君が望む永遠 サイドストーリー「君ができること、僕ができること」Ver1.00
#3
それから2ヶ月。俺はバイトと遙とのデートの合間を縫って教習所に通いつめた。若干会う回数が減り、遙は不信そうな顔を見せたが、何とかごまかし通した。すでに免許を取っている慎二に仮免教習に付き合ってもらったりもした。
そして今日、免許センターで無事試験に合格したのだ!
ついにやったね。俺。
やっぱこれってラヴの力ってやつ?
俺は浮かれながらこの喜びを誰に伝えようか考えた。
なーんて、そんなの一人しかいないジャン。
俺は携帯から遙に電話をかける。
プルルルル・・・。
『はい、涼宮です』
「あ、もしもし、鳴海ですけど」
『あ、鳴海さん? 茜です』
「あれ? 茜ちゃん・・・学校は?」
『やだな、今は試験休みですよ・・・水泳の練習は、あるけど・・・』
「そっか、もう12月だもんな。ところで・・・」
『姉さんですか? ちょっと待っててください』
保留音が流れる。
『もしもし・・・』
「あ、もしもし遙?」
『孝之君・・・こんにちは』
「ああ、こんちは」
『どうしたの? こんな時間に』
「ああ、見せたいものがあってね。これから、家に行ってもいいかな?」
『うん、大丈夫だよ』
「じゃあね、今ちょっと出先だから・・・1時間くらいで行くと思う」
『うん。待ってるね』
「おう、じゃまた」
『うん』
俺は携帯を切ると、駅への道を走り始めた。
「ジャーン」
「あ、運転免許証だ」
「え? え? どうしたの?」
「今日取ってきたのだ!」
自慢げな俺。何しろ筆記も実地も一発合格だからな。
・・・落ちたら、金が足りなくなってしまうってのが、やっぱ大きかったな。うん。
「ここしばらく、何かおかしいと思ったら・・・教習所通いでしたか・・・」
茜ちゃん・・・そんな冷ややかな目で見ないでくれ・・・。
「う・・・いきなり見せて・・・遙を驚かせたかったんだよ・・・」
茜ちゃんの視線に押されて、落ち込み気味の俺。
やっぱ、遙に会う回数も減っちゃったのはまずかったか・・・。
「こ、これで遙をいろんなとこに連れていけるぞ。海でも山でもどんとこいだ」
「わあ、嬉しいな、孝之君」
素直に喜んでくれる遙。くう、可愛いぜ。
「で、車は?」
「は?」
「車。自動車の免許を取って、姉さんを連れてどこかに行こうって言うなら、当然、用意してあるんですよね?」
ガーン!
「わ・・・忘れてた・・・」
俺の言葉に、茜ちゃんが心底呆れたような表情で大きなため息をつく。
「鳴海さんってホントに、いつもどこか抜けてるんですね」
「ええ? それじゃ、出かけられないの?」
呆れた表情の茜ちゃんと残念そうな遙を交互に見て、何も言えなくなってしまう。
「・・・うう・・・ゴメンナサイ」
ぺこっ。
深々と頭を下げる。
「・・・まあ・・・レンタカーを借りるとか、いろいろ方法はありますけどね」
茜ちゃんのフォロー。そうだよ、その手があるではないですか。なんだ、こんなに落ち込んで損しちゃったな。
・・・いや、車のことを完全に忘れていた時点で、反省の必要があるが。
「そうだね。そうしたら早速、次の休みにでもどこか行こうか」
「え? ほんと? 嬉しいなあ」
「おう、本当だ。どこ行きたい?」
「えーっとね、うんとね・・・海・・・は近いから・・・山のほうがいいかなあ。あ、でも、今は寒いよね」
「・・・それは海も同じかと」
「そうだね。じゃあね、じゃあね・・・うーん・・・」
誕生日のケーキを選ぶ子供みたいな表情で、遙が悩んでいる。
そんな、仕草の一つ一つが愛おしく思う。
「そうだ、温泉でも行く?」
ふと思いつき、言葉にする。
「あ、うん。行きたいな」
嬉しそうに遙が微笑む。そう、この笑顔が見たくて、俺は2ヶ月頑張ったんだよ。
免許を取って、本当に良かった。