君が望む永遠 サイドストーリー「頑張らなくっちゃ〜遙の一日〜」Ver1.00
#3
「いらっしゃいま……あれ? 遙?」
入り口で迎えてくれたのは、孝之君だった。
「えへへ……来ちゃった」
「え、あ、うん。いらっしゃい」
照れる孝之君。なんか可愛いな。
私も、赤くなってるかな。頬が、なんか熱い。
「えと、席、どこがいい?」
「あ、うん。どこでもいいよ」
「で、では、こちらへどうぞ」
孝之君はそう言って私を案内する。
窓際の禁煙席。奥のテーブルに案内してくれた。
「ゆっくりしていって。あとで注文を取りにくるから」
「うん。ありがとう」
孝之君はぎこちない笑顔で微笑む。いきなり来たから、照れてるのかな?
私はメニューを広げる。
あまりおなかは空いてないから、紅茶でいいかな……。
「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりでしょうか?」
孝之君じゃない、女の子が注文を取りに来た。髪を両脇でまとめてる、ちょっと目がキツそうだけど、かなり可愛い子だ。
「あ……ミルクティーを」
「ミルクティーかしこまりました。以上でよろしいですか?」
「あ、はい」
「ご注文を繰り返します。ミルクティーお一つ。以上でよろしいですか?」
「あ、はい」
「今ならサーロインステーキとかチョコレートパフェとかが付きますけれどもいかがですか?」
「え、ええ?」
「いっそのことメニューの端から端まで注文していただくというのはどうでしょうか?」
女の子は笑顔のまま、続ける。
え? どういうこと?
あわわわわ……。
どうしよう?
「こらこらこらっ大空寺っ、何やってんだお前」
孝之君が割ってはいる。私はほっと胸をなで下ろす。
「いいじゃん。どーせアンタが払うんでしょ?」
「そりゃそうだが……って違う! 勝手に注文を増やすなっ」
「なんでー、店がバイト代払ってるんだから、たまには還元しなさいよ」
「なんで還元などしなきゃならんのだっ。俺が代わるからさっさと他へ行けっ」
「んー? 店の中でいちゃいちゃする気かー?」
「するかっ」
「ホントにー?」
孝之君のことをジト目で見る彼女。
「うるせえ早く向こう行けっ」
孝之君はシッシッと彼女を手で追い払う。
「ちちくりーちちくりー」
遠くでさっきの彼女が何か言っているのが聞こえる。どういう意味なんだろう?
「大空寺めぇ……」
怖い顔で拳を握りしめる孝之君。怒ってるんだよね?
「あ……」
「ああ、ゴメン。えと、ミルクティー、だよね?」
私が何か言おうとしたのに気づき、孝之君が困ったような笑顔で聞いてきた。
「う……うん」
「ゴメンね。ああいう職場なんだ。ここって」
「え、えと……あ、明るくて、いいよね」
「いや……、無理して誉めなくていいぞ」
「ううん、本当にそう思うの。退院してから、あまり明るい雰囲気のところ、来てないから……」
「そっか。そういえば、本当にミルクティーだけでいいのか?」
「え?」
「何でも好きなもん頼んでいいぞ。俺が出しておくから」
「そんな、いいよ……」
「いいっていいって。んじゃ、チョコレートパフェ、追加な」
そう言って孝之君は手元で何か操作する。
「え? あ、うん……」
「では、只今お持ちしますので少々お待ちください」
孝之君がにっこり笑って会釈し、調理場へ去っていく。
孝之君……。
かっこいいかも……。
孝之君の制服姿も、他のお客さんへの応対も。みんな、私が知らない孝之君なんだ。
……さっきの、女の子とのやりとりも。
あれは……ちょっとうらやましいかな。
私もあのくらい、元気なら良かったのに。
「あ、先ほどはどうもありがとうございました〜」
ミルクティーを持ってきてくれたのは、さっきここに案内してくれた子だった。
「おでこ……大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
額には、大きな絆創膏が貼ってある。
「そう、良かった」
「はい」
彼女は笑顔で答えると、パタパタと去っていった。
「お待ちどう様でした」
入れ替わりで、孝之君がチョコレートパフェを持ってきてくれた。
「今日さ、ディナー前で上がりなんだ。あと2時間くらいなんだけど……」
「あ、うん。それじゃ、待ってる」
「ホント? じゃ、一緒に帰ろう」
「うん」
私は笑顔で答える。
ふふっ。
今日、ここに来て良かったな。
だって、孝之君と一緒に、帰れるんだもん。
最近忙しいのか、来てくれる日が減っちゃったから、ね。
今日くらいは、いいよね。