君が望む永遠 サイドストーリー「頑張らなくっちゃ〜遙の一日〜」Ver1.00
#5
「夕飯、どうする?」
駅へ向かう通りで休憩しているとき、孝之君が尋ねてきた。
「うーん、何でも、いいよ」
孝之君と一緒なら。
「そっか、でも『何でも』って言われると難しいな」
孝之君が首を傾げる。
「えっとね、じゃあね……ラーメンが、食べたいな」
「ラーメン、ねえ……」
考える素振りをする孝之君。違うのにすれば良かったのかな?
「……おう、じゃあそうしますか。柊町で確か雑誌に載ったラーメン屋があったと思ったな。そこ行ってみよう」
「うん」
一生懸命考えてくれた事に喜びを感じつつ、私は頷いた。
橘町の駅で家に電話をし、夕食を孝之君と食べてくることをお母さんに伝えると、お母さんは「なら、鳴海さんも一緒に家で食べれば良かったのに」と残念そうな声で言った。
孝之君は、お父さんとお母さんにも好かれているんだな、と思う。
でも、ごめんね。たまには、孝之君と二人でいたいの。
電車で柊町に戻り、駅前の地図で場所を確認する。
地図の前では、孝之君は私の手をギュッと握っていてくれた。
「多分、こっちだったと思うな」
「……うん」
私たちは繁華街を歩く。一本通りを入ったところに、その店はあった。店の外に、何人かの行列が出来ている。
「ちょっと、待ちそうだけど、ラーメン屋は回転が早いから大丈夫だろ」
孝之君がそう言うので、二人で一緒に並ぶ。
さすがに夜の風は冷たい。
不意に孝之君は無言で私の腰に手を回し、抱き寄せてきた。
「寒いし、疲れるだろ? 寄りかかってなよ」
「え、でも……」
「適材適所」
孝之君の笑みに頷き、私は孝之君に身体を預ける。
微かに、孝之君の鼓動が聞こえる。
トクン、トクン。
セーター越しに、孝之君の温もりを感じる。
そして、孝之君の匂い。
……ずっと、このままでいたいな。
でも、そうもいかないよね。
そんなことを思う内に、店内に入ることができた。ちょうど2つ並んでいる席に座る。
「身体、大丈夫?」
孝之君が、心配そうな目で尋ねてくる。
「うん……ずっと、孝之君に寄りかかってたから」
「そうか」
「うん」
私たちは、当店自慢と書いてある、とんこつラーメンを注文した。しばらく待つ間、私は孝之君に今日買った絵本の話をした。孝之君は、ずっと私の目を見て、話を聞いてくれた。
「おまちどうさま」
ちょうど一区切りしたところで、ラーメンが来た。
「替え玉OKですから」
店員がにこやかに言う。
「『替え玉』?」
「ああ、麺だけおかわりできるんだ」
「ふーん」
私はそんなに食べないけど、孝之君は結構食べるから、替え玉とか頼むのかなあ?
「……なんか、期待してるでしょ?」
「え? うん……わかる?」
「遙はね、ワクワクしているときの目が、わかりやすいんだよ」
そこが好きなんだけどな、と孝之君が付け加える。
え?
言葉の意味を理解した瞬間、顔が熱くなる。
耳まで赤くなっていくのが、自分でもわかるくらい。
「また赤くなってる。これじゃ迂闊に『好き』って言えないな」
「えええっ、それはダメだよう」
「冗談さ。それより、早く食べないとのびちゃうぞ」
「……孝之君のイジワル」
言いながら、ラーメンを食べ始める。
「……おいしい」
「な。驚いたよ。やっぱ行列が出来るだけあるよな」
孝之君は見る見る間に平らげ、替え玉を注文する。
あ、ホントに麺だけだ。
何か、面白いな。
結局、私が食べ終わるよりも早く、孝之君は食べ終わった。
「ラーメンはさ、スピードだから」
そんなことを言っても、食べられないのは仕方ないよね。
私はちょっとむくれた顔をした。