど、言っておかないといけないことがあるんだ」
「そんな改まって……どうしたの?」
水月はオレの隣で、じっと遙を見つめていた。
「うん……」
「孝之君……?」
もう、終わったことなんだとは言っても……。
一旦は待ちきれなかった…。
その事実を考えると…。
「オレと水月……一時付き合ってた……」
「………うん」
「きちんと話そうと……そう決めていたんだ……結局、水月とは別れたけど……」
裏切った事実……待ちきれなかったという事実は変わらない……。
「ありがとう……教えてくれて……」
「遙……」
「だけど…そんな気はしてた……」
それほどショックではない……?
「だけど、どうして……?」
「ごめん……」
「どうして……別れたの……?」
「遙……それは……」
8年前に目覚めたこと……それはまだ重過ぎる内容かもしれない。
「オレ自身……フラフラしてたんだと思う…」
「そんな……それじゃ、水月が……付き合ってたときの水月が可哀相……」
水月は黙って聞いている。
あの時の感情が、本物だったってことは、解ってくれているはずだ。
「いや……言い方が悪かった……」
「…………」
「オレは、当時遙と同時に、水月をも………」
現実に触れ合えるだけ、水月への想いが勝っていたかもしれない。
いや……どっちが大きいとか、そんなんじゃない……。
「今は……?」
今……オレは……遙と茜に対して……比べようもないほどの想いを持っている。
だけど………。
「だたの悪友かな」
それまで黙っていた水月が、遙に笑いかける。
「水月……」
「だって、慎二の方がしっかり者だもん」
「ちぇっ」
「ごめんね、泥棒猫みたいな真似しちゃって……」
「ううん………好きって思いは止められないから………」
結果が出ていることだから……だからそんなふうに思えるのかもしれない。
「それに………」
「ん?」
「水月と孝之君だったら……お似合いだったかも……」
ふっと、水月が半目になる。
「冗談言わないでよ。こんなの」
「こんなのだあ?」
「もう大変だったんだから。聞いてよ遙」
くそう……オレは無視かよ。
水月はオレを押しのけるようにして、遙の前に移動した。
ま…変にしんみりなるよりはいいけど……さ。
それでも、こっちの顔色をうかがいながら水月はオレの失敗談なんかを遙に報告した。
「はやく復調して欲しいな……式には間に合って欲しい」
「うん……がんばる。私も出たいから…」
嬉しそうに微笑む水月の笑顔がまぶしい。
「退院できてなくても……外出許可もらっちゃうから…」
「嬉しいけど、あまり無理しちゃダメだよ?」
「うん……」
まあ、その場になったら、無理してでも行きたがるだろうけど…な。
とりあえず、一つは心に抱えてるものを吐き出せたという安堵感。
それより重い問題をまだ抱えているという不安感……。
「そうだ、許可が出たら、携帯の端末でも持ってきてやるよ」
「ええと……?」
11年前……すでに有ったとはいっても、誰もがインターネットの端末を使っているというわけでも無かった。
携帯電話の普及でその兆しは見えてはいたが、今では情報ツールを携帯していない奴の方が珍しい。
オレ自身も時代に取り残されつつ、最近ようやっとメールのやり取りや、WEBの徘徊を覚えたばかりだ。
「現代の情報を得るには最適のツールだよ」
「へえ、孝之もやってるんだ? メアド教えといてよ」
「ああ……これでいいか?」
オレは会社の名刺を出して、水月に渡した。
「サンキュ」
「名刺? あ……そうだよね…もう、社会人なんだ……」
時間に取り残されたことが、実感として沸いてきたようだ……。
意識がはっきりしていても、すこしづつ慣らさないといけないっていうのは、こういうことなのか……。
少し、寂しそうな顔になった遙を見ていると、香月先生の言ったことが、少しだけ解ったような気がする。
「あーっと……遙、機械類、いじくれる?」
まだ、早いかもしれない……無防備に情報の波にもまれたら、どうにかなってしまうかもしれない……。
「え……うん……少しは………」
「そっか……じゃあ、端末はやめとくよ」
まあ、今の段階で、許可なんか出るはずもないし……な。
「えっと……」
「用語自体わからないか?」
「うん」
ちょっと恥かしそうな顔。
寂しそうな顔をされるとたまらない。
だから、少しだけほっとする。
「じゃあ、退院したら、そのあたりも含めて教えてやるよ」
「うん……がんばるね」
文明、文化の進むスピードは、現代に近づくほど上がってるらしい。
11年か……。
オレ達にとっては、直接感じられた流れの中に、いきなり放り出される遙。
守ってやる……オレが……。
夕焼けに赤く染まった日の光が、斜めに病室に射していた。
面会時間の終わりまで、オレ達は思い出話に興じつづけた。
*****
いよいよ………か。
どう思われるだろう?
どんなことを言われるんだろう?
もし、それで……遙がおれに愛想をつかしたら………。
遙は一人で車椅子で院内を動き回れるほどに回復した。
そろそろ、情報の制限は無しにしてもいいと、先生は言った。
孝遙は、待合室でお母さんと待っている。
オレと茜の二人で、先に病室の前まで来た。
念のため香山先生も一緒だ。
「すう・……」
大きく深呼吸。
コンコン。
「はい、どうぞ」
病室に入り遙の顔を見ると、決心が鈍る。
遅かれ早かれ、どうせ解ってしまうことだ。
だけど………。
「どうしたの、孝之君?」
「兄さん、後がつっかえてるんですけど?」
ぐいぐいと茜に背中を押されてオレは遙のベッドに近づいた。
先生は少し距離を置いて、オレ達の様子を見ていた。
「あのな……先生が、もう大丈夫だろうって……」
「大丈夫……?」
遙が不安そうにオレの顔を覗き込む。
「全ての情報を……今まで言ってなかったことを……言ってもいいって……」
「そう……まだ………なにか……」
遙が視線を落とす。
余計に不安にさせてどうするんだ……情けない。
「実は、遙が目を覚ましたのは、今回が初めてじゃない」
「え……? だって………」
やっぱり覚えてないのか……。
先生の言った通りか………。
「そのときは、意識が混濁してて、でも少しづつ、はっきりしてきて………」
はっきりと思い出せる、そのときの会話……。
「夢を見たの……茜がいて、孝之君がいて………ショートカットの水月がいて……」
遙がぽつりぽつりとつぶやく。
今の水月の髪型は……学生時代よりは短いものの、ショートではない。
「遙……」
「心配そうで、だけど、なんだかすまなそうで………」
記憶のどこかには残っていたのか……?
「そう……そのとき、水月と孝之君は付き合ってたのね?」
「………ああ」
「そして……私が、目を覚ましたから……だから…」
悲痛な顔を見ていると、何もかもを否定してやりたくなる。
「だから、水月と……別れた……のね……」
「あのまま続いていても……いずれ終わってたよ」
これは、多分……嘘だ。
「………………孝之君」
「ただのきっかけだよ。オレには遙がいるんだから……」
目を覚ます前……遙はオレの中ではいつのまにか死んだことになっていた。
目を覚ましたとの一報を受けたとき、オレの中では…。
遙が目を覚ました、ではなかった。
遙が生き返った……そんな印象だった。
「水月が……可哀相………」
「…ちょっといいかしら?」
それまで黙って聞いていた先生が、遙に近づいた。
「夢って言ったわね? 夢の中で、なにがあったのか、覚えてる?」
「いいえ……ただ、居たということだけです……」
「そう……」
遙の肩が震えている。
自分のせいで、親友の幸せを壊してしまったと……そう感じているんだろう。
「今日はここまでにしておきましょう」
先生がその様子を見かねて、オレ達に向き直った。
「はい……」
「………がい…」
病室を出る準備を始めたオレ達の背中に、遙が言葉を投げかけた。
「……お願い……全部、聞かせて……」
「だめよ」
先生がオレ達との間をさえぎるようにして、遙の前に出た。
「お願いします……私は大丈夫です」
「いいえ、意地悪をしてるわけじゃないのよ?」
「お願いします」
「遙さん…………ふぅ」
ため息をついて、先生が横にずれる。
「いいわ、その代わり、体調にまで異変がでそうだったら、話の途中でも終わりにするわよ」
「はい、ありがとうございます」
「全部、話してあげて……」
先生は、再び、オレ達から離れていった。
「遙、大丈夫か?」
「うん……もっと、いっぱい……誰かに迷惑をかけてるかもしれない……」
「姉さん……」
「それを知らないで……このままなんて、耐えられない……」
遙の瞳には断固とした決意の色が浮かんでいる。
どんなことがらにも耐えてみせる、その瞳はそう言っていた。
「8年前の夏・……遙は目を覚ました」
「………うん」
「オレ達四人、それから、お父さんお母さんも、茜も…みんな見舞いに来た」
わざわざ茜に拒絶されたことまで、今言うことはない。
「兄さん……」
「たまたまそのときに……水月と別れた……」
遙が、シーツの上に投げ出した拳をぎゅっと固める。
「そして…オレは……オレと遙は、ここで…結ばれた」
「え……?」
オレが何を言ったのか、すぐには理解できなかったようだ。
「え…私……孝之君と………?」
黙って頷くと、遙は恥かしそうにうつむいた。
「どうして、他に人がいるのに、こんなことまで言うのか……ちゃんと理由はある」
「……うん……聞かせて……」
シーツをぎゅっと掴んで、遙はまっすぐにオレの目を見た。
「そのとき、遙とオレの間に……子供が出来たんだ」
「え……あ……嘘……でしょ…?」
「本当よ、姉さん」
首を振るでも、返事をするでもないオレに代わって、茜がそれに応えた。
「子供……私に……それで…」
「…今、小学生だ」
「私……子供、産んだんだ……」
「オレと遙の子供だ……孝之の孝に遙、孝遙って名づけた」
「そう……私は母親………なんだ……」
退院したらと、いろいろと考えていたこともあっただろう。
子供がいるとなると、それらが全て実現できるとは限らない。
一人の人間を育てるというのは、そういうことだ。
「孝遙……私の…子供……孝遙……」
遙は呪文のように子供の名前を繰り返した。
どんな思いがそこにあるのか……オレにはわからない。
遙のことでわからないことがあるのが、もどかしくて悔しい。
「うん…孝遙……いい名前ね」
遙はにっこりと微笑んだ。
「そ、そうか……あと……な………」
実は、これが一番怖い……。
どれだけ遙が妹を大事に思っているか……解っているつもりだ。
だから、この事実がどれだけ遙を苦しませてしまうのか……容易に想像はつく。
「え……まだ、なにか………?」
ああ、今日は何度こんな顔をさせたのだろう……。
真剣な顔でオレの目を見つめる遙。
喉まででかかった言葉が……そのまま出てこなくなる。
「上手く話せそうにないみたいだから、私が……」
「だけど……」
「変な話し方して、誤解されても、嫌でしょ?」
変な話し方ってなんだよ……。
事実は一つだろう?
オレは………茜を遙の代役に……。
「姉さん…先に言っておきたいの」
「……なにを……?」
「これからする話は、姉さんにとって、辛い話かもしれない……ううん、きっとそう…」
「茜………」
「だけど、兄さんを責めないで欲しい……兄さんを信じてあげて欲しい……」
茜は強い……。
いや、違う……オレが…オレが弱すぎるから……そうなるしか…なかったんだ……。
「オレが言うよ」
「いいから……黙ってて……」
毅然とした態度に、オレは何も言えなくなってしまう。
「子供には、母親が必要……」
「…………」
何かを伺うような視線……。
これから聞かされることが、なんとなく解って、聞きたくないけど、そういうわけにもいかないと…。
そう解っている表情……。
「姉さんが目を覚ますまでの期間限定で、私、孝遙のお母さんやってました」
ご飯の支度、代わりにやっておいたよ。
そんなことを言っているような軽い口調。
それが、かえって剥き出しのナイフのようにオレの心をえぐる。
茜の気持ちはわかってるから……。
「茜……そんなこと………」
「本当は独りで待ち続けよう……オレはそう思っていたんだ……」
子供のせいにするのか?
……オレ自身望んだことではなかったか?
「茜………一つだけ聞かせて……」
「…うん」
「孝之君のこと……」
「ふうっ……それを聞いちゃいますか、姉さん」
仕方ないなあ、姉さんは……。
そんな言葉が後に続きそうなほど、あっけらかんとした言い方。
「好き……愛してる……兄さんとしてではなくて、一人の男性として……」
「あ……茜……」
大切な存在を心配するとき、気遣うとき……人はこんな顔をするのか……。
遙の茜に対する思い、その深さゆえに大きい苦しみ。
痛いほどわかる……。
「もうっ、そんな顔しないで、幸せだったんだから。これからは、姉さんにバトンタッチ……いいでしょ?」
明るい声……だけど震えている。
「だけど、そんな………」
「私ね、姉さんと幸せそうにしている兄さんが好きなんだと思う……だからっ……」
声を詰まらせ……それでも気丈に茜は続けた。
「だから、これからはもっと幸せになれるの」
「そんな……茜……」
茜は遙のベッドに突っ伏した。
「良かった……目が醒めて……よかった……うっ…うっ……」
自分が一番辛いなんて、思い込んでなかったか?
オレは……自分が情けない……。
「うっ……うっ………」
声を押し殺して、茜は泣きつづけた。
そんな茜の頭を、遙が優しく撫でる。
いつまでそうしていただろう。
茜は顔をあげ、遙の顔を見つめた。
「姉さん、孝遙に会うでしょ?」
「え……来てるの……?」
「……まだ、何も話してないから……辛いかもしれないけど…やめとく?」
「ううん……連れてきて……」
「うん……ちょっと待ってて…」
茜が涙をぬぐって、病室を出て行く。
「孝遙は……茜のことを母親だと思っている…」
「うん……」
「……ごめんな」
「ううん……謝るのは私のほう……こんなに……待たせて…」
コンコン。
「おねーちゃん、起きたんだあ?」
勢い良く入ってくる一陣の風。
孝遙は遙のベッドにとりつき、食い入るようにその顔を見つめた。
「あなたが……孝遙……」
「うん! ずーっと起きないから、ぼく、そのうち目覚ましもってこようかと思ってたんだ」
「……ありがとう。孝遙は優しいね」
「だって、ぼく、一緒に遊びたかったし。ねえねえ、お外に遊びにいこ?」
「ごめんね……まだ、お外には出られないの」
孝遙の頬がぷうっと膨れる。
「えー、楽しみにしてたのに」
「早くお外に出られるようにがんばるから……ね?」
「ホント? 約束だよ?」
小指を立てて迫る孝遙に、嬉しそうに遙が小指を絡める。
「指きりげんまん、嘘ついたら、針千本の〜ます」
「遙……がんばらないとな……」
「うん……うん……」
「おとーさんいけないんだ」
「え?」
「おねーちゃんって、おかーさんのおねーちゃんなんでしょ?」
「あ…ああ……」
遙の前で、そう答えるのは……とても痛い。
「おねーちゃんを呼び捨てにしたら、だめなんだぞ」
「いいのよ、孝遙」
「どうしてさ?」
「お友達だから……ずっと……ずっと昔からのお友達なんだから……」
はらはらしながら……気遣いながら……オレ達のやりとりを茜がじっと見つめている。
「そっかあ…」
いつかうまく説明できるかな……遙のこと………。
「おとーさん、おとーさん」
「ん? なんだ?」
「あのさ、ぼくが小さいときに貰った絵本、おねーちゃんに持ってきてあげていい?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、次に来るときに持ってくるね」
「うん、待ってる」
「えへへ………おねーちゃんってさ……」
「え…なあに?」
はにかんだ顔を向けられて、遙も少し照れくさそうになっている。
「すっごく懐かしい感じがするの…どうしてかなあ……」
「懐かしい?」
「ずっと、ずっと前に…お話ししたことあるみたいなんだけど………」
孝遙が頭をひねって、さらにまじまじと遙の顔を見つめた。
「えっと……初めて……じゃなくて……?」
「ぼく…水の中に、潜ってるの……それで……」
自分の言葉にきょとんとなる孝遙。
「へんだよね? 水の中で、息をしなくて平気なんて……あれ…?」
じわっと、遙の瞳に涙があふれ出た。
「おねーちゃんも思い出した……」
「え? やっぱり、お話ししたことあるよね?」
「うん……孝遙には、励まされたのよ……覚えてる?」
「うーん……あれ、どうして泣いてるの? ぼく、なにかしちゃった? どこか痛いの?」
「ぼくもがんばるから、がんばって……そう言ってくれたの…思い出した」
「え? え? ぼく、そんなこと言ったんだ?」
「そうよ……ありがとう、孝遙」
不思議だ……。
さっきまで、不安に怯えていた遙が……すっかり、母親の顔になってる。
母と子の間には……特別な何かがあるんだろうか……?
「泣かないでよ。ぼくどうしたらいいかわからないよ…」
女の涙に弱いのは、オレ譲りか……。
「それじゃあ、そろそろ帰るか?」
「え? だって…おねーちゃん泣いちゃってるよ……」
「また、来よう。明日学校から帰ったら…な?」
「う、うん・……」
「じゃあ、また来るよ」
心配そうに振り返る孝遙の手を引いて、オレは病室を後にした。
きっと、自然にわかりあえる。
魂の一部がつながっているから……。
*****
日曜参観。
孝遙は、茜にも学校に来て欲しいと、ねだった。
水月の紹介で、茜はスイミングスクールのインストラクターをやっている。
「あ…兄さん…久しぶり……」
待ち合わせ場所にきた茜は、バツが悪そうな顔をする。
「最近忙しいのか?」
「うん……けど…そのぐらいのほうが…いい」
「茜……」
「もう、やだなあ! 会うたびにそんな顔するから、会いにくくなっちゃうの!」
茜が遙の肩をポンポン叩く。
「ごめん……」
遙にしてみれば、自分が茜から家庭を…子供を奪ってしまったという感覚なんだろう。
「ところで姉さん、少しは料理の腕、上達したの?」
「あ…うう……」
「主婦歴2年なんだぜ…無理言うなよ…それに、いきなり学生から主婦になったようなもんなんだし」
「はいはい、相変わらずお熱いですねえ」
茜はパタパタとシャツの胸のあたりを掴んで、大げさに前後に揺らしてみせる。
「もう……茜ったら……」
相変わらず、遙の反応は初々しい。
昔は茜もそれを楽しんでいる部分もあったんだろうが、今は見ていて辛い。
「なあ……茜……」
「え?」
「昨日遙とも話したんだけど……もどってこないか?」
退院してしばらくは、四人で住んでいた。
遙が日常生活に支障がないくらいになると、茜はだんだんと帰ってこなくなった。
フェードアウト……そんな言葉が似合いそうなくらい緩やかに……。
茜はオレ達の家庭から、距離をおこうとしていた。
「孝遙のこともあるでしょ? 姉さんのことをお母さんって呼べるようになって……これからだっていうのに……」
「そうだな……ごめん…」
「ほらっ、それより時間! 遅れちゃうよ」
*****
少し目立ちはしたが、オレと遙、それから茜は一緒に教室へと入っていった。
授業の内容は、作文。
それぞれの生徒達が、思い思いの文章を誇らしげに読み上げる。
「それじゃあ、次は、鳴海孝遙くん」
緊張する…。
遙も茜も、これ以上はないというぐらい張り詰めた顔をして見ている。
「はい!」
元気よく立ち上がる我が子の姿が誇らしい。
「僕のお母さん。3年2組 鳴海 孝遙。
僕には、二人のお母さんがいます………」
孝遙……。
お前…………。
「………でも、最近茜お母さんはおうちにいることが少ないです。
お仕事が忙しいのかもしれないけど、とても寂しいです。
遙お母さんも、お父さんも寂しそうです。
僕はむずかしいことは解らないけど、もっともっと
四人で一緒にいたいです」
二人を見ると……涙を懸命に堪えていた。
涙で歪ませるにはもったいないぐらい立派に成長した我が子の姿を、じっと瞳に焼き付けようと…。
おわり
あとがき
勢いにのって、調子にのって、また書いてしまいました。
この作品って、プレイした人ごとに、その後のイメージがあると思うので、
「ンだよ、これ。ぶちこわし」なんて思う人もいるかもしれません。
実はこれ、1stプレイのときに自然にいってしまったエンディングなんです。
で、すごく気に入ってるんです。
どうして、こんなに気に入ってるんだろう・・・。
みんなが幸せに・・・という部分からは外れていますし、それぞれの弱さが前面に出ていますが・・・。
それでも懸命に生きている、そんなところが好きなのかもしれません。
最後まで読んで戴いて、ありがとうございます。
ちゃあるの感想
このお話は、僕が最初に匿名のMさんに見せていただいた物語です。僕このエンディングは正直好きではないと思ったのですが、この話を読んで、うまくみんなを幸せにしてるな、と思いました。
「物語が不幸なら、SSの書き手がみんなを幸せにする」
自分でもわかっていたはずなのに、実はわかっていなかったと、そう言う思いを持たせてくれました。
個人的には、茜が孝遙を叱るところが、好きですね。
また、こういう話を読ませてもらえたらな、と思います。
感動を、ありがとうございました。
あ、最後に一つツッコミ(既に本人には伝えたので、公開ツッコミですな)
子供のセリフは、漢字が少ない方がそれらしく見えると思います。
・・・褒めた感想ばかりになるのもアレなので(ごめんなさい!)。